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1092 解体と模擬戦

「いやー、フランさんがこれほど解体を得手としているとは! 嬉しい誤算です」

「フェルムスも、凄い」


 山竜を仕留めた数日後。


 俺たちはバルボラの冒険者ギルドの訓練場にて、山竜の解体を行なっていた。本来、竜というのはちゃんとした施設で解体を行う存在だ。


 なんせ、ちょっとした肉片や鱗の欠片、流れ落ちる血の一滴でさえ、貴重なのである。一瓶で金貨とかいうレベルじゃないけど、銀貨数枚にはなる。


 しかも、今回の山竜は上位竜であり、その素材の価値も普通よりも高かった。それが普通よりも大量に得られるのだから、冒険者ギルドも大騒ぎだ。


 魔石は俺が食っちまったし、エイワース、フェルムスは自分の取り分は自分で使うだろう。それでも、ガムドとディアスの取り分は、確実に冒険者ギルドの流通網に流される。上位竜素材が大量ともなれば、各地で騒ぎが起きるらしい。


 戦時中でなければ、オークションが開催されたり、貴族の間で情報戦が勃発していたはずだった。


 ただ、山竜の場合は、解体施設に入らない。なんせ、100メートル級の巨体なのだ。


 そして、施設に入りきらなければ、ちゃんとした解体は難しかった。いや、バラすだけならどこでも問題ないけど、血がかなり無駄になるだろう。


 そこで、フランと爺さんたちが相談して、協力して山竜を解体することにしたのであった。


 最初はフランとエイワースが、風と氷結魔術の結界を張り、零れ落ちる血などを受け止めるようにセッティングする。


 その後、山竜をちょっとだけ収納から出しては、大雑把に切り分けるということを繰り返していく感じだ。


 10メートルくらいに切り分ける作業も、高位冒険者たちが本気を出せば、3分もかからなかったね。それをフランが収納し直した後は、各部位ごとに、結界内で細かく解体していくのだ。


 ここは主に、フランとフェルムスが担当する。俺たちは解体スキルがカンストしているので、速くて当然だ。俺が最適な形に姿を変えながら、フランが高速で山竜を解体していく。


 ただ、フェルムスの手際も、相当なものだった。糸が万能すぎるのだ。肉を切り分け、骨と肉を剥がし、鱗を一気に削ぎ落とす。それを、同時に行なっていたのである。


 解体には自信が有ったけど、速度で負けているだろう。さすが、料理人兼元ランクA冒険者だった。


 そして、バラした素材をエイワースが瞬間冷凍し、ガムドとディアスがアイテムボックスなどに詰めていく。誰もが無言のまま流れるように作業を続け、超巨大な山竜が二時間とかからずに解体されていた。


「うひょひょ! これ程高品質の素材が手に入るとはな! こちらに来るべきだと囁いた儂の直感も、まだまだ捨てたものではないのう!」

「エイワース! あなたが頭部に毒を使ったせいで、舌の品質が下がってしまいましたよ! あれほど欲しいと言っていたのに!」

「フェルムス! そんなことよりも、本当にこの肉を貰っちまっていいのか?」

「バルボラだけじゃなくて、ウルムットにまでいいのかい?」


 実は、エイワースもフェルムスも、自分の取り分である肉の所有権を放棄していた。エイワースは使い道がないから。フェルムスは料理させてもらえれば、それでいいから。


 フェルムスは確実にツンデレだけど、エイワースは本気でいらないって言ってそうだ。ともかく、竜肉はそのほとんどが、市民への炊き出しなどで使われることになりそうだった。贅沢な炊き出しだぜ。


 人の背丈を超える巨大なキューブ状の肉が何十個も積み上がっている光景は、中々迫力がある。ファンタジーって言うよりは、SF作品の食肉工場っぽささえ感じるのだ。


 ともかく、国からの支援が届くまでの繋ぎには十分だろう。


 一仕事を終えたフランが額の汗を拭っていると、ガムドが近づいてくる。


「フラン。俺と模擬戦しないか?」

「ガムドと模擬戦?」

「おう。フェルムスとディアスをぶっ飛ばしたお前さんの力、俺も味わってみたくてな」

「ん。わかった」

「おお! そうか!」


 他の爺さんたちが、ガムドを止める素振りはない。ディアスとエイワースは面白がっているし、フェルムスはどちらかといえばガムドを心配している感じだ。ただ、ディアスが一言だけ忠告をしてくれる。


「2人とも。ここで本気を出すわけにはいかないし、軽くね?」

「おう!」

「ん」


 武器は互いに模擬戦用の木製武器だし、そこまで酷いことにはならんだろうが……。いざとなったら、無理矢理止めよう。


 そうして始まった模擬戦は、思いのほか静かで、それでいて白熱したものになっていた。


 派手な技や魔術は使わず、武術スキルだけの戦いになったのである。互いにそうしようと声を掛け合ったわけではないが、様子見で牽制し合っている内にそうなったようだ。


 最初は、フランが軽く攻め、ガムドが盾と斧で上手く守る展開が続いた。どちらも本気ではなかったんだが……。


 フランは、ガムドの堅さを前に次第に熱くなり始めたらしい。スキルを使わずに、技量だけでガムドの守りを抜こうと試行錯誤し始めた。


 ガムドはガムドで、薄氷を踏むような思いなのだろう。フランからは余裕そうに見えるだろうが、かなり焦っているのが分かった。だが、年長者の意地で、こちらもスキルは使わないと決めたらしい。


 そんな感じで互いの意地がぶつかり合った結果、武器の技術のみで戦いを進める展開が続く。互角に見えるが、今はガムドの方がやや有利だろう。動きの小さい守備側の方が、体力の消耗が少ないのだ。


 まあ、精神的な消耗はガムドの方が圧倒的に上だろうし、あと2、3分もあれば形勢は逆転するだろうが。フランの攻撃が次第に鋭くなってきたのだ。戦いながら、成長していた。だが、ここまでだろう。


 パキィン!


「む……」

「武器が耐えられんかったな」


 フランの木剣が、砕けてしまっていた。魔力を流して強化していたとはいえ、さすがにフランとガムドの攻防には耐えられなかったのである。


「ふぅぅぅぅ。引き分けじゃな」

「……ん」


 長い息を吐いたガムドの盾にもひびが入り、引き分けということにはなったが……。


(負け)

『いや、痛み分けだと思うぞ?』

(……負け)


 フランとしては、判定負けくらいに思っているようだ。


 やはり、経験を糧とし続けてきた老獪な相手は、侮ることができない。そんなステータス以上の強さを持つガムドにこの結果は、誇ってもいいはずなんだがな。


スキルなしで、何十年も戦いに身を置いた元ランクA相手と互角ってことなのだ。


 悔し気に拳を握るフランを見て、爺さんたちも苦笑いをしている。ただ、この性格が、フランをフランたらしめているのだ。


『次は勝とうな』

(ん!)

1089話に、フランが称号『ドラゴンキラー』を手に入れていたという説明を追加しました。ストーリーに影響はありません。


昨日からWEBラジオが配信中です。三木眞一郎さんと加隈亜衣さんの掛け合いが非常に面白いので、ぜひご視聴ください。


また、既にお聞きの方もいらっしゃると思いますが、OP、EDが公開されました。

OPは、岸田教団&THE明星ロケッツ様で『転生したら剣でした』。

EDは、黒崎真音様で『more<STONGLY』。

どちらも最高です!

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― 新着の感想 ―
[一言] アニメ良い出だしですね。セリフはちょいいじったのかな? シナリオは1、2話は小説通りで楽しめる展開で良かった- ̗̀ ( ˶'ᵕ'˶) ̖́-でづ
[一言] ガムドからしてみたらフランのランクがおかしいのはわかっているし、推薦するための最終確認だと思うなぁ。
[良い点] 解体と炊き出しの間に、模擬戦。 ガムドの真意はまだ分かりませんが、物語としては良いタイミングですね。 熱量を落とさず必要な情報を含めつつ、物語を紡いでいく巧さとセンスを感じます。 (模擬戦…
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