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1039 Side ファンナベルタ

描き終えた時に日をまたいでいることに気付かず、翌日更新予定にしてしまっておりました。

申し訳ありません。

 私の名前はファンナベルタ。


 偉大なる竜人王、トリスメギストス様に仕える者です。一の腹心、片腕と言ってもよいでしょう。


 ああ、憐れな我が王。


 トリスメギストス様はいつも困ったように笑って、同族だからと言っていました。傲慢さと誇りをはき違えた、あの愚かな竜人たちを見捨てられなかったのです。


 戦闘を好まないトリスメギストス様は、見下されていました。奴らはその態度を、隠そうともしなかった。


 なのに、その錬金術の才を知ってからは、手のひらを返したように近づいてくる。


 厚顔で恥知らず。強欲で浅ましく、戦闘以外に能がない。それが、竜人というものです。我が主はその中においての、貴種。唯一の例外でした。


 主には何度も、あれらを見捨てて国を出ようと意見したのですが、頷いてはくれませんでした。


 自分は王だから。民のために働かなければならないと……。


 その王の地位とて、竜人どもに押し付けられたものでした。静かに研究をしたいとおっしゃっていたトリスメギストス様を国に縛り付け、有効活用するための形だけの王位。


 真面目なあの方は、国民の為と言われては断りきることができなかったのです。王の金竜に生まれた者の定めだと言って。


 そうして大勢の役立たず共の面倒を見ることになった我が主は、国内に画期的な魔道具をいくつも広めていきます。


 室内の温度を一定に保つ魔道具。鱗と体の洗浄を一瞬で行う魔道具。食料を保存するための魔道具。


 生活は豊かになりましたが、竜人たちの欲望は留まることを知りませんでした。衣食住が満ちれば、次は戦です。


 我が主に、戦場で有用な魔道具を作るように迫りました。遠見の魔道具。穴掘りの魔道具。防壁の魔道具。


 その要求は日を追うごとにエスカレートし、主は天才的な頭脳と献身的な研究でそれに応えていきました。


 竜人の黄金時代などと呼ぶ輩もいるようですが、とんでもない。竜人の際限ない欲望を主1人で支えた、最も悍ましく、唾棄すべき時代と言えましょう。


 この頃、我が主は戦場に出るようになりました。竜人たちが、無理やり担ぎ出したのです。あれだけ主を利用しておいて、戦闘ができねばやはり王としては駄目だなどというふざけたお題目を掲げて。


 私もつき従い、無数の屍の山を築き上げます。この頃でしょうか。私に冷血の魔女や、虐殺剣士。黄金王の影などという異名が付くようになったのは?


 ですが、どれだけ活躍したとしても、私はエルフ。当時のゴルディシア大陸において、エルフは竜人の下僕のような扱いだったのです。竜人のクソ共は、私が王の隣にいることを決して認めませんでした。


 ありとあらゆる手を使い私と主を引き離そうとし、ありとあらゆる嫌がらせをしてきました。時には、戦場で主と引き離され、その身を危険にさらしてしまうことすらあったほどです。


 まあ、虚偽の報告をした竜人は、見せしめのためにそれなりに酷い方法で殺しましたが。半身を氷漬けにしたうえで、7日ほどかけてゆっくりと鱗を剥いで衰弱死させたのです。アレは見ものでしたね。


 ですが、それで嫌がらせが終わるわけではありません。竜人の有力者たちは、自身の娘を主の正室に押し込みたくて仕方がないのです。それには、私が邪魔と考えたようでした。


 下らない。私とトリスメギストス様の間に、男女の情などというあやふやなものは存在しません。あのような生存本能と色欲を都合よく勘違いした感情ではなく、私が抱くのは純粋な忠誠心。


 たとえ何があろうとも変わることない、金剛石の如き忠誠だけが、私を動かしているのです。ですから、王が王妃を娶るというのであれば、歓迎しましょう。盆暗どもには、それが分からないようでした。自身の尺度でしかものを図れない愚図はこれだから嫌なのです。


 そんなある日のことでした。私は、複数の竜人の襲撃を受け、瀕死の重傷を負わされてしまいます。命竜人がいたようで、回復魔術でも傷が塞がりません。


 結果、私はある研究の被験者となります。それは、インテリジェンス・ウェポンの創造。


 元々は、戦場などで助言をしてくれる、人造魂魄を移植した剣を作る研究でした。ですが、性能面で満足いくものが作れず、人間を直接取り込むという方向へとシフトしていたのですが……。


 奴隷で何度か実験した結果、精神が壊れてしまい上手くいきませんでした。人の精神が剣に宿るというのは、それほど過酷なことなのでしょう。


 ですが、私は死ぬわけにはいきません。トリスメギストス様の横に永久に控えて、お力になり続けなければならないのですから。


 結果、実験は成功します。私はいつの間にか献身というスキルを獲得しており、それが精神に活力を与えて狂うことを防いでくれているようでした。


 ですが、完璧ではありません。少しずつ、心が摩耗していくのが分かるのです。私がまともなうちに、トリスメギストス様の地位を盤石なものにせねばなりません。


 トリスメギストス様も、私の状態に気づいていたのでしょう。私が狂っていない内に、他の竜人を黙らせる成果を上げようと考えました。


 結果、あの悲劇です。


 それに関しては、やり過ぎたと反省しています。本来は私が注意せねばならなかったのですが、むしろ煽ってしまいましたから。剣と化したことで判断力が鈍っていたのでしょう。


 ですが、私にとっての真の悲劇は、この後にやってきたのです。


 不老不死の罪人として、自身が生み出した深淵喰らいと戦い続ける。それが主への罰であり、私はその姿を見届ける役目を与えられました。


 献身スキルが永久の忠節というスキルに進化し、私もまた永遠に存在することが可能となったのです。


 しかし、長い時をかけて変異していく主の姿を見続けることは、まさに拷問と言える時間でした。


「ファンナベルタよ。今日も助かった。明日もよろしく頼む」

『お任せください』

「ああ。お前がいてくれて、よかったよ」


「ファンナベルタ。いくぞ。その力を存分に振るえ」

『は! 頑張りましょう』

「ああ。そうだな」


「ファンナベルタ。いくぞ」

『我が主、ご無理は為さらぬように』

「ああ」


 次第に会話は減り、応えてくださる言葉から熱が失われ、その顔から表情が失われていく。時の牢獄は、人々が想像する以上に残酷で、恐ろしいものだったのです。


 それでも我が忠誠心に曇りはない。この方を支え続けてみせる。そう考えていた私を、あの事件が変えてしまいます。


 毒と悪魔の力を振るう、神剣使いとの戦い。あの男は、愚かにもトリスメギストス様の不老不死を狙っていたようです。永劫に生き続けることの恐ろしさも分からぬ愚物が、随分と偉そうでしたね。


 嫉妬の原罪というスキルの特性を考えれば、奪うことができると考えていたようですが、さすがに神罰に手出しはできなかったのでしょう。


 結果、私のスキルに目を付けました。不老不死ではなくとも、その切っ掛けになりうる。そう考え、永久の忠節を奪っていったのです。


 あれは、誰かに強制的な忠誠を誓わされるスキルなのですが、あの男はどうなったのでしょうかね? 私の場合は、元よりトリスメギストス様に忠誠を誓う身。問題はありませんでしたが……。


 まあ、あのようなもののことはどうでもいいでしょう。私は永久の忠節を失う代わりに、等価交換で嫉妬の原罪を押し付けられました。


 そこからは、さらに最悪の日々の始まりです。自身の精神が制御できず、喚き散らす自分が信じられません。しかも、段々とスキルと自己が馴染み、違和感を感じなくなっていきました。


 こんな醜く無能な私など、消し去ってしまいたい。そんな想いも次第に嫉妬によって塗りつぶされ、奥底へと押し込まれていきました。


 そして、あの時が訪れます。


『トリスメギストス様! 刀身に魔力を! お願い! このままでは――』


 醜く喚き立てる私。だが、すぐにその感情は消え去る。


『ぎぁあいいぃぃぃぃぃ!』


 自身が捕食される感覚と共に、私の精神は均衡を取り戻していた。破壊されたことで、嫉妬の原罪の影響が薄まったのでしょう。


 ああ、ありがとうございます。我が主よ。これで、私は消え去ることができる……。ですが、私なしで主は大丈夫でしょうか? あの紛い物のインテリジェンス・ウェポンが、主をお支えできるのか、不安で仕方ありません。


 それにしても、さっきから薄れる意識の代わりのように流れ込んでくるこれは、この剣の記憶? 少女との旅の記憶は、濃密で微笑ましく、希望に満ち溢れた日々でした。


 ああ、これはなんとも……妬ましい――。


本日、17:00~ 「文化放送A&G 東放学園プレゼンツ まなべるライトノベル」に、転剣の担当編集さんが出演されます。明日には聞き逃しもありますので、興味がおありでしたら是非お聞きください。

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― 新着の感想 ―
ファンナベルタの最期の言葉が強烈!
[一言] 師匠は食欲・性欲・睡眠欲を無くして色々セーフティ回路を搭載しているけど、三大欲求を完全に満たせない生活は良く耐えれると思う。せめて食欲を分身体で無くて剣の状態で満たせれば幸せなのに。 無機物…
[一言] そういえば師匠、フランの相棒でいるため、変節しないスキルを欲しているようだけど。そもそもフランはまだ長生きできる身体ではないのでは。 仮に師匠がおかしくなるとして。 神々の処置を受けた身なら…
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