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1059 囮のフラン


 知人たちを救出するために行動を開始したフランとウルシは、転移を使って彼女たちの側へと一気に乗り込んでいた。


 突如現れて周囲を攻撃し始めた少女と狼に、レイドス兵は大混乱である。フランとウルシの攻撃で近くの兵士たちを吹き飛ばしつつ、俺は大地魔術を多重発動した。


『グレイトウォール!』


 壁で捕虜たちの四方を囲み、周辺のレイドス兵と分断したのだ。壁の内側は、ウルシが巨大化しても少し余裕が残るくらいは広い。


 そのせいでレイドスの兵士も内側に残ってしまっているが、俺たちが速攻で排除した。一人偉そうなやつがいたので、そいつだけは麻痺させるだけに留めて確保だ。


 壁の外では、レイドス兵たちの悲鳴や怒号が鳴り響いている。この分なら、突破されるまで多少の時間はあるだろう。


 幸い、冒険者たちの手足に嵌められた手錠は、魔道具ではなかった。それに、まだ隷属の首輪も使われていない。


 フランが彼らの手足の枷を切り捨てると、自力で猿轡を外し始める。


「みんな! だいじょぶ?」

「フランさんですか? なぜここに……?」

「助けにきた」


 フランがそう告げると、冒険者たちが安堵の息を漏らした。ユージーンは仲間の冒険者と肩を抱き合い、マイアはリディアに抱き着いて歓声を上げる。他の人々も、安堵しているようだ。


 ジュディスは目の端に涙をためて、フランに抱き着きながら礼を言った。


「あり、がとう。ありがとうございます」

「ん」


 フランがポンポンと背中を叩いてやると、声を殺して体を震わせ始める。ずっと不安だったのだろう。


 ジュディスをこのままゆっくりと宥めてやりたいところだが、悠長にしている時間はなかった。


『フラン。今は逃げることが優先だ』

(そうだった)


 それに、フランが救いたい人間が、一人足りていない。


「シャルロッテは?」

「それが、一人だけどこかへ連れていかれてしまって……」

「……おい」

「ひぃぃ!」


 麻痺させていたお偉いさんを起こして、尋問する。緊急事態なので、手早く手荒い尋問になってしまったが、そこは仕方ないだろ?


 仲間の冒険者たちもちょっと引いているけど、情報はゲットできた。


 シャルロッテの特殊なスキルに目を付けたレイドス王国は、彼女を町の中央の建物に捕えてあるらしい。その目的はこの侵略軍の上層部しか知らないが、他の捕虜と一緒に町の中央に捕らえられてるという。


 ここにいる冒険者たちは、船でレイドス王国へと運んで奴隷にする予定だったそうだ。


『とりあえず、ここにいる人たちを脱出させるぞ』

「ん。みんな、ウルシに乗る」

「わ、分かりました」


 フランが、巨大化したウルシの背に乗るように促す。


 多くの者が躊躇していたが、緋の乙女たちが率先してウルシによじ登り始めると、警戒が薄れたらしい。意を決して、皆でウルシの背に上り始めた。


 バルボラの冒険者たちは、以前からウルシのことは知っているからね。フランの横で愛嬌を振りまきながら、料理を馬鹿食いしていた狼だと気づいたんだろう。


 ウルシの背中はギュウギュウ状態だが、大丈夫かな? しっかり毛に掴まっていてくれ。


「ウルシ、お願い」

「オン!」


 背に乗った冒険者たちを振り落とさないように、ウルシがゆっくりめに動き出す。いきなり角度を付けて駆け上ると危険なので、高度を上げるのも少しずつだ。


 このままでは地上からの良い的なので、俺とフランは残って囮役である。


『いくぞ!』

「ん! ふぅぅぅ――しぃっ!」


 フランが壁の内側で、俺を一閃させた。斬り裂かれたグレイトウォールが、ゆっくりと四方へと倒れ込んでいく。


「さ、下がれ下がれ!」

「うぎゃぁぁ!」


 ズンという震動とともに、兵士たちの悲鳴と、何か柔らかいものが潰れる鈍い音が聞こえた。突然の悲劇に、レイドス王国の兵士たちは固まっているな。


 だが、フランは容赦しない。


「はぁぁぁぁ!」


 正面の兵士たちの中へと躍り込むと、次々と兵士を斬り捨てていった。


「てやぁぁ!」

『くらえ! バースト・フレイム!』


 俺も、できるだけ派手な呪文を選んで、兵士たちに混乱を与えていった。


 ウルシに向かって散発的に攻撃が放たれるが、次第に地上の攻撃はフランへと集中していく。


 俺たちが心配しているのは、飛行戦力だ。レッサーロック以外の飛行可能な魔獣に四方から襲われたら、ウルシはともかく背に乗っている冒険者たちは危険だろう。


 だが、港で断続的に火柱が上がるような大騒ぎが起きていれば? さすがに、こちらにやってくるだろう。


『もっともっと、派手にいくぞ!』

「ん!」


 仲間を守るため。そして、自分の内に燻ぶるレイドス王国への怒りを発散するため。フランは暴れ回った。


 押し寄せる兵士たちを斬っては捨て斬っては捨て、時に多彩な魔術で薙ぎ払う。


 狙い通り町中から兵士が集まってくるのだが、どれだけ数が増えようがフランを止めることなどできはしないのだ。


「ぎゃぁぁ!」

「くそぉぉ! なんでこんな小娘がぁぁ!」


 蹂躙は続く。


「痛い痛い痛いぃ!」

「死にたくなぁぁ――」


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― 新着の感想 ―
[一言]散々殺してきたんだ、代価を払って貰いましょう^^
[一言] この世界で雑兵にはなりたくないなあ 船や攻城兵器の操作とか設営とか一般市民の制圧とかで需要はあるとはいえ強者が来たら金星なんてまず不可能だし 抗魔の大軍勢と戦ったフランを止めるのはそれこそ…
[一言] 仮に肉盾されても師匠や魔法があるから余程の魔法感知に特化してなければ意味がない むしろ精神攻撃のために味方の骸を見せつけるくらいじゃないとフランには無意味 それですらフランがブチ切れスイッチ…
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