1071 フランvsブネ
悠長に悪魔を倒していられないと判断した俺は、自身の飾り紐を変形させ、フルトへ向かって伸ばした。本体を捕えて、黙らせる!
サティアには、ウルシが向かっていた。
(師匠!)
『殺しはしない!』
(……ごめん)
フランも、自分が煮え切らないことが歯がゆいのだろう。だが、俺は嬉しくさえあった。友達だから斬りたくない、戦いたくないというのは、人として当然の感情だ。
戦闘という面だけを見れば弱くなったと言えるのかもしれないが、俺は間違いなく成長だと思う。
それに、こういう時の相棒だ。
『フランができないことは、俺がやればいい。逆に、俺がやれないことは、フランが助けてくれ』
(ん。わかった)
フランはコクリと頷くと、そのままブネに斬りかかった。悪魔の動きを封じて、俺を援護してくれるつもりなんだろう。
「みんな、できるだけ離れて!」
フランの言葉を聞いた村人たちが、自力でこの場を離れ始めた。ただ、広場は木の防壁で囲まれているし、男たちは足も拘束されている。遠くへ行くことは無理だろう。それでも、少し離れてくれるだけで戦いやすくなるのだ。
すでに剣神化は解けているし、俺も神気操作、邪気征服は使っていない。だが、フランはブネを圧倒していた。
鎌を回避し、見えない念動を斬り裂き、悪魔の巨体を切り刻む。こいつも再生阻害が効かないのですぐ再生されてしまうが、足を再生中はさすがに動けない。まるで格下に指導をしてやるように、余裕を感じさせる。
そして、悪魔の援護がないまま、俺の鋼糸がフルトへと殺到していた。
「くっ! くそ!」
逃げようとするが、フルト自身のステータスは大したことがない。以前よりもレベルは上がっているが、下級冒険者とどっこいってところだろう。
能力も、悪魔を操作するためのスキルに偏っているしな。俺の鋼糸がフルトの四肢に絡みつき、その動きを封じる。
ブネはなんとかフルトを助けに向かいたいようだが、フランがそれを許さない。獣蟲の神の加護を使い、時おり神属性を纏った攻撃を繰り出してみせる。
やはり、神属性なら悪魔にも通用するようだ。再生されない傷が、ブネに残っている。
その結果、ブネは迂闊に隙を見せられなくなっていた。背を見せた瞬間、再生不可能な一撃を急所にぶち込まれるかもしれないからな。
『眠っとけ!』
「ぐがあぁぁ!」
俺は、フルトを鋼糸で雁字搦めにしつつ、電撃を叩き込む。麻痺させて動きを封じるつもりだった。
だが、フルトは麻痺しない。よく見ると、フルトの体の周囲に、黒い魔力が溢れだしていた。悪魔騎士の様に、自身に悪魔を憑依させているらしい。
ブネ以外にも、悪魔を従えていたようだ。悪魔は種族特性として、魔法防御、状態異常耐性を高いレベルで備えている。その力を得たことで、俺の雷鳴魔術を防いでいるのだろう。出力を上げるか? だが、やり過ぎると殺してしまうかもしれない。
ウルシの方も同じようで、なかなか拘束できずにいるようだ。暗黒魔術が無効化されてしまっている。
ただ、ロノウェのことも封じていた。なんと、毒霧を食っているのだ。毒無効と捕食同化スキルが合わさることで、毒霧化したロノウェを食うことができているらしい。そのせいで迂闊に毒霧化できず、触手で攻撃している姿が見えた。だが、物理でのやり合いなら、ウルシが有利である。
あれなら、俺はこちらに集中できそうだ。
『これでどうだ!』
俺は魔力強奪、魔力吸収スキルを全力で使用した。これで、悪魔の魔力を吸い尽くして倒す。
フルトの魔力が急激に減少していくのが分かった。俺に吸われているだけではなく、電撃への防御にも相当力を割いているからな。このままいけば、魔力枯渇でフルトの意識を奪えるかもしれない。
だが、フルトもタダではやられなかった。このままでは何もせずに捕らえられると悟ったのだろう。
「我が、魔力を、捧ぐ……! 憑依せよぉぉ! ブネェェェェェ! ぐがああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
『これは……!』
「ウオォォオォ!」
ブネの姿が消え去ったかと思うと、フルトの容姿が激変した。肌は褐色に染まり、髪は色を失ったかのように白く変色する。目は金に変化し、その腕や顔には赤い不可思議な文様が浮かび上がっていた。
フルトの姿が影の中へと沈み込み、少し離れた場所に出現する。影転移だ。
「はぁはぁ……フラン、やるな! だが、負けられない! そう! 負けられないのだぁ!」
フルトが咆哮を上げながら、突っ込んでくる。その速さは、今までのフルトでは考えられぬほどの速度が出ていた。
その勢いのまま、右手の鎌の柄を叩き付けてくる。ブネの持っていた漆黒の鎌と同じものだろう。フルトのサイズになっているため、非常に小さい。しかし、その威力は、今の方が強かった。
召喚されている状態よりも、フルトに憑依している状態の方が強いようだ。
「うおおおおおぉぉ!」
「むぅ!」
『念動の威力も上がってやがるな! だが、防げんほどじゃない。こっちは俺に任せろ!』
(ん!)
「馬鹿な……」
フルトが驚いている。ブネを憑依状態にすれば、勝てると思っていたのだろう。だが、甘い。フルトたちと出会った頃のフランなら、確かに負けていたかもしれない。
しかし、ゴルディシアで地獄を見た今の俺たちには、届かないぜ! フランには、未だに傷ひとつ付いていないのだ。
このまま手足をぶった切って無力化してしまおうと思ったんだが、背後で異変が起きていた。
「キャイン!」
ウルシが無数の触手に弾き飛ばされ、宙を舞う。
サティアが、ロノウェと融合を果たしていた。最初が『召喚』で、フルトの状態が『憑依』。そして、最初の悪魔騎士や今のサティアの状態が、『顕現』なのだろう。
「あはははは! 我に逆らう駄獣がぁ! このまま剥製にしてくれようか!」
「グルル……」
サティアではなく、ロノウェの言葉がその口から放たれていた。
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