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1099 ノアレ男爵邸


 ノアレ男爵は、その情けない様子とは裏腹に、結構強情だった。


 決して自分が裏切り者であると認めようとはせず、馬鹿で居丈高な貴族を演じ続けているのだ。血だらけになりながらも、自分は知らないとしか言わない。


「……ウルシ」

「オン!」

「ひぃっ!」


 突如目の前に現れた狼に、男爵が腰を抜かす。いや、抜かしたように見えるが、これも演技だろう。


 ここまで徹底しているのは凄いな。


「やって」

「オンオン!」

「な、何をする! やめろ! 私は美味しくないぞ!」

「ふふん。生きたまま丸かじりされても、知らないって言い続けられるか試す」

「ガルルル!」

「ひぃぃ!」


 さすがにこの悲鳴は本気かな? ウルシが会得した自白毒は、精神的に弱っている方が効きやすいということを覚えていたのだろう。


 ノリノリでノアレ男爵を脅して何度か悲鳴を上げさせた後、ようやくウルシの出番だ。灰色の煙を男爵に浴びせて、判断力を奪っていく。


 デリクには何度も浴びせる必要があったが、ノアレ男爵は1度で効き目が出ている。毒への耐性などが関係しているんだろう。


 男爵の顔から表情が抜け落ち、意思が感じられなくなる。それを確認して、フランが再度質問をぶつけた。


「レイドスの密偵はどこ?」

「わからない」

「ここに逃げこんだのは分かってる」

「この屋敷には招き入れた。だが、姿が見えなくなった。どこにいるか分からない」


 男爵自身も分からないって、マジか。どうやら、屋敷のどこかに身を潜めているらしい。


 気配はある。何となく感じられる。だが、俺たちを以てしても、正確な居場所が分からなかった。


「仕方ありません。邸内を捜索しながら、証拠品を押収していきましょう」

「わかった」


 密偵を捜しながら、人海戦術で男爵邸を一気に制圧していく。だが、最後まで密偵の居場所を探し出すことはできなかった。


 俺たちは地下も含めた全部の部屋を回ったのだ。いくつか怪しいと思う部屋があったが、どうしても居場所が特定できない。


 何と言うか、ほんの少しだけ普通とは違う匂いが屋敷の中からしていて、その匂いが僅かに強くなっている部屋がある感じ? まあ俺は剣だから臭いは嗅げないけど。イメージの問題だ。


 書類などもほとんど出てこない。ただ、レイドスの人間と密かに身分を明かし合うための道具を、幾つか押収できたらしい。自分と相手にだけ分かる、紋章が刻まれたナイフや、薬入れなどだ。


 ノアレ男爵に尋ねても、本当にこれ以上の証拠品などはないらしい。地下室などの怪しい施設もなかった。徹底して、疑われないようにしているらしい。


(密偵、どこにいるか分かんない)

『うーむ、俺たちが立ち去るまで隠れ続けるつもりっぽいな』

(オフ)


 ひたすら隠れて、俺たちがいなくなってから逃げるつもりなのだろう。今の状態で一か八か逃げないのは、よほど隠密能力に自信があるか、フランやウルシの実力を見切って逃げられないと悟ったか、もしくはその両方だろう。


『なんとか捕まえたいところなんだが……』

(まかせて)

『お? 作戦があるのか?』

(ん!)


 フランが自信満々に頷く。レイドスの密偵を発見する方法を思いついたらしい。


(私がやっていい?)

『いいけど、手伝わなくて大丈夫か?』

(ん。1人でもやれる!)


 ちょっと前のガムドとの模擬戦以来、フランが修業モードなのだ。自分でやれそうなことは、頑張ってみたいのだろう。


『ヤバそうだったら、手を出すからな?』

(ん。お願い)


 フランは軽く頷くと、地面にしゃがみ込んで魔術を発動した。


「グレイトウォール」


 巨大な土壁が、ノアレ邸の北側を遮る。


「え? 何を?」

「何が起きてる!」

「何という魔術だ……」


 ノアレ男爵だけではなく、味方であるブルーや兵士たちも驚きの声を上げていた。腰を抜かしかけている兵士もいる。


『フラン。事前に言っておいた方が良かったと思うぞ?』

(?)

『兵士さん、驚いてるだろ?』

「む。魔術使うから」


 ブルーにそう告げると、相手の反応を待たずに再びグレイトウォールを発動していった。


 壁が屋敷の西、東に出現し、囲い込んでいく。謎の気配に、微かに動揺するような揺らぎが感じられた。潜んでいる屋敷が急に巨壁によって囲まれ、驚いているのだろう。


 だが、逃げ出す前に、残りの一角も巨大な壁が塞いでしまった。これで、完全に四方を壁によって塞がれたのだ。


「ふぅ。じゃあ、次やる」

「え?」


 戸惑い顔のブルーたちを余所に、フランは壁の上まで跳び上がって中を覗き込むと、新たな魔術を発動した。


「サンダーチェイン!」


 攻撃力は低いが、麻痺させる力が強い魔術だ。壁で逃走経路を塞いでから、内部に雷鳴魔術を無差別に叩き込むというのがフランの作戦だったのだろう。


 まあ、これなら確かに隠れていても意味ないが……。間断なく放たれるフランの魔術によって、ノアレ男爵の屋敷は半壊状態だ。


 全体が焦げてしまっているし、直さなきゃ住めないだろうな。


「ふむ?」

『出てこないな』

「ん」


 魔術が効いていないのか? 相変わらず、気配は希薄なままだった。隠れる能力だけではなく、戦闘力も高いのかもしれない。


「なら、これ!」


 フランはさらに魔術を放つ。なんと、トールハンマーだった。これ、相手の居場所を特定できても、殺しちまうんじゃ……。あと、顔隠してても、これだけ派手に雷鳴魔術使ったら正体がバレちゃうんじゃ……。


 だが、俺が止める間もなく、太い雷光が屋敷を呑み込んでいた。


レビューをいただきました。ありがとうございます。

某有名漫画に例えていただき、大変光栄です。

あと、不覚にも投稿者様のお名前で笑ってしまいましたwww 真理!


ダンジョンマスターのCV、実は阪口大助さんなんだぜ?

あと、転剣のサントラの発売が決まったようです。戦闘シーンの音楽とか好きなので、私も非常に楽しみです。


転剣のWEBラジオ第2回が更新されております。非常に面白いので、ぜひ聞いてみてください。

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― 新着の感想 ―
[一言] これ雷鳴魔術使ったガチンコ漁じゃ……
[一言] 貴族相手でも建物ぶっ壊すんだから王令じゃなきゃ追放レベルだな
[気になる点] >男爵の顔から表情が抜け落ち、棒立ちとなる。  "棒立ちとなる"という表現について、自発的な行動をしない状態になったと意味的には分かるのですが、前話でフランに太腿を斬られ、直前に腰を…
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