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1003 ローブの下の正体


 自分が放った邪気を打ち消され、少女が驚愕の表情を浮かべている。邪気を操る力を持っているのは、邪人や邪竜人のように強力な邪気を纏っていることが多い。


 そうは見えないフランが邪気を操作したことに驚いたのだろう。その隙に、イザリオが動き出していた。


「これ以上の情報は……叩きのめしてから無理矢理聞くとしようか!」

「あら、竜人みたいに野蛮ね? 女性にもてないわよ?」

「育ちが悪いもんでなぁ!」


 イザリオがイグニスを振り上げる。驚くべきは、その圧力の前に立ち、軽口を叩ける少女の胆力だ。焦った様子すらない。


 薄く笑う少女に対し、イザリオが火炎を叩き込んだ。紅蓮の炎がその小さな体を呑み込むかと思われたが――直前で、炎が見えない壁に遮られるように遮断されていた。かなり手加減しているとはいえ、イグニスの炎だぞ?


「ちっ! いけ! 嬢ちゃん!」

「ん! ウルシ!」

「ホン!」


 今の攻防だけで、ローブの少女が尋常な相手ではないと理解したらしい。イザリオがフランたちを逃がすために、少女との間に立ちふさがった。


 邪魔な人間がいる状態では、不利だと考えたのだろう。フランがベルメリアとティラナリアを両肩に担ぎ、ウルシがフレデリックの襟を咥えて入り口を目指す。


 しかし、フランもウルシも、この部屋を出ることはできなかった。


「むぐ?」

「うあ!」

『なんだこりゃ?』

「ホン?」


 入り口に、見えない壁が出現していたのだ。額を打ち付けたフランとベルメリアが、顔をしかめた。先ほど、イザリオの火炎を防いだものと同じだろう。


 セリアドットの結界に似ているかもしれない。感知が難しく、それでいてかなり強固だ。フランが前蹴りを叩きこんでも、ビクともしなかった。


 フランが再度足を引いて構える。


「本気で蹴る!」

『神属性を使うのか?』

「ん!」


 まだ、一瞬で神属性を練り上げることはできないのだろう。だが、確実に自分の意志で扱うことができるようになったようだ。


「む」

『どうした!』

「さっきより、上手く行きそう」


 多分、獣蟲の神の加護のお陰だろう。数秒ほどの溜めで、フランの足に薄っすらと神属性が宿るのが分かった。


「ふぅぅ……! はっ!」


 今度はあっさりと結界が砕け散った。威力というよりは、神属性が効果を発揮したらしい。


「馬鹿な! 極大魔術の一撃にだって耐えるって触れ込みなのよ!」

『フラン、ウルシ! いくぞ!』

「ん」

「オン!」

「まてっ!」

「ローブの嬢ちゃん。お前さんの相手は俺だ」


 イザリオが攻撃を加えて、ローブの少女の謎追撃を邪魔する。先ほどと違って、神属性の練り込まれた本気の炎だ。


「こっちも結界を破るの? もう! うざったい!」


 少女は苛立ちの声を上げるが、悲鳴は聞こえない。イザリオの炎を食らって、無事? いや、ローブや肌の一部は燃えている。見た目とは違い、相当タフであるようだ。


 それに、ついに鑑定が僅かながら通じていた。強力な隠蔽効果を持っていたのは、あのローブなのだろう。ローブが傷付いたことで、隠蔽効果が下がったのだ。


 名前はメルトリッテ・ウィステリア。


 そう、ウィステリアだ。カメリア、マグノリアに並ぶゴルディシア三家の一角にして、ツァルッタ曰く最も危険という、あのウィステリアであった。


 竜人を恨む理由は、よく分かった。なにせ、竜人に滅ぼされて、邪神の欠片を奪われたわけだしな。


 しかも、種族がローレライとなっている。元々人間だったよな? でも、ローレライとの婚姻を繰り返せば、そういうこともあるのか?


 これで、あの結界の出所が分かった。セリアドットで間違いないだろう。立ち位置は分からないが、ローレライ同士であれば手を組んでいてもおかしくはない。

 

 問題は、どこまで関わっているかである。セリアドットは闇奴隷商人の組織を追っていると言っていた。その首魁がゲオルグだと言われていたはずだ。


 だが、メルトリッテは、そのゲオルグと手を組んでいた。いや、何らかの方法で操っていただけだから、手を組んでいたわけじゃないのか? ともかく、セリアドットが完全に敵の場合、かなり厄介になるのだ。


 あと気になるのは、メルトリッテの持つ『邪心の先導』だろう。ゴルディシア三家の持つ、特殊スキルだ。邪人を暴走させる力があるらしいが、ゲオルグを操っていたのはその力だろうか?


「待ちなさい! 竜人族だけは逃がさないわ!」

「だったら俺を倒すんだな」

「ちっ!」


 背後で戦闘が始まる気配を感じながら、フランたちは狭い通路を駆け抜けた。


 トリスメギストスがその力を見せつけた、地下の巨大ホールへと戻ってくる。そう言えば、トリスメギストスは? ずっと黙ってみているだけだったが……。


「ベルメリア、動ける?」

「ええ……」

「フレデリックは?」

「大丈夫だ」


 先ほど操られかけたように見えたフレデリックも、今は問題ないらしい。ここからさらに離れた方がいいだろうか?


「移動する。もう少し我慢して」


 フランとウルシは再びベルメリアたちを抱え上げて、移動を開始する。そうして、核の間へと続く扉から少し離れた時であった。


 ゴオオゥゥン!


『うわっ! なんだ!』

「!」

「オン!」


 凄まじい爆音が響き渡る。


 俺たちが慌てて振り返ると、核の間への通路の扉が吹き飛び、通路から途轍もない勢いで炎が溢れだしていた。


レビューをいただきました。

戦闘シーンを褒めて頂けて、テンション爆上がりですよ!

一番、書き方を気にしている部分の一つなので!

作品が1000話を超える中で、まだ飽きないと言ってもらえるのも嬉しいです。

本当にありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ウィステリア!そしてセリアドットとはどういう関係なのか! 次が楽しみです!
[一言] フランがなついてる頼れる年上の強者ってこういうときに退場してしまう印象が強いからイザリオおじさんが心配すぎる…
[気になる点] 獣蟲の神の加護で神気を使えるようになったし、剣神化の負荷軽減や黒雷神爪の操作性向上に繋がったりしませんかね?
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