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1038 毒使いと神剣


 俺が狂わずにいるための手掛かりになりそうなスキル、『永久の忠節』。主の奴隷のようになってしまう効果があるため、そのまま使うことはしたくない。


 だが、アナウンスさんの力で、いい具合に仕立て直してもらえば? できるかどうかも分からないし、いつもいつも頼りっきりにしてしまうが、こればかりはその力に頼らざるを得ないだろう。


 フランの相棒として、一緒に居続けることができるかどうかの重要な足がかりだからな。


「神剣使い……。もしかして、フィリアース王国の人?」


 悪魔を操る神剣となると、その名前しか思い浮かばないんだが……。


「いや、そうではない。フィリアースのディアボロスは知っているが、あれとは外見が違っていた」


 つまり、ディアボロス以外にも、悪魔を操ることが可能な神剣があるってことか?


「使用者は人間の男であった。先ほども言ったが、使い手の名は知らぬ。だが、使っていた神剣は分かっている。彼の者が使いしは、『獄門剣・ヘル』。幾種類もの毒を操ることが可能な神剣だ。だが、自身に悪魔を降ろし、その力を利用する能力もあったようだ」


 毒と悪魔。近いようで、関係性がイマイチわからない。いや、獄門剣という名前からすると、地獄の門を開く的な能力なのだろう。


 この世界に地獄があるのか分からない。ただ、地球の伝承上において、悪魔は地獄に住んでいることになっている。だとすると、獄門剣が悪魔の力を利用することができてもおかしくはなかった。


「ヘルの使用者は、金銀妖眼、金髪黒肌をした、男娼の如き優男であった」

「それはっ!」


 トリスメギストスの言葉に反応したのは、セリアドットだ。途端に目つきを鋭くし、トリスメギストスに食って掛かるように言葉を発した。


「そいつは今どこにいるのじゃ!」

「知らぬ」


 セリアドットのことを認めていないからか、トリスメギストスの態度はそっけない。だが、セリアドットは怯まなかった。


「間違いない! そいつは、儂らの国を滅ぼした毒使いじゃ!」


 やはり、彼女の仇か。闇奴隷を多数従えた、強力な毒使い。そりゃあ、ローレライが負けるわけだ。神剣使いだったとはね。


「手掛かりもない? 目的とか」

「力を欲していたようだ。最初は、金竜剣・エルドラドのことを聞いていた。あれが元々、我のために打たれたと聞き及んだらしい」

「エルドラドが、トリスメギストスのための剣?」

「うむ」


 なんとエルドラドは、深淵喰らいと戦うトリスメギストスのために作られた神剣だったという。金の竜人と金竜剣。確かに相性が良さそうだ。


 それに、代償の寿命も、神罰によって不老不死のトリスメギストスなら問題ない。ウルマーの作った神剣にしては代償に違和感があったが、そういうことだったのか。


「じゃあ、なんで使ってない?」

「装備できなかったのだよ。ウルマーは、我がエルドラドを拒否しているなどと言っていたがな。別れ際に、ファンナベルタを大事にするようにと言っていたが……。そう言えば、そんなこともあったのだな」


 それって、当時のトリスメギストスが、ファンナベルタがあるからエルドラドはいらないって、神剣を拒否したってことか?


 まるで、フランみたいじゃないか。俺がいれば神剣なんかいらないって言ってくれる、フランと同じだ。


 それがああなっちまうんだから、永遠に生き続けるって言うのは想像以上に恐ろしい罰なんだろう。フランは悲し気な顔で、トリスメギストスを見ていた。


「それと、奴はここに来た際に幼女を1人連れていた。奴隷のようだったが、あれはそこの女と同じ種族だった」


 ローレライを連れた毒使いの男か。間違いないだろう。


「……いいじゃろう。この大陸にきたことが分かっただけでも、十分なのじゃ。それに、闇奴隷商人同士で繋がりがある可能性も見えた。そこから足取りを追えばよい」


 激情を抑え込むように、セリアドットが俯きながらブツブツと呟いている。その姿は、目の前にいるトリスメギストスの空虚さと相まって、近寄りがたい迫力を放っていた。


 そこに割り込めるんだから、イザリオはさすがだ。


「結界屋の事情は分からんが、とりあえずこっちの話を進めてもいいかい?」

「ごめんなのじゃ。少々取り乱した」

「いいさ、人それぞれ、いろんなものを抱えてるもんだからな」


 そう言って、肩をすくめて苦笑いをするイザリオ。彼自身がまさにその言葉通り、色々と抱えている。妙に含蓄があるように感じるのは、そのせいなのだろう。


「さて、トリスメギストスさんよ。深淵喰らいの力が弱まったって話だが、今後どんな影響が出るか分かるかい?」

「うむ。まず、数日は抗魔が生まれないだろう。そして、短期間ではあるが、抗魔が弱体化することは間違いない。試算では、30年ほどか」

「30年? 短期間って……。いや、あんたにとっちゃ、短いか」

「その間、抗魔の季節も発生しない可能性が高い」

「そりゃあ、至れり尽くせりだ」


 トリスメギストスが深淵喰らいを倒すまでの時間が少し短縮されるくらいかと思っていたが、その影響は想像以上だった。


 抗魔が弱体化するだけでも随分と過ごしやすくなるが、抗魔の季節がしばらくなくなる? 各都市にとっては朗報だろう。


 だが、話はそう簡単なことではなかった。イザリオやジェインが、何故か渋い顔をしている。


「これは、各国が知ったら一騒動起きるぞ?」

「……30年も安寧が続くとなれば、この大陸への人の流入が増えるわよ? それこそ、人口が爆発的に増えるかもしれない」


 今いる人々が安全になるだけでは済まない。より、この大陸へと訪れる人が増えるだろうし、死亡確率も下がるはずだ。


 そうなれば、人口が大幅に増えてもおかしくはない。一時的には戦力が増えて、抗魔相手に優勢に立てる可能性はあった。


 だが、30年後、深淵喰らいが回復し、今と同じ状況に戻ったら? 大量の餌がある状態になってしまうかもしれない。


 長い目で見たら、マイナスになる可能性もあった。


「あなたは、今回大勢の人間の死を願ったけど、また人が増えたらどうするつもりなのかしら?」

「無論、同じように人を減らすだろう。神剣使いがいない状況では強い抗魔を作り出すことはリスクを伴うが、間引きをせねば無為に人が増え続け、深淵喰らいを利することになる」

「城の結界の中から出れずとも、それが可能だってことかい?」

「廃棄神剣を観察することで、強力な抗魔を生み出す魔道具の設計も完了した。もう、我だけで同じことを行えるだろう」


 ああ、そう言えばこいつは天才錬金術師だったな。理屈は分からんが、巨大抗魔を生み出すための道具を作れるらしい。


「イザリオ、ジェイン。そなたらから各国へと警告を発せよ。責務などという勝手な理屈を使い、我が使命の邪魔をするのは止めろ。此度、世界は滅びかけたのだと」

「……それぞれの国を納得させることなんざ、不可能だ」

「次、深淵喰らいが解き放たれた時、神々が救済を行うかどうかは分からんぞ? 彼の存在たちにとって、人とはその程度の価値しかない」


 トリスメギストスの言葉に、お前が言うなと思いつつも、どこか納得してしまっていた。神々の伝承ってどこかドライで、慈悲とかそういった言葉とは程遠いものが多い。


 多分、混沌の女神のような変わり種の神々を除けば、トリスメギストスの言葉が正しいのだ。だから神罰とかもアバウトだし、結構適当なのである。興味があまりないから。特に、自然神なんかはその傾向が強いのだろう。


「あなたの言う通りに動くのは業腹だけど、そうも言ってられないわね……。この大陸を利用することは深淵喰らいを、ひいては邪神の欠片を利用したとみなされる可能性がある。そんな感じの話の持っていき方で、牽制してみようかしら」

「俺も、久しぶりにコネを全開で使うか……。はぁ、面倒だが、仕方ねぇな」


 トリスメギストスが排除できないのであれば、できることは一つしかない。結局、各国がこの大陸をいいように利用する現状を変えなくてはならなかった。


 イザリオたちが暗い顔で相談をしていると、不意に玉座の真横に魔法陣が浮かび上がる。その中からせり上がってきたのは、トリスメギストスの玉座によく似た椅子と、そこに腰かける1人の女だ。


「ここは……?」

「今、神々から情報が伝えられた。新たな罪人メルトリッテ、歓迎しよう」

「トリスメギストス! では、ここは城なのね! いつの間に……!」


 神罰で抗魔と戦わせると言っていたが、まさかトリスメギストスと共闘させるつもりなのか? 竜人を憎んでいるメルトリッテが、一緒に戦えるわけがないと思うが。


 それどころか、邪魔をしかねない。それこそ、世界の危機なんじゃ……?


 だが、すぐにそれが杞憂だと分かる。メルトリッテが目の前で苦しみ始めたのだ。


「いぎっ! あがぁぁぁ!」

「我が使命を邪魔しようと思考した瞬間、汝には激痛が与えられる」

「ぐぎ、ぎぎぃぃ……!」

「これは、使命を果たさず、怠惰に過ごした場合も同様だ」

「いぎぃぃ……! く、そ……」

「我も最初は同じであったが、すぐに無駄だと分かる。その痛みに、耐性は付かないからな」


 トリスメギストスの言葉を聞いて、彼の邪魔をすることは諦めたらしい。メルトリッテの顔から、苦痛の色が消える。下手なことを考えなければ、大丈夫なようだ。


「……くそっ! くそくそくそくそくそくそくそくそ! 私は諦めないわ! いつか、あんたも、竜人も、滅ぼしてやる!」

「使命が達成されれば、我らは自由となる。その時にその気持ちが残っているのであれば、好きにすればいい」

「何年経ったって、この気持ちは忘れないわ! 絶対に!」


 メルトリッテは鬼気迫る表情でそう叫ぶと、トリスメギストスを睨みつける。対するトリスメギストスは、相変わらずの無表情でその憎しみを受け止めていた。


レビューの再投稿、ありがとうございます。

なるほど、寝不足でしたか。

寝不足の状態で行動して、失敗することってありますよね。

私もありますwww 何をやらかしたかは言えませんが。

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― 新着の感想 ―
トリスメギストスも最初はこんな感じで抗立てたんだろうなぁ
[良い点] 相棒はいなくなったが。 誰よりも自分を(憎く)想う相方が誕生したよ! [一言] これは罪を償い続けてきたトリスへの、ご褒美なのかもしれない。 だからああいう結果になったのかなとか。
[気になる点] いずれ師匠も狂う心配しているけど、そもそも剣化を克服する以上の対策って必要? フランって寿命が伸びるようなスキル、持っていたっけ? 師匠はこっちの世界に魂ごと移住を決めちゃったけど、…
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