1021 流星
アースラースやメア、フランが巨大抗魔に攻撃をしかけて注意を惹く。先ほどまではこちらを無視して軍勢を狙っていた巨大抗魔も、アースラースはさすがに無視できないようだ。
こちらに襲い掛かってきている。
その間にも、オーファルヴの指揮のもと、彼らは反撃の準備を着々と進めていた。先ほどまではジェインの力で撤退するつもりだったが、アースラースが来てくれたことで事態が変わったのだ。
彼を先頭に、全軍を以て巨大抗魔を叩き潰す。そう決まったのである。紫の障壁がある以上、逃げられないということも分かったしな。
考えてみれば、この大陸の上位戦力のほとんどがこの周辺に集まっている。特に神剣使いは、アースラース、メア、ソフィ、アドル、アジサイがいるのだ。まあ、メアのリンドと、アジサイのベルセルクは開放できないし、アドルは戦闘不能だが。
それでも開放可能な神剣が2本というだけでも、十分に破格だった。さらに、オーファルヴとジェインという7賢者に、ヒルト、フラン、セリアドット、クイナ、ゼフメート、チェルシーといった強者も揃っている。
やることは、単純だ。
まず、オーファルヴたちが陣形を整えたら、アースラースが囮役から離脱。ガイアを開放して力を溜める。
その間はフランたちが死ぬ気で時間を稼ぎ、アースラースの合図で離脱。ガイアの最強技を巨大抗魔に放ち、倒せなければ残りの全員で全力攻撃だ。
そういう作戦だったのだが……。
「ちっ! デカブツが妙な動きをし始めやがった」
「凄い魔力!」
アースラースを追い掛け回しながら魔力弾を放っていた巨大抗魔が、突如その動きを止めていた。そのまま動かない。
だが、その内部では凄まじい変化が起きているのが分かる。魔力も邪気もドンドンと濃さを増し、さらに肉体の中心に集まっていく。同時に、深淵喰らいから流れ込む魔力の量も増えていた。
倍増といっていいだろう。しかし、巨大抗魔に注ぎ込まれる端から、その球体の中央で圧縮されていく。
アースラースだけではなく、俺たちも本気で攻撃を仕掛ける。魔力の圧縮を邪魔できればよかったんだが……。
外殻が砕け、肉体が消滅するのだが、その中心部分に傷を付けることができなかった。圧縮された超魔力が、障壁の役割を果たしているらしい。アースラースの放った大地魔術でさえ、多少のヒビが入る程度だ。それこそ、アドルの放った邪神斬りのような、超越者の全力攻撃でなくてはだめなのだろう。
そう悟ったアースラースは、その場で神剣を掲げ、叫んだ。
「神剣開放!」
ガイアがその姿を変え、巨大なハンマーのような異様な姿を現す。この至近距離で大地剣・ガイアの魔力を目の当たりにして、改めて神剣のぶっ飛び具合が分かってしまう。悔しくも頼もしい、超兵器がそこにはあった。
だが、巨大抗魔が放つ存在感も、神剣に負けていない。全く安心はできそうもなかった。
「フラン、離れてろ! どらあああぁぁ!」
アースラースが前に出て、ガイアを振り下ろした。剣が届いておらずとも、不可視の力場が巨大抗魔に襲い掛かる。
その超巨大な体が真上から見えない力に押し潰され、地面にメキメキとめり込む。大地が深々と陥没し、数メートルはある亀裂が周囲に走るほどだ。
「ぬぅぅぅぅぅ……」
「ウオオオオオォォォ!」
アースラースが歯を食いしばりながら、剣を握る両手に力を込める。手とガイアがブルブルと震え、時おり押し返されそうになっているのが分かった。
対する巨大抗魔は、魔力を周辺に放ちながら、悲鳴のような甲高い音を上げている。
アースラースが維持する超重力場が景色を歪め、巨大抗魔がメチャクチャに放つ超高濃度の魔力が稲妻のようにその巨体を取り巻く。周囲は、何人も足を踏み入れられない死地と化していた。
そして、大爆発が起きる。
拮抗した両者の力が、そのまま周囲を吹き飛ばす。慌てて距離を取っていたフランも、爆風によって飛ばされてしまったほどだ。
ゴロゴロと大地を転がるフランを、念動でなんとか受け止め、魔術で傷を癒す。散弾のように飛んできた抗魔の破片が、障壁を貫いてフランに傷を負わせていた。
『大丈夫かっ!』
(……へいき)
ダメージは大きいが、意識が飛ぶほどではなかったらしい。フランは目の周りの血を拭いながら、ゆっくりと立ち上がった。
フランと同じような目にあった仲間たちも、何とか生きていることが分かる。ただ、爆心地にいたアースラースは大丈夫か?
『アースラースは……一歩も動いてないなっ!』
「ん」
障壁を張ったのか、無傷のアースラースが大地を踏みしめて立っていた。天を見上げて、目を細めている。その視線を追うと、遥か上空に豆粒のような点が見えた。
その正体は、巨大抗魔だ。
なんと、魔力の放出を利用して、大きく跳び上がったらしい。
元々抗魔がいた場所には、巨大なクレーターが生み出されている。その深さから見ても、凄まじい威力の爆発だったことが分かった。
逃げた? いや、そうではない。
「みんな! 離れろ! 全力でだぁぁぁぁ!」
アースラースが叫ぶ。その直後、巨大抗魔が急降下し始めた。その背後には、放出される魔力が煌めいている。
その姿は、まるで、流星のようだった。
考え方は、フランが使う天空抜刀術と同じだろう。落下と魔力放出、双方のエネルギーを加算した、超威力の攻撃だ。フランが使うのが斬撃であるのに対し、巨大抗魔は自重を生かした体当たりであるという差はあるけどな。
アースラースの焦った様子を見るに、その危険度は相当なものなのだろう。
『フラン! 逃げるぞ! ここにいてもアースラースの邪魔になる!』
(……わかった)
悔し気に頷いて駆け出すフランの背後で、神属性の魔力が吹き上がるのが感じられた。アースラースは迎撃するつもりであるようだ。
『もっと離れないとやばい!』
俺の危険察知スキルは、異常なほどに反応し続けていた。




