1082 ガムドと出撃
枷を外したセリメア王女、ミリアム王女をバルボラへと連れて戻る。道中で目を覚ました2人は、自分たちが解放されたことを泣いて喜んでいた。
しかし、すぐに妹のことを思い出したのだろう。代表して、セリメアがフランにマールのことを尋ねてくる。
巨大化したウルシのモフモフの上に、王女2人が正座する図。なかなかシュールだが、本人たちは真剣だ。
「マールは、今どこにいるのでしょうか?」
「マールは、精霊になった」
「は? 精霊、ですか?」
『いや、それじゃ伝わらないぞ』
王女たちは困惑顔だ。それも仕方ないが。
そもそも、人が改造されて魔獣になり、その後精霊になるなんて、普通に考えてあり得ない。俺だって、どうしてこうなったのか分からないくらいだしな。色々と奇跡が重なった結果だろう。
だが、すぐに王女たちは納得せざるを得なくなる。
「これは……マール?」
「マール! 何という姿に……」
マールが姿を現したのだ。俺には聞こえないが、念話的なもので姉王女たちとやり取りをしているらしい。
マールが出現していたのは十数秒ほどであったが、セリメアもミリアムもフランの言葉を信じてくれたようだった。
「マールの願いを叶えてくれて、感謝いたします」
「……ありがとう」
涙を流しながら、頭を下げている。ただ、フランは、マールがいた場所を心配そうに見つめていた。
『どうかしたのか?』
(マール、無理して凄く弱ってた)
『それって、大丈夫なのか?』
(少し眠るって)
水竜艦の結界解除に、姉たちにも見えるほどの無理な顕現。精霊になりたてのマールは、相当な無理を重ねたんだろう。フランの中で眠りについたらしい。
姉王女たちも心配しているようだが、精霊魔術を使えない彼女たちにはどうしようもできない。結局は、フランに頭を下げて頼むことしかできなかった。
そんなやり取りの間もウルシは空を駆け続け、あっというまにバルボラだ。
艦隊との戦闘の余波がバルボラからも見えており、警戒態勢に移行していたようだ。バルボラの港には、ガムドを含む冒険者の偵察隊が待ち受けていた。
途中でウルシに気付き、歓迎の声が上がっていたが。
「フラン! 何がどうなってる! また、レイドスのやつらだったのか?」
「ん!」
「そうか……。うん? その嬢ちゃんらは、誰だ?」
「王女様」
「はぁ? 王女様だぁ?」
「ん」
フランがレイドス王国の船団からシードランの王女たちを救出し、敵船は全て沈めたことを説明する。
マールのことや、呪法魔術で契約破棄をしたことは内緒だ。マールのことは説明しづらいし、呪法魔術のことは知られたくない。
王女たちにも口止めをお願いしてある。俺としては、こここそ呪法魔術の出番だと思うんだがな。奴隷契約しなくったって、普通にフランのことを口外しないという契約を結べばいいのだ。
だが、フランがそれを嫌がった。奴隷にせずとも、魔術を使った契約そのものに忌避感があるようなのだ。
こうなっては、2人のことを信頼するしかない。絶対に誰にも言わないという言葉に嘘はなかったので、当面は大丈夫だろう。
本当はガムドとしっかり情報交換をしたいんだが、ここでのんびりしている暇はない。フランはガムドを少し離れた場所に引っ張っていくと、シャルス王国のことを説明した。
「あの国か! 冒険者ギルドでも色々と問題になっていたんだ」
「レイドス王国の西征公の部下が、宰相だって」
「まじか! あの国は宰相が有能で有名なんだが、まさかそんなことに……」
以前聞いた話だと王様が新しくなって、そいつが少し無能っぽいって話だった。だが、実際は宰相に操られているのかもしれない。
「海から攻めた後に、シャルス王国からも攻めるって言ってた」
「つまり、時間がもうねぇってわけだな?」
「ん。私は、いく」
やる気満々のフランだったが、ガムドに引き留められる。ただ、危ないからやめろという話ではなかった。
「俺も行くぞ!」
「バルボラはいいの?」
「サブマスも領主もいるんだ。問題ねぇ。それよりも、シャルス王国からくる軍勢を絶対に防ぐ方が重要だ! それに、これだけコケにされて黙ってられるか!」
最後の理由が一番大きい気がするが、ガムドなら足手まといにはならないだろう。むしろ、戦場の経験では遥かに上回るのだ。
「10分で準備して。それなら連れてく」
「おっしゃ! 待ってろ!」
そこからガムドの行動は早かった。冒険者を伝令に使い、シャルス王国の脅威と、自分は防衛に向かうという話を各方面に伝え、あっという間に了承をもぎ取る。まあ、実際は止めにきた相手を怒鳴って黙らせただけだが。
装備は戦闘モードなので、そこはすでに準備完了だった。結果、本当に10分で出発準備を完了させたのである。
「いくぞフラン!」
「ん。乗って」
「邪魔するぜ。俺はかなり重いが、大丈夫か?」
「オン!」
全身鎧に巨大な槌を背負ったガムドによじ登られても、ウルシはビクともしない。いつもと変わらぬ動きで、空へと飛び出す。
その様子を見て、ガムドがはしゃぐように笑った。
「すげぇな! ワイバーンですら、俺を乗せて長距離は飛べねぇんだぜ! さすが高位の魔獣ってことだな!」
「オン!」
空を進みながら、ガムドが進路を指示してくる。
「シャルス王国からクランゼル王国に入るなら、道は一つだけだ。他はかなり険しくて、大軍の移動には向かんからな。間違いなくそこを通るだろう」
「わかった」
「できれば、シャルス王国の領土を侵犯したくはない。こっちの国内で戦えば、戦後処理で有利になる」
ガムドが地図を出して、戦場に向いた場所を教えてくれる。そこは、クランゼル王国南西部に広がる、不毛な荒地だ。シャルスからの軍勢が確実に通り、かつクランゼル側の町や村は存在しない。そんな場所だった。
「ここで、迎え撃つ」
「ん!」
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