1112 邪気の使い方
回避と防御を行いながら、大精霊の周囲を跳び回って核を捜す。すると、フランの中に眠っているはずのマールが目覚めて、力を放ち始めていた。
『フラン、どうだ?』
(マールが導いてくれてる!)
フランが、大精霊の上半身を見つめる。マールのアシストで、今まで以上に精霊の気配を感じ取れているようだ。
このままいけば、すぐに大精霊の核を探し出すことができるかもしれない。
しかし、大精霊からもマールの魔力は察知されてしまっていたようだ。危険な相手を確実に排除するために、次なる手を打ってくる。
「がはっ!」
『フラン!』
「……!」
フランが咽るような悲鳴を上げると、その顔から一瞬で血色が失われ、白く変色していた。手で喉を押さえ口を動かしているが、声が出ていない。まるで窒息しているような――。
『そういうことか!』
俺は咄嗟に風魔術を使い、フランの口から風を送り込む。同時に、フランは激しく咳き込みながら声を取り戻していた。
「げほっ! ごほぉ! はぁはぁ……」
この世界の空気の構成なんか知らないし、生物が酸素を吸っているかどうかも分からん。ただ、呼吸に必要な何らかの物質があることは間違いないだろう。大精霊はそれを操作して、フランを窒息状態にしやがったのだ。
痛みや衝撃には慣れているフランだったが、窒息する経験は初めてである。さすがに、その動きが止まってしまっていた。
当然、迎撃の手は減り、大精霊の操る風が一気に押し寄せていた。
『うおおぉぉぉぉ!』
俺は大量の魔術を一気に起動し、周辺にばらまく。やばい、寒気がする。魔術の行使が限界を超えたのだ。それでも、フランの穴を埋めるには至っていない。
フランの体に無数の傷が穿たれ、血が舞い散っていた。
考えろ! どうすればいい! 転移で逃げる? ダメだ! ここで距離を取ったら、もう近づける気がしない! しかし、防ぎきれずに大ダメージをくらうよりはましか? なんとか、この攻撃を凌げれば、立て直せるのに! だが、そんな方法――。
ドクン。
一瞬、俺の中で何かが蠢いた。まるで、自分の存在を顕示するかのように。同時に沸き上がる、邪気。
邪神の欠片が、自分の力を使えと訴えている? そこまで考えて、俺はベリオス王国の湖で見た光景を思い出していた。
シエラが魔剣・ゼロスリードの邪気を使って、ゼライセのスキルを打ち消したシーンだ。邪神の欠片から力を借りることができる俺なら、同じことができるんじゃないか?
超高速で流れる思考の中、俺は即座に行動に移していた。迷っていられる時間などない。
力を貸せ、邪神!
邪神の欠片から応答があるわけではないんだが、邪気を引き出す際の抵抗が減っている気がした。
邪神の欠片から邪気を引き出す――というか、向こうから邪気を送り付けてくるような感覚すらある。シエラは邪気を鎖のように使い、相手に巻きつけて使っていた。
だが、俺は全周囲から降り注ぐ攻撃を迎撃せねばならない。だったら、鎖ではなく、壁だ。邪気の障壁を作り出せばいい。
『うおおおぉぉぉ!』
今維持している障壁も、迎撃の魔術も途切れさせることなく、新たに邪気の障壁を生み出す! 自身の限界を超えていることは分かるが、ここが勝負どころだ!
俺の狙い通り、邪気の壁が風の攻撃を完璧に打ち消し、一気に周囲が凪ぐ。
ただ、俺は少し驚いてしまった。拍子抜けと言ってもいい。邪気の障壁を生み出す際、その負荷が想像よりも少なかったのだ。まるで、何かが負担を分担してくれているかのように。
邪神の欠片が力を貸してくれているのは何となく感じるが、それ以外に――?
(師匠?)
『おっと。フラン、大丈夫か?』
(ん。急に、息できなくなった)
やっぱりそうか。
今は俺が風魔術で空気を循環させているが、相手は風の大精霊だ。風を操ることにかけては、この世でも最高クラスの相手である。いつまでもこれで、窒息攻撃を防ぎ続けることができるかも分からん。
(この邪気の壁。師匠?)
『ああ。ただ、魔力の減りがヤバい』
魔力吸収や魔力強奪を全力で起動しているんだが、消耗が凄まじい。このままだと、あと1分程度しか維持できないだろう。
(師匠。このままでお願い。核、見つける)
『分かった。俺は全力で守る。フランは精霊の核を捜すのに全神経を集中しろ』
(ん!)
フランにお願いされちゃあ、しくじるわけにはいかんな! フランの玉のお肌に掠り傷さえ付けさせんぞぉぉ!
同時演算を全開にして、俺は足を止めたフランを守る。邪気の障壁を維持するだけではない。フランの集中を乱さないように、できるだけ影響が出ないようにせねばならない。
微風で前髪が揺らぐことさえ、邪魔になるかもしれないのだ。より魔力感知や危機察知に集中し、邪気の障壁すら抜けてきそうな強力な攻撃だけを迎撃する。
『どりゃああああああぁぁぁぁぁ!』
大精霊の攻撃も、今まで以上に熾烈さを極めていく。威力も範囲も頻度も増し、俺たちの周りを暴風の壁が幾重にも覆うような状況だ。
フランが立っている場所を中心に、大地がすり鉢状に削り取られていくのが見えた。
魔力もヤバいが、悪寒が凄まじい。このままだと、痛みを感じるまですぐだろう。そこまで行ったら、本当に危険信号だ。
まだなのか? くぅぅぅぅ――。
(師匠! 分かった!)
『本当か!』
さすがフラン! 助かった!
(このまま突っ込む!)
『よっしゃぁ! 道を切り拓くのは任せろっ!』
「ん! いく!」
レビューありがとうございます!
アメリカからいただきました!
外国の方にもアニメを楽しんでいただけているとは!
師匠のメンタルは確かに親のようですよね。気づいていただけて嬉しいです。
皆さん、一気読みするのが早いですよね。
4日は、報告いただいた中では過去最速かもしれません。
有難いのですが、無理はしないでくださいね?




