1111 大精霊の攻撃
『魔術じゃなくて、直接攻撃だな。しかも、町に被害を出さないとなると――』
(突き)
『そうだな。それがいいだろう』
フランは俺と相談しつつ歩きながらも、魔力をしっかりと練り上げていく。まだ駆け出さない。
相手の出方を見極めているのだろう。
攻撃されるまでは、落ち着いて力を溜めるつもりであるらしい。相手は大精霊。脅威度で言えば文句なしにA以上の相手である。
下手な攻撃は効かないだろう。
核を見極めて、最大の一撃をぶち込む。それが最善手だ。
「くる!」
『おう!』
俺に精霊の挙動は感じられない。だが、フランにはしっかりと精霊の呼吸が感じられるらしい。相手の攻撃を察知し、動いていた。
今まで以上に鋭い一撃が、フランがいた場所を穿った。小さいクレーターとすら言えるような、深い穴が地面に開いている。
どうやら、大精霊も本気になったってことらしい。いや、排除対象から、明確な敵になったのかもな。
次々と放たれる風の槍を回避しながら、フランが壊滅状態の貴族街を駆け抜ける。周囲に人の気配はない。逃げたのか、それとも――。
早く町の外に出ないと、さらに被害が拡大するだろう。
単発の攻撃ではフランに当たらないと判断したのか、大精霊の攻撃が変化する。小さな風の弾丸が、ショットガンのように広範囲に降り注ぐようになったのだ。
しかも、一発一発がかなりの威力を秘めている。殺傷力は十分だろう。1つでオークくらいなら殺せそうだった。
そんな攻撃を連続で放たれれば、さすがのフランも逃げ場がなくなる。だが、フランは足を止めずに前に出た。
俺がどうにかすると、分かっているからだ。
俺はフランの進行方向へと風の壁を連続で生み出し、通り道を作り出していった。フランは結果が出る前に突っ込み、狭い空間を駆け抜けていく。
それでも対応しきれない場合は、ディメンジョン・シフトですり抜けた。転移を使わないのは、高位の相手になると転移先を察知し、先回りして攻撃してくる可能性があるからだ。
過去に、何度も経験している。大精霊クラスになれば、その危険は高いだろう。最初にクリムトたちの下へと移動した時も、そう考えて転移は使わなかったのだ。まあ、今のフランなら、短距離の到達時間ならさほど変わらんしな。
結果、フランはほぼ最短距離を進み、あっという間に大精霊に接近していた。
ただ、問題はここからだ。
『攻撃がやまないな!』
(ん)
もう弾幕ってレベルではない。風の弾丸に、風の槍に、風の斬撃。空間を埋め尽くす大精霊の攻撃は、シューティングゲームなら確殺でクソゲー確定だ。
ディメンジョン・シフトを使っていなければ、無傷では済んでいないだろう。
精霊には核があり、それを攻撃しろと言われているが……。
『どこにある? モヤっと何かを感じている気はするんだが……』
これが、核や精霊の気配か? 背筋がゾワッとするような、不思議な感覚がある。似た感覚を思い出そうとすると、ゴルディシアでイグニスを見た時のような……? 強い相手を前にして、危機察知が何かを訴えかけているだけなのかね?
『フラン。どうだ?』
(ん……。分からない。今は気配も全然感じられない。多分、魔術のせい)
攻撃をすり抜けることが可能なディメンジョン・シフトだが、相手の気配などもすり抜けていってしまうらしい。言われてみると、今の状態では周辺の気配も希薄だった。
感じられないわけじゃないが、繊細に気配を探るような場面には向かないらしい。
『……ディメンジョン・シフトを、解くしかないな』
(ん)
フランはやる気満々の表情で頷くが、そう簡単な話ではない。今ディメンジョン・シフトを解いてしまえば、未だに止まぬ風の攻撃を一気に受けることになるだろう。
(クリムト、時間ないって言ってた)
『く……。そうだったな』
やはり、逃げ回りながら核を捜さねばならないらしい。クリムトの状態を一瞬確認したが、再び生命力が減り始めているのが分かるのだ。
『いくぞ? いいか?』
「ん」
『よーし――解除!』
実体を取り戻した瞬間、爆音と爆風が一斉に押し寄せてきた。ありとあらゆる形状をした風の攻撃が、全方位から襲い掛かってくるのだ。
俺たちは即座に障壁を張り、風の僅かな隙間を見つけては無理やりこじ開けるように脱出した。どれだけ逃げようが、風はどこまでも追ってくる。
魔術を放って風を相殺しながら、高速で跳ね回るフラン。だが、それでも完全回避は難しかった。弱い攻撃の中に時おり混ぜられている、障壁を貫くような凶悪な攻撃が厄介なのだ。数百の攻撃の中に紛れている不可視の攻撃を見抜くのは、至難の業だった。
しかし、フランは集中力を切らさない。肌に無数の傷が刻まれ、時には骨まで達するような傷を負わされながらも、精霊の核を捜し続けていた。
それでも、見つからない。それなのに、段々と限界が近づいている。
今の俺たちは、全力疾走をしているようなものだ。フランはすでに覚醒して閃華迅雷を使用し、俺は限界ギリギリまで魔術を多重起動している。
このままでは、遠くない未来に破綻が訪れるだろう。
そんな中、フランに変化が現れていた。フランの内から、フランの物ではない魔力が放たれていたのだ。
『これは、マールか!』
(ん。マールが、教えてくれてる)
レビューをいただきました。ありがとうございます。
5日で読破というのは、メチャクチャ速いですね!
1100話以上飽きずに読んでいただけたというのは、とても嬉しいです。
テストに影響が出ない程度にアニメを楽しんでくださいwww
可愛さと狂暴性! 確かに!
フランにピッタリな表現ですね!
仕事と家事、頑張ってください。最新話まで読み切ってしまえば、大丈夫!
荒ぶるほどにフランを好きになっていただき、ありがとうございます。
これほど熱いレビューは久々です。
あと、シエラ好きという方は初めてかもしれません。いずれ再登場しますので、お待ちくださいませ。
ラノベで一番好きって……作者の好感度を稼いで何をする気ですか!
最低でも5周してるとか、猛者ですね。
皆さんが祈りまくってくれているので、健康の神の加護はきっとあるはず! あるといいな!




