表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1062/1337

1060 砕かれる軍隊


 フランが俺を振るう度に何人ものレイドス兵が命を散らし、俺の放つ魔術が人間を火だるまに変える。


 対するフランは魔力を消耗するだけで、毛ほどの傷すら負っていなかった。


 一方的な戦闘に見えるが、実は兵士の質は悪くない。集団戦闘の練度はそれなりである。多分、ある程度情報のある魔獣相手であれば、持ち味を発揮するのではなかろうか?


 攻撃を前衛で受け止めつつ、周囲の槍や弓部隊がダメージを与えるという戦法だ。


 それに、精神面も鍛えているようだった。命を捨ててでもフランを倒そうとする気概の持ち主も、かなりいたのである。


 だが、今回はレイドス兵にとって、悪い条件が重なり過ぎていた。


 港という狭い場所での戦いであるうえ、バラバラに港に到着するせいで、隊列が上手く組めないのだ。しかも、指揮系統が混乱しているように感じる。


 どうも、俺たちが捕まえた指揮官が、この場所での最高指揮官であったらしい。その引継ぎができない内に戦闘が始まったため、混乱が続いているようだった。


 そして、最大の問題は、フランが強すぎることだった。


「助けてくれぇぇぇ!」

「ぎいいぃぃぃぃぃぃ!」

「お母ちゃぁぁぁぁん!」


 レイドスの兵士たちがどれだけ頑張ろうとも、鎧袖一触。凄まじい勢いで兵士が斬り捨てられ、千切れ飛んでいくのだ。対して、レイドス側からの攻撃は、全く通用しない。回避能力が凄まじいし、当たってもあっさりと障壁で弾かれる。


 兵士が増えれば増えるだけ、被害が増え続けていた。


 最初は威勢が良かった兵士たちも、明らかに腰が引け始めていた。


 港のそこかしこに死体が積み重なり、海に浮かぶ仲間の骸に魚が群がって啄んでいる。その光景を作り出した張本人は、幼く見える黒猫族の少女だ。たった一人の少女に、軍隊が何もできずに砕かれていた。悪夢でしかないだろう。


 遂には武器を構えることなく、悲鳴を上げて逃げ出す者が出始めた。


 上官に命令違反だと叫ばれても、関係ない。すると、それが皮切りとなって、逃げだす者が段々と増え始めていた。


 だが、レイドス王国側に、新たな戦力が出現する。それは、大量の魔獣たちであった。


 先頭にいるのは、虎のような魔獣だ。スニーク・レオという、探査能力に優れた猫型の魔獣である。レッサーロックと同じように、警備目的で導入されているのだろう。


 その数、四匹。他にも狼型の魔獣たちや、荷運び用の牛型の魔獣などの姿もある。


「グルルルル」

「よそ見をするな! 標的はあの小娘だ!」

「ガオォ……」


 その後ろにいる男たちが、魔獣使いなのだろう。兵士の死体を見て涎を垂らす魔獣を、鞭で叩いて叱り飛ばしている。


 さらに上空には、小型の蝙蝠のような魔獣も集まってきていた。


 魔獣が援軍として現れたことで、兵士の一部も冷静さを取り戻したようだ。フランが完全に包囲されたように見えるが――。


(魔獣、いい魔石もってるかな?)

『そうだな』


 この程度の魔獣の群、抗魔の軍勢に比べたら可愛いものだった。俺たちにとっては、魔石が向こうからやってきたとしか思えない。


 五分とかからずに蹴散らされ、再び潰走を始めていた。


 いや、その様子は、先程よりも酷い。魔獣が何もできずに全滅する姿を見せられた兵士たちは、狂乱とすら言えるような状態なのだ。


 このまま追撃すれば、さらに多くの兵士を討ち取ることが可能だろう。ただ、俺たちは追撃を行わなかった。


『ついに動いてきたか!』

「ん!」


 ダーズの港に停泊するレイドス艦隊から、砲撃が行われ始めたのだ。


 フランを余程の脅威と感じたのか、まだ仲間が残っていることなどお構いなしだ。フランの周辺に残っていた勇敢なレイドス兵士たちが、砲撃によって吹き飛んでいく。


 フランは魔獣使いの首根っこを掴んで引きずりながら、俺が作り上げた土の壁の陰に駆け込んだ。魔獣使いを連れてきたのは、情報を得るためである。


 自分がいながら砲撃に晒されたことで、見捨てられたとでも思ったんだろう。魔獣使いはペラペラと内情を語り出した。


 ダーズの住民の多くは避難したが、それでも300人近くの捕虜がいるらしい。逃げ損ねた住人や船乗り、殿で戦った兵士や冒険者などが主だ。


 その内、健康な成人や子供は船で北へ運ばれ、怪我をしている者や老人は暫くダーズに留め置かれる予定であるという。


 ただ、俺たちが助けた冒険者が移送の第一陣で、まだ船に乗せられた住人はいないらしい。つまり、ダーズに停泊するレイドス艦隊の船には、レイドス王国の兵士しか乗っていないということだろう。


 因みに、シードラン海国の船がいないのは、バルボラ攻略へと投入されたからであった。


(師匠)


 フランの目は、やる気満々だ。まあ、ここでレイドス艦隊を壊滅させれば、ダーズだけではなく、バルボラの安全にも繋がるしな。完全に、戦闘態勢だった。


 しかし、懸念もある。


『……またマールみたいな戦力が出てくるかもしれない。そいつが、無理やり操られていたら、戦えるのか?』

(……できる)


 フランは覚悟を決めた顔で、頷いた。またフランの心が傷つくような戦い、俺としては回避したいところなんだが……。


 ここまできて、フランが退くわけがなかった。


『分かった。やろう』

「ん!」


 魔獣使いは縛って、物陰に転がしておく。戦闘が終わってそれでも生きていたら、情報源としてギルドに引き渡せばいいだろう。砲撃などに巻き込まれてしまったら――まあ、その時はその時だ。運が悪かったな。


 俺がグレイトウォールを消すのと同時に、フランが飛び出す。


『まずは、一発デカイのをお見舞いするぞ』

「わかった!」


TVアニメPV第2弾が公開されましたー!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]そろそろ定期的に来るエカト・ケラウノス回ですかね!!!ヨシッ!!!
[一言] そろそろフランの無双回来ても……とか思ってたら来たァ!!!
[良い点] 人質の有効活用はそれができる人員が質,量ともに最低限確保できていてこそですよね。 その辺も含めて、本作の性格やフラン達の設定的に、何ら無理のない良い展開だと感じました。 [気になる点] や…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ