998 神竜化奪取
「ウガァァ!」
「ベルメリア!」
「ガアァァァァァ!」
『ダメだ! こっちの声は聞こえてない!』
「くっ……!」
フランが呼び掛けても、ベルメリアに反応はなかった。完全に精神操作されている。
フランは殺さずに無力化するつもりだろうが、かなり難しいだろう。むしろ、殺す方が簡単なはずだ。
だが、フランがベルメリアを見捨てるとは思えない。
『……フラン。向こうは理性もないし、全力全開で来るだろう。長引かせるのはマズい』
(ん)
今のベルメリアたちは、自滅するのも厭わずにフルスロットルだ。潜在能力解放状態のように、戦闘前から生命力が減り始めているのが分かる。
様子見をしていたら、それだけで死んでしまうかもしれなかった。早々に意識を奪うか、動けなくなるまでダメージを与えて押さえつけるかしなくてはならない。
俺はローブ野郎の動きを注視しているんだが、ほとんどこちらを見ていないようだ。ほとんど動かず、なにやら集中しているらしい。
あの剣で何かをしているんだろうか? 核に何らかの干渉をしている? ともかく、穏やかなことではないだろう。
ただ、あっちに集中している間は、こちらの邪魔をしてこないはずだ。
「はぁぁぁ!」
「ウルァァァ!」
フランが閃華迅雷を発動して一気に本気モードに入ったのだが、ベルメリアもまたギアを一段上げていた。
スピードは互角。パワーは向こうが上。剣のリーチではフランが有利であった。それと、厄介なのがベルメリアの纏う邪気だろう。
邪竜人になってしまったのかと思うほど、濃い邪気を放ち始めたのだ。その凶悪な邪気が俺の放つ念動や牽制魔術を乱し、打ち消してしまっていた。魔力を大量に込めれば邪気の影響は受けないが、消耗が凄まじい。
精神操作といい、邪気といい、道中で襲ってきた竜人たちと同じだ。これは、取り押さえることなんか可能なのか? 死ぬまで戦い続けるんじゃなかろうか?
黒雷を放ちながら高速移動するフランと、青い魔力を放ちながらその速度を上回る動きを見せ始めるベルメリア。
どうやら、向こうはまだまだ本気ではなかったらしい。いや、フランにあわせて、さらに無理を重ねているのだろう。ベルメリアの生命力の減り方が、さらに早まったのだ。
「ウガアァァァァ!」
「くっ!」
『一撃受けるだけで、耐久値がごっそり持っていかれる!』
深淵喰らいの核が放つ魔力が満ちているせいで、転移ができない。そのせいで、緊急回避が使えなかった。
ウルシも影に潜ることができず、中々フランたちの高速戦闘に割って入れないようだ。
少しずつ、フランが防御に回る時間が増えてきた。やはり、殺さないように手加減した状態で、勝てる相手ではないのだ。
身体能力は増していても武術スキルのレベルが低いせいで、まだ剣王術を持つフランは対応できている。ただ、戦いが長引いて消耗が増して来たら、一気に均衡は崩れるだろう。
その前に打開策を探ろうと何度も鑑定を試しているんだが、上手く行かない。格上だし、邪気も邪魔しているのだ。
それでも神属性を今まで以上に込めて鑑定を使っていると、一瞬だけベルメリアを鑑定することができていた。
ただ鑑定を繰り返し使っていただけで、魔力を凄まじく消耗してしまったな。だが、無理をした甲斐があったのである。
名称:ベルメリ――
種族:半――
状態:支配、邪気侵食、神竜――
ステータ――
HP:1029/2039 MP:709/1233
腕力:1258 体力:877 敏捷:90――
スキル
足裏感覚:Lv7、威圧:Lv8、怪力Lv3、危機察知:Lv5、拳闘技:Lv8、拳闘術:LvMax、拳聖――
ユニークスキル
気力統制、超竜鱗――
エクストラスキル
神竜化
称号
青き竜神――
正直、半分も見えなかった。だが、重要な部分はしっかりと確認できたのだ。
『フラン。ベルメリアはやはり神竜化してる! それもスキルでだ!』
(……! スキルテイカー!)
『その通り!』
アースラースの狂鬼化を奪った時に、スキルを失えば変化も治まると分かっている。支配やら邪気侵食やら、気になる部分はあるが、神竜化を失えばその戦闘力が大幅に下がることは間違いなかった。
『こういう時のために、このスキルを温存してきたんだ! 使うぞ!』
(ん!)
俺はベルメリアを対象にして、スキルテイカーを発動した。スキルの見えざる腕が ベルメリアの魂に触れたかと思うと、何かを奪う感覚がはっきりとある。
『うおぉぉっ?! お、俺にも効果があるのかよ!』
神竜化を奪った直後、俺の内側から凄まじい力が吹き上がる。これは、神属性? さらに邪気も混じっている。
どうやら、スキルによる強化が俺にも及んだらしい。竜人じゃなくても、意味があったようだ。
狂鬼化もそうだったが、発動中のスキルを奪うと、そのまま発動状態で俺の物になるのだろう。
『フラン! ウルシ! 今の内だ!』
「ん!」
「ガアッ!」
フランの蹴りがベルメリアを吹き飛ばす。神竜化を失った状態のベルメリアは、もうフランの敵ではなかった。
起き上がろうとしたベルメリアをウルシの前足が追撃し、再度弾き飛ばされたベルメリアを俺の大地魔術が挟み込んだ。さらに念動で押さえつけることで、その動きを阻害する。すぐに動き出すだろうが、今はそれで十分だ。
『俺の神竜化が維持できている内に、イザリオとフレデリックの援護を!』
「ん!」
「オン!」




