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1056 接収


 ウルシにこの場を任せて、俺とフランはバルボラの港へと向かった。かなり破壊されている。レイドス艦隊は主要施設を狙って、砲撃を集中させたらしい。


 ただその分、通常の施設や家屋は、意外に無事なものも多かった。


 砲撃が止んだことで異変に気付いたのか、大勢がこちらに向かってくるのが分かる。その先頭にいるのは、見知った気配だ。


「あっち」

『おう。俺たちからも向かおう』


 数分後、俺たちは冒険者の一団と遭遇する。


「フラン! フランかっ!」

「ガムド」


 率いていたのはバルボラのギルドマスター、元ランクA冒険者のガムドであった。無事だったらしい。


 まあ、単純な砲撃で、この男がどうにかなるとは思えんけどな。


「何があった! それに、そいつらは?」

「レイドス王国のやつら」

「なに!」


 フランが簀巻き状態で引きずる3人がレイドスの人間だと分かり、ガムドたちから殺気が溢れ出る。敵がレイドス王国の艦隊であるということは、理解していたらしい。まあ、国旗を掲げているしな。


 フランは男たちから聞き出した情報をガムドに伝え、その身柄を預ける。


「お願いしていい?」

「そりゃあ、俺たちとしては願ってもないが、フランはどうするつもりだ?」

「孤児院にいく」


 少し焦っているように感じたのは、孤児院がどうなっているか心配だったからか。だが、ガムドが笑って教えてくれる。


「それなら大丈夫だぜ? なんせ、俺はさっきまであそこにいたんだ」

「そなの?」

「おう。様子を見に行ったんだが、全員無事だったぜ。なんせアマンダが本気で作った地下の避難部屋がある。ありゃあ、大規模な魔術を直接撃ち込まれん限り、無事だろうよ」

「そう……。よかった」


 ガムドが太鼓判を押してくれるのなら、本当に大丈夫なのだろう。フランはホッと胸を撫で下ろしていた。


「港に、まだ敵の船残ってる」

「なに! 大丈夫なのか?」

「ん。ウルシが見張ってるから。それに、レイドスの船は全部沈めた。残ってるのは、シードランの船」

「あー、そういうことかよ……。どうすっかな」


 初手の奇襲でバルボラ海軍の船は壊滅させられ、船乗りにも大きな被害が出たようだ。敵の船を拿捕、接収する戦力さえ残っていないらしい。


「とはいえ、放置もできんしな。こっちで使えるならありがてぇ」


 逆に、シードランの船と船員をこちらに組み込めるなら、バルボラが失った戦力の補填となるだろう。今後、レイドス王国がどう動くか分からないが、戦力が少しでも多いに越したことはないはずだ。


「新しい領主は?」

「……政治屋としては優秀だが、戦闘面はどうもな……。クライストンの旦那方に権限を委譲でもしてくれればありがたいんだが、どうかな?」


 無能ではないが、戦闘はあまり得意ではないようだ。バルボラの復興のため、文官肌の領主が派遣されているのだろう。


 ただ、そこらへんのことは、フランにはどうしようもない。ガムドたちに任せるしかなかった。


「……フラン。手間をかけるが、船の接収を手伝ってくれ。報酬はしっかり出す」

「……分かった」


 孤児院も気になるが、港とウルシを放置もできない。先にこっちの問題を片づけることにしたようだ。フランはガムドたちを先導して、来た道を引き返し始める。


「すまんな。俺は、海のことは得意じゃなくてよ」

『あー、ドワーフだもんな』


 ドワーフは泳げない種族だと聞いたことがある。ガムドも、相手が海上だとなかなか手を出せないようだ。その分、陸上戦では無双できるんだろうがな。


「フラン、話がある」

「ん?」


 何故かフランの耳元でささやくガムド。頭の上に耳があるから、ガムドはかがむことなくヒソヒソ話ができているな。


 ドワーフ特有の髭が当たって、くすぐったそうだ。


「お前さんのランクのことだ」

「? Bだけど」

「そりゃ、知っとる。そうじゃなくて、ランクアップについてじゃ」


 ガムドはそう言って、フランを皆から少し離れた場所へと引っ張っていった。他の冒険者に聞かれないように配慮してくれたんだろう。


「ゴルディシアで、大分活躍したようじゃな。お主のランクアップの推薦が出ておる」

「じゃあ、ランク上がるの?」

「それが、そう簡単な話ではない。お主の場合、色々と特殊じゃからなぁ」


 単純に若すぎる。しかも、冒険者になって2年にも満たないのだ。強いとはいえ、特別扱いが過ぎると言われても仕方がないだろう。それに、肝心の性根や適性の部分も、見極められたとは言い難い。


 さらに、今回の活躍にも疑問が残ると言われているらしい。目撃者がいない場面も多く、ランクS冒険者や7賢者が複数いた戦場で、本当に大活躍などできたのかという疑問の声が出ているそうだ。


 また、イザリオは俺のことを伏せて報告をしてくれているが、だからこそ微妙に空白があるというか、フランが活躍したと言い切れない場面もあるようだった。


「ランクAへの昇格ともなると、目に見えた功績と、各国の承認が必要となる。正直、今回は見送られる可能性が高いと思う」

「そう」


 あっさりと頷くフランの顔に、悔しさはあまり感じられなかった。ガムドも気づいたらしい。


「なんでぇ? 悔しくないのかよ? 俺は悔しいぜ? お前が嘘の報告するわけないしよ。本当なんだろ?」

「ん。でも、ランクAは、私にはまだ早い」

『フラン……』

「ランクA冒険者は、凄い。私はまだ追いつけてない。だから、私には早い」


 フランはガムドの言葉にも、フルフルと首を振った。フランにとってランクAというのは、憧れに近い存在だ。アマンダにフォールンドにヒルト。彼らはただ強いだけではない。


 アマンダは孤児院をいくつも運営し、多くの子供を救っている。フォールンドはあれで、王族相手でもしっかりと交渉できていた。それに、色々な依頼を受けて、国中を飛び回っている。ヒルトはデミトリス流を継ぎ、多くの弟子を育てている。


 社会貢献とまで行かないが、強さ以外に様々な能力や美点、経験を持った最高の冒険者だけが、ランクAとなることが許される。


 ランクSはもう人外だし、なりたくてなれるものでもないだろう。そういう意味では、努力の最高到達点ともいえるランクAは、フランにとって特別に思えるのかもしれない。


「……そうか。本人がそう言うなら、そうなんだろうがよ。元ランクAの俺からすれば、お前ならやれると思うぜ?」

「それでも、まだ」

「そうかい。まあ、次に何か功績を上げれば、文句なしに昇格だ。その時はちゃんと、昇格話を受けろよ?」

「ん」


 そんな話をしている内に、港だ。ウルシの巨体が近づいてくるにつれて、冒険者たちの顔が引きつっていくのが分かった。


 フランが自分の従魔であると教えていなければ、逃げていたに違いない。船が逃げないように見張る戦闘モードのウルシは、それほどに迫力があった。


 平然としているのはガムドくらいだろう。さすが、竜狩りを専門にしていたチームの一員だった男だ。今のウルシを前にしても、恐れていなかった。


「フラン、船をこっちに来るように、誘導できねーか?」

「港に入れるの?」

「おう。そこで直接乗り込んで、船員を制圧する」

「わかった」


 ただ、今のバルボラ港とその周辺は、沈んだ戦艦の残骸でとてもではないが動ける状態ではない。


 そこで、まずは船の残骸から掃除することにした。砕いて収納していくだけだが。


 そして、ある程度海が綺麗になったら、生き残った船に直接乗り込み、順番に港に入るように促す。


 ここでひと悶着あると思ったんだが、シードラン海国の船乗りたちは従順だった。考えてみたら、フランとウルシの戦闘力を間近で見ているのだ。逆らう気力など残っていないのだろう。


 まだ上陸前だったので戦闘専門の海兵もそれなりにいるはずなんだが、誰も逆らわない。時間はかかったが、11隻の船を接収することに成功したのであった。


 船自体はよくて小破。悪ければ航行不能で、フランとウルシが力技で港へと引っ張ってこなければならない船もあった。


 まあ、直せば使えるだろう。船にリペアを使うことができる船大工もいたしな。


(疲れた)

(オフ)

『これで港の仕事は終わりだろうし。孤児院に行く前に飯にするか』

「ん! カレー!」

「オンオン!」

「フ、フラン。急にどうした?」


 おっと、ガムドを驚かせちまったな。カレーをやるから許してくれ。カレー師匠のお手製カレーだぞ?

次回は8/4更新予定です。その後は通常更新に戻せる予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言]師匠、カレー師匠て自分で認めちゃってるやんwww
[一言] A級の本当にフランが尊敬できる人たちに出会えたのはフランにとっていい財産だよな。 ……まあまれに反面教師もいたけど
[一言] この盤面でランクアップの話って… 師匠の半年休眠までは安定して面白かったのに…
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