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1013 現れたモノ


 フランが脱出するために駆け出した直後、背後では大爆発が起きていた。イザリオが神剣を開放したのだ。


『結局、イザリオに頼っちまったな』

(ん……)


 悔しいのだろう。フランは唇をかみしめている。だが、足を止めることはなかった。


 全ての力を移動に使い、神速でひたすら駆ける。自分が早く逃げることが、イザリオの援けになると分かっているのだ。


 追ってくる者はいない。トリスメギストスは、イザリオがしっかりと引きつけてくれたのだろう。


 ただ、奴らとの話し合いは、もうかなり難しくなっただろうな。フランは未だに怒っているだろうし、向こうもこちらを破壊するとか言っていた。


 しかし、俺を壊して力を奪う、か……。


 俺が破壊されると、邪神の欠片とフェンリルさんは対消滅するらしい。少なくとも、あいつらは嘘だとは思っていなかったし、トリスメギストスの竜眼の力は凄まじいらしい。高確率で、正しいだろう。


 つまり、破壊されても残る可能性がある部分。奴らが言う迷宮核――混沌の女神様がダンジョンのシステムに似せて作った、強化と成長に関するシステムが目的なんだろう。


 ファンナベルタも、剣でありながら成長する力が妬ましいとか言ってたしな。ただ、俺の成長はフェンリルさんの力有りきだ。奪い取れたとしても、意味はないと思うんだがな……。


 そこまでは見えていないのか、違う目的があるのか。


 俺がファンナベルタの言葉を思い返している間にもフランは走り続け、城の外を目指していた。


(あそこ曲がったら出口まであとちょっと!)

『よし! このまま一気に城の敷地から出ちまえば――』


 玉座の間を通り過ぎて、あとちょっとで城外というところだ。


 グラッ!


 足元が大きく揺れた。


 まるで、床材が真横にズレたのかと思うほどの、強い横揺れである。イザリオたちの戦闘の衝撃が伝わってきたのかと思ったが、そんな生易しい状況ではないようだった。


 なんと、収まらぬ揺れに耐えきれず、城の床や壁にヒビが入り始め、だんだんと広がり始めていたのだ。石材を砕きながら走る床の亀裂は、すでに足を取られそうなほどに深い。


『やばい! 崩れるぞ!』

「ん!」


 亀裂はついに天井にも及び始め、大小の石片が雨霰と降り始める。まともな力ではほとんど傷すらつかない、神の力で保護された城が、あっけなく崩れようとしていた。


 城の地下から感じられるのは、ただひたすらに強大な抗魔の力だった。膨れ上がるその気配は、俺の探知能力がバグったのかと思ってしまうほどに、強烈だ。


 単純な力の大きさで言えば、神剣開放時のイザリオやアースラースでさえ、負けているだろう。


 もしかして、深淵喰らい? そう思ってしまったほどだ。


 城が壊れるガラガラという音に追い立てられるように、フランは足を動かし続ける。そして、飛び出した。


「間に合った!」

『城は……離れろ!』


 フランが跳び退いた直後、その場に大きな瓦礫が落ちてくる。一抱えもある、石壁の一部だ。しかも、それで終わりではない。


 城の尖塔が崩れ、倒れ込んでくるのが見えるのだ。


 フランはさらに走って瓦礫を避けながら、城から距離を取った。全体を見ると分かるが、影響が出ているのは城だけではない。城の建つ丘全体が裂け、崩れ始めていた。


 それに、丘が明らかに膨張している。下から、強い力で押し上げられているようだ。この巨大な丘の下で、何が起こっている?


 ズズズズ!


『地面が……! フラン! 跳べ!』


 丘の斜面が崩れ、大きな地割れが四方に向かって走る。深い割れ目に呑み込まれる直前、フランが空中跳躍で一気に丘から離脱した。


「何か、くる!」

『デカいぞ!』


 城の一部が内側から弾け飛び、巨大な影が姿を現す。大きさで言えば、巨人型抗魔を超えるだろう。


 その魔力も巨人型――しかも、二体が融合した大型の巨人型に匹敵している。


「赤くて金色……。地下にいた奴?」

『確かに、魔力の波長は似ているが……』


 色調と魔力だけじゃなくて、姿も似ている。地下で戦っていた赤金の抗魔が、巨大化したってことなのか? 巨人型はもしかして、こいつを生み出すための実験だったとか?


 城を崩壊させながら立ち上がった巨大な赤金の抗魔は、深呼吸でもするかのように肩と胸板を上下させている。


 遥か上にある抗魔の顔を呆然と見上げていると、聞き覚えのある哄笑が響いた。


「あはははははははははははははは! ここまでたどり着いたわ! 生命力も集まらないし、いずれ食らう予定だったオーバーグロウスも消えた! 計画がここまで狂うなんて思わなかったけど、器はここに完成した! 最強の抗魔の誕生よ!」


 その発生源は、巨大抗魔の肩だ。そこに、メルトリッテがいた。エルフの子供に見えるローレライの少女が、悪鬼のような表情でこちらを睥睨している。


 抗魔化が進んだらしい。手や顔の一部が、抗魔のように変貌している。


「どいつもこいつも、叩き潰してやる!」

「メルトリッテ!」

「小娘! そこで見ていなさい! 全てが滅ぶ様をね!」


 メルトリッテがそう叫んだ直後、急に日の光が陰った。巨大な影が、大地を覆っている。上を見上げると、上空で紫色の染みが急激に広がっていくのが見えた。


 城を囲む結界が変色している? いや、もっと上だな。半透明の紫色のドームが、広範囲を覆っていく。大陸を覆う結界ほどではないが、直径数キロはありそうな紫のドームである。


 メルトリッテの仕業なのか?


 困惑する俺たちに向かって、メルトリッテの金切り声が降ってくる。


「もうこれで誰も逃げられない! この抗魔が、全てを喰らい尽くす!」

「どういうこと?!」


 フランが叫ぶように聞き返したが、もうメルトリッテはフランを見ていなかった。遠くの大地を睨みつけながら、ひたすら叫び声を上げている。


「滅べ! あははははは! ぜんぶほろべぇ!」


何とか再開です。

3回目の副反応は重くて長くなりがちなようなので、皆様もお気を付けください。

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― 新着の感想 ―
[一言]とりあえず分かったこと。この発狂ローレライを生かしたのは廃棄神剣のスキルが有用であとで取り込めそうだから、とかだろうけど。贖罪中だというのに結局反省もせずただただ自分が利用するためだけにまた同…
[一言] 神罰!神罰!
[一言] ユウさん、ありがとうございます。
2022/04/20 13:04 退会済み
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