表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1031/1337

1029 炎獄


「あとは、任せろ」

「ん……」

「いいところを貰っちまって、悪いな」

「イザリオ、だいじょぶ?」

「なに、嬢ちゃんたちが弱らせてくれたんだ。おじさんも頑張らないとな」


 フランが表情を曇らせている理由は、イザリオを心配しているからだ。彼の放つ気配が、明らかに弱々しいのである。


 神剣を開放し続けたせいでレベルが下がっているうえ、度重なる激戦で反動と消耗も凄まじいのだろう。


 イザリオも自分の限界を悟っているはずだが、自信ありげな表情で笑い飛ばす。フランを心配させまいと振舞ってくれているのだ。


「嬢ちゃん。動けるか? できるだけ離れろ」

「ん……」

『大丈夫だ。俺がフランとソフィを連れていく』

「頼んだぜ」

『……こっちこそ、頼む』

「おう」


 イザリオは手をヒラヒラと振ると、巨大抗魔に向かって駆けて行った。さほど速くないのは、俺たちが離れる猶予を与えてくれているんだろう。


『逃げるぞ!』

「ん……」


 俺は動けないフランとソフィを念動で抱きかかえると、できるだけ距離を取る。


 少しでも、イザリオの負担を減らさなくてはならないのだ。他の仲間たちも、動き始めている。ウルシが手伝ってくれれば早いんだが、まだ影の中から出てくることはできないらしい。


 あの一撃に、全魔力を込めて使い果たしてしまったのだろう。共食いのお陰で魔力が大分回復したので俺は動けているが、それがなかったら危なかったかもしれない。


 必死に離れていると、背後で神気が大きく動くのが分かった。


 すでに100メートル以上は離れているが、イグニスが放つ凄まじい熱気が伝わってきていた。


 イグニスから立ち上る熱気によって陽炎が生まれ、周囲が歪んで見える。しかも、イザリオの肉体が焼け爛れ、煙が上がっていた。


 イグニスの周囲に渦巻く炎は、イザリオも制御がしきれないほどの超高密度の神炎なのだろう。


 イザリオがイグニスを振り被ると、炎が周囲に舞い踊る。美しい光景だが、地面に触れた炎によって大地が溶け、ブクブクと泡立っているのが見えた。まるで、地獄の釜だ。


 神炎を纏うイザリオに対し、危機感が刺激されたのだろうか? 巨大抗魔が大きく蠢いた。放たれているのは、強烈な邪気だ。


 抗魔というより、まるで邪神の欠片かと思うほど、邪気が濃密である。そして、その肉体が弾けるように変形した。


 何十本もの触手が生み出され、イザリオに向かって伸びていく。まだあんな動きをするだけの力があったのか。


 そんな邪気に塗れた抗魔に対し、イザリオは冷静に技を発動する。


「神剣技・炎獄」


 振り下ろされたイグニスから放たれたのは、小さな火の玉だった。失敗したファイアー・ボールのようだ。


 だが、そんなわけがなかった。一直線に飛ぶ赤い玉が、巨大抗魔にぶつかった直後――。


 ゴオオオオオオオオオオオオオォォ!


 太い炎の柱が、巨大抗魔のいた場所から立ち上っていた。天を穿とうとしているかのように、一直線に昇る真っ赤な炎。


 炎の柱の中で巨大抗魔の触手が大きく蠢いたかと思うと、すぐに燃え尽きて消滅していった。


 イザリオに制御されているおかげで、俺たちのいる場所はせいぜいサウナ程度の温度で済んでいる。だが、炎の柱の内に閉じ込められた熱量は、俺たちの想像など遥かに超えたものになっているだろう。技の名前の通り、炎の地獄だった。


 周囲に漏れ出す余剰エネルギーだけで、台風のような風が吹き寄せている。


 そんな状態が数秒ほど続いた直後、不意に轟音と爆風が消え去った。同時に炎の柱もその姿を消している。


 そして、巨大抗魔の姿も完全に消え去っていた。イザリオの炎獄によって、完全消滅したのだ。魔力を探知しようとしても、どこにも気配がない。


 さらに、この周辺を覆っていた紫のドームが消え去る。


 俺たちの勝利だった。


「ししょ、終わった……?」

『ああ! 巨大抗魔を倒せたぞ!』


 ずっと治癒魔術を使い続けてきたおかげで、フランの状態も持ち直した。しばらく戦闘はできないだろうが、衰弱して死んでしまうような状態は脱したのだ。


 神属性の反動もあるが、俺の魔力が大幅に増えた分、フランへの負担も大きいものになってしまったのだ。今後、気を付けなくてはならないだろう。


「イザ、リオ……」

『なに? あ! イザリオ!』


 倒れ込んだイザリオから、急速に生命力が失われていくのが分かった。これは、危険な勢いだ。


 代償でレベルが下がり過ぎた結果、神剣の反動を受け止めきれなくなってしまったらしい。長時間神剣を開放し続けたせいで、いつも以上の反動が襲っていることも原因だろう。


(師匠、イザリオを、助けて。もう、自分だけでだいじょぶだから)

『……わかった。ウルシ、いざとなったら2人を頼むぞ』

(オン)


 俺はフランとソフィを地面にそっと寝かすと、イザリオに向かって飛んだ。ヤバイ! 急げ俺!


『イザリオ! 絶対に助けるからな!』

「……ぅ」


 もう意識がない!


 俺は神気を練り込んだグレーターヒールを連発したが全く効果がなかった。


 これは、もっと上位の回復術が必要か? 今の俺の治癒魔術はLv5。状態異常の回復や、範囲回復などの術は覚えたが、グレーター・ヒール以上の純粋な回復特化の術はまだ入手していない。


 あと1つか2つレベルを上げれば、憶える可能性もあるんだが……。いや、イザリオには散々世話になった。この男のためなら、自己進化ポイントを使うのも惜しくはない。


 俺は治癒魔術と生命魔術、補助魔術を使い続けながら、自己進化ポイントを使用した。すると、治癒魔術を一つ上げただけで、目当ての回復術を引き当てる。


『マキシマム・ヒール!』


 少し回復した! でも、これでも全然だめだ! グレーター・ヒールよりはましだが、生命力が減る方が早い!


『くそ!』

「剣よ」

『!』


 なんだ? 急に気配が湧いて出たっ!


「イザリオが、危険であるようだな?」


 こんな時に! 狙ってやがったのかっ!


『トリスメギストス!』


全開は、更新時間に間に合わず、ご心配おかけいたしました。

まだ完全に治りきっておらず、次回はまた4日後とさせてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
トリスメギストスくんが脱獄してまーす
[一言]トリ某おめぇもう引っ込んでろよ何で城内の結界越えられたんだよ、神マジで仕事しねぇじゃねぇか。ここで助けるとかやったらほんとにお前何がしたいの頭ポンコツかこう成ったのお前が戦犯だからだぞこの◯◯…
[一言] なんか美味しそうな名前のヒールやな 万能調味料maximum‼️
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ