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1002 ローブ野郎


『黒幕だと思ってたやつが、あっさり死んじまったんだが……』

(師匠。みんなが)


 ゲオルグが倒されると、フレデリックたちにも変化があった。


 その動きを止め、苦しみ始めたのだ。頭を抱えて呻き声を上げている。そして、上げた顔には理性の色が浮かんでいた。


 ベルメリアとフレデリックには意識があるが、ティラナリアはそのまま倒れ込んでしまう。


「フ、ラン……」

「ベルメリア!」


 彼女たちを狂乱させていた元凶は、ゲオルグだったらしい。だが、ゲオルグも同じような状態だったのは何故だ?


「回復する!」

「いいえ! いい!」

「ベルメリア?」

「まだ、どうなるか、分からない。このまま、放置してくれればいい」


 ベルメリアは、まだ自分たちが操られる可能性があると考えているらしい。だからこそ、自分たちがまともに動けない方がいいと考えたようだ。


 どうも、暴れている最中の記憶が残っているようだな。倒れ込んでいるフレデリックも、申し訳なさそうな顔だ。


「黒雷姫、すまない」

「へいき。それより、だいじょぶ?」

「ああ……」


 ダメージよりは、全力を出したことによる消耗と反動が酷いらしい。回復せずとも死にはしないだろう。


 ローブ野郎をどうにかする前に、ベルメリアたちを避難させた方がいいか? フランも同じことを考えたらしい。


「イザリオ。ベルメリアたちを避難――」

「させると思う?」


 フランの声を遮ったのは、愛らしい少女の声であった。まさに、鈴を転がすという表現がピッタリな、澄んだ声である。


 驚きなのは、それを発した人物であろう。


「おいおい。今までだんまりだったくせに、ついにお目覚めかい? ローブ野郎」

「野郎ではないわ」

「女の子?」

「女の子と呼ばれるような年ではないのだけれど」


 ローブの下から現れたのは、ウェーブのかかった美しい金髪に白い肌の、やや幼く見える美少女であった。背も低いし、20歳を超えているようにはみえない。


 耳が尖っているし、エルフか? 相変わらず鑑定が弾かれるんだが……。余程高レベルの隠蔽能力があるのだろう。


 俺が何とか鑑定できないかと奮闘していると、少女が突如高笑いを始めた。


「あはははははは! ほんと嫌になるわね! 長い間準備してきて、ようやっと行動に移したというのに! こんなあっさり邪魔されるなんて! あー、おかしい!」


 言葉とは裏腹に、その目は笑っていない。忌々し気にこちらを睨んでいる。


「なにが真の竜人王よっ! 神竜化のスキルまで与えてやったのに、あっさり負けちゃったじゃない! 本当に役立たず! あんなのに期待した私が馬鹿だったわっ! 所詮、生きる価値のないクズ竜人でしかなかったわね!」


 そう叫んで地団駄を踏む少女からは、微笑ましさなど欠片も感じられなかった。彼女の底なしに深く暗い瞳から感じられるのは、憎悪と狂気である。


 小さな少女がそんな目をしているだけで、迫力が倍増するから不思議だった。イザリオも警戒した様子で、ゆっくりと少女に話しかける。


「お前さん。どこのどいつだい?」

「当ててみたら?」

「エルフかい?」


 少女が鼻で笑うような態度で、言い返す。強気な態度だ。しかし、イザリオは怒ることもなく、ニヤリと笑いながら口を開いた。


 少女に付き合うことにしたらしい。情報を得ようというのだろう。フランも相手を刺激しないように、動きを一度止めた。


「竜人に恨みがあるようだが」

「あら? それは分かるのね?」

「つまり、嬢ちゃんがエルフじゃないってことかね?」

「ついでに言えば、あなたよりも年上だと思うわよ?」


 どう見てみてもフランと同年代にしか見えないが、長命種であればおかしくはないだろう。エルフ以外の長命種で、エルフによく似ている? どんな種族だ?


「へえ? で、そのお姉さまが一体何が目的でこんなところにいるんですかねぇ? 恨んでいるはずの竜人王と組んでらっしゃるようでしたが?」

「組む? そんな風に見えた?」

「まあ、上下関係はしっかりしているようには見えたがね?」

「ふふ。そうでしょう? トカゲモドキを躾けるのは得意なの」


 ローブの少女が上げた暗い笑い声に、ベルメリアが反応した。


「お前は、何が――」

「トカゲモドキが勝手に喋ることは許可していないわ。黙りなさい。空気が穢れる」


 そう返した少女の顔に、一切の笑みがなかった。その顔を見ただけで、心底竜人を嫌っているのが分かる。それほどに、ベルメリアたちを見る目に好意的な色がなかった。


「おー、怖いねぇ。何があって、そこまで竜人を嫌うんだね?」

「ふん。面白くもない話よ。一族の仇。ただそれだけ」

「ははぁ、なるほど」


 つまり、復讐が目的ということか? 確かに面白くもないし、厄介でもある。行動の源にあるのが恨みである場合、諦めさせることが難しいからだ。


「そろそろいいかしら? その竜人たちを置いていくなら見逃してやってもいいわよ?」

「自信満々だねぇ? おじさん、これでもランクS冒険者なんだが? 結構強いんだよ?」

「そうね。私では勝てないかもね?」


 そう言いながら、少女は自信のある態度を崩さない。


 少女は核に刺さったままの奇剣の柄を握りつつ、もう片方の掌をこちらに向けた。直後、少女の体から濃密な邪気が膨れ上がり、こちらに襲い掛かってくる。


『近寄るな!』


 触手のように伸びてきた邪気が、俺のスキルで雲散霧消する。邪気支配が通用するらしい。


 それを見た少女が、初めて驚きの表情を浮かべていた。


「馬鹿な! 邪気を操る力が、他にも……?」

少々忙しく、次回更新は3/16となります。

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― 新着の感想 ―
[一言]…結界屋、同胞ここに居たぞ。
[一言] 師匠また狙われそうやん 黙ってるトリスメギストスもある意味怖いな
[良い点] ゴルディシア三家 正直、忘れかけていました。(^^; ゴルディシア大陸編で最後まで出て来ないなんてことはあり得ないはずだったのに! 「783 邪神王ガーディニアの伝説」を読み返しましたが、…
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