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98 Side セリド

 私の名はセリド・ディニアス。フィリアース王国に仕える侍従だ。


 現在は、フルト殿下、サティア殿下のお目付け役のようなことをしている。元々、幼き頃より見守ってきた両殿下なのだが、最近では距離を感じることが多い。


 それもこれも、奴が原因だ。


 元レイドス王国の騎士という男。サルート・オーランディ。ある日、王妃様が襲われている場所に居合わせ、賊を討つという功を上げると、あっと言う間にフィリアース王宮に馴染んでしまった男だ。


 故国を追われた流浪の騎士であるなどと語っていたが……。どう考えても怪しかった。レイドスのスパイとしか思えない。


 だが、しばらくすると陛下や王妃様は奴を重用するようになっていった。全く怪しむ様子もなく。いくら王妃様を救ったとは言え、少々不用心すぎるのではないだろうか?


 我が国の王族の方々のそういった危機感が低いことは確かだが、いくら何でも警戒心が薄すぎる。


 魅了や洗脳などの心身操作系魔術やスキルの使用を疑ったが、どれだけ調べても陛下たちに異常は発見できなかった。そもそも弱い術やスキルは自動的に防がれるようになっているし、防壁を破れるような強力な術を隠れて使うのは難しいのだが。


 ご自分たちが信用しているサルートを怪しみ、うるさく言う我らは王から遠ざけられてしまう始末だ。真に口惜しい限りである。


 それでも、私はサルートへの糾弾を止めようとは思わなかった。むしろ、サルートを怪しんでいるという事を声高に叫ぶ事が、「お前を疑っているぞ」と圧力をかけることになるからだ。たとえ陛下に疎んじられることになろうとも。


 さすがにレイドスのスパイなだけあり、中々尻尾を掴むことは出来なかったが、サルートの目的ははっきりしている。


 フィリアース王国に伝わる神剣。魔王剣ディアボロスだろう。


 神剣と言うのは伝説の中で語られることが多い存在であるにもかかわらず、その所在は驚くほどに分かっていない。誰もが名前を知る有名な神剣でありながら、現在は行方不明と言う物も多いのだ。


 そんな中、所在や所有者がはっきりしている神剣は5振り。始神剣アルファ、狂神剣ベルセルク、煌炎剣イグニス、大地剣ガイア。そして、我が国の魔王剣ディアボロスだ。


 遥か昔に存在した魔王をその内に封じた剣であると言い伝えられ、その魔王の力を使用者に与えるという。実際、ディアボロスは悪魔を召喚し、使役する能力があった。その力のお陰で、吹けば飛ぶような小国である我が国は、生き延びてこられたと言っても良い。


 ただ、召喚能力の代償に、戦闘力自体は低いらしい。神剣の中では、だが。実際、1000年程昔に、当時の継承者であった王太子が、水霊剣クリスタロスの所有者と一騎打ちを行い、敗北したという記録が残っている。しかし、悪魔を使役する能力は対軍勢では非常に有用であり、戦争自体には大勝利したとあった。


 また、ディアボロスは誰にでも扱えるものではなく、初代の使用者であるフィリアース建国王の血を引く王族にしか扱うことができない。資格のないものが触れれば、それだけで魂を剣に奪われ、命を落としてしまうのだ。逆に言えば、王族であれば、誰でもその力を振るえるという事ではあるが。


 悪魔を使役できること、王族にしか扱えないことは他国にも知られているが、それ以外の詳しい特性や能力は他国に厳重に秘匿され、10歳以上の王族、侍従長を含めた6人の侍従、4人の軍団長、宰相らしか真実を知らなかった。


 真実を知る者には悪魔が下賜され、その身を守っている。私の中にも脅威度Dの下級悪魔が存在しており、命の危機が迫った際には自動的に召喚され、私を守るはずだ。まあ、王族ではない私には、悪魔を自力で召喚することも、操ることもできないが。


 また、この悪魔は枷でもある。神剣について真実を知らぬ者に情報を明かそうとしても、悪魔によって声を奪われ、喋ることができなくなるようになっているのだ。情報秘匿の一環として、悪魔には鑑定を欺く能力も与えられていた。レアなスキルである鑑定であるが、決していない訳ではない。そんな者たちへの対策として、鑑定されても悪魔に関する情報が隠される様になっているのだ。


 この護衛悪魔、王族には脅威度Cの悪魔が付いている。まさに最強の護衛だ。しかも、怪我や状態異常も治す力があり、死にかける様な大怪我を負っても、あっと言う間に回復するという至れり尽くせりっぷりだった。


 だが、問題もある。大抵の危険はこの護衛悪魔によってどうにかなってしまうため、王族の方々の警戒心が非常に薄いのだ。


 今回もそうだった。なんと、フルト殿下とサティア殿下が、少数の護衛だけで隣国クランゼルに赴くと言い始めたのである。どうやらサルートの口添えがあったらしく、王もそれをお認めになってしまった。


 いくら悪魔がいるとはいえ、殿下たちはまだまだ子供だ。どのような罠に嵌められるかもわからない。私にできることは旅に同行し、目を光らせる事だけであった。


 そんな中、サルートが殿下たちと共に、怪しい子供たちを連れて来た。確かに子供だが、幼い子供を暗殺者に使うのはよくある手でもある。その反応を見るため、わざと辛辣な言葉をぶつけてみたのだが……。


 その結果、私は1人の少女に目を付けていた。フランと名乗った黒猫族の少女だったが、どう見ても堅気ではない。しかもサルートとこそこそと会話をしており、非常に怪しかった。


 殿下たちはこの少女を気に入ったようだが、私は騙されん。その本性を暴いてやる。もし私を邪魔だと感じて排除に来てくれれば、むしろ有り難い。悪魔が敵を葬ってくれる。


 だが、事態は私の想像を超えた方向へと動き出していた。


 なんと、航海中に海賊に襲われ、フランが捕まえて来た海賊の船長が、私が王子たちの暗殺を依頼したなどと言い始めたのだ。これは嵌められたということなのだろう。まさかこのような搦め手で排除にかかるとは、予想外だった。


 信頼していた部下であるネイマーリオにも裏切られ、殿下たちにも疑いの目を向けられ、もはや絶体絶命。フランに眠らされ、起きた時には床に転がされていた。命の危険がないからか、悪魔も召喚されん。


 だが、そんな私を救ったのは、意外な人物だった。なんと、フランが真実の剣と言う規格外の魔道具を使い、私の無実を証明してくれたのだ。非常に貴重かつ、有用な道具である。譲って貰えないか、交渉してみようか?


 どうやら彼女もサルートに利用されていただけだったらしい。腕がたつがまだ子供故、どうとでも言いくるめられると考えたのだろうか。


 しかし、馬鹿な男だ。悪魔の守護があるとも知らず、殿下たちを暗殺しようとは。その前は奴隷に落とそうとしたという話だが、悪魔の加護の前には隷属の首輪など無意味だ。


 推測だが、神剣を手に入れるため、まずは神剣に触れることができる王族の身柄を手に入れようとしたのだと思われる。そして、確保に失敗したことで、神剣を扱える王族自体の数を減らそうとしたのだろう。バルボラに入ってしまえば、クランゼルの目がある。おいそれと殿下たちに手も出せなくなるからな。


 実は現在のフィリアースには神剣を扱えるものが少ない。第2王子は病弱で神剣の行使には耐えられない、第3、4王子は魔獣討伐の最中に死亡。王女たちの多くは既に他国へ嫁いでいる。どうやって判断されるか分からないが、フィリアース王族の血筋であっても、嫁いだものや、その子には神剣が扱えなくなってしまう。


 つまり、現在神剣が扱える王族は、王、王太子、第5王女に、第7王女、フルト王子、サティア王女の6人しかいなかった。ここで、お2人が殺されてしまえば、4人に減ることとなる。フィリアースにとっては、十分な痛手なのだ。


 殿下たちは信頼していたサルートに裏切られたショックで、船室へと籠ってしまわれたが、落ち着かれるのを待つしかないだろう。


 バルボラでの式典にフィリアースの王族として出席せねばならないのだが、大丈夫だろうか。それまでに吹っ切ってくれれば良いのだが。なにせ我が国と来たら、西を海に、北と東をレイドス、南をクランゼルに挟まれた超小国。友好国であり、レイドス王国と仲の悪いクランゼル王国のご機嫌取りは必須なのだ。


 ここでレイドスのスパイを排除できたことは僥倖であったな。クランゼルとの仲を引き裂くような工作は阻止できた。他者の警戒心を薄める効果のある魔道具も接収できたし、フラン嬢には感謝してもしきれない。


 しかし、サルートの日頃の行いが悪いせいだろうか。この航海は波乱万丈の運命なのだろう。海賊の次は、巨大な魔獣だ。なんと、脅威度Aの魔獣らしい。いくら悪魔を使役しても、脅威度Aが相手では……。絶望的ではないか。なんとか殿下たちだけでも逃がせないだろうか。


 そんな中、再び船を救ったのはフラン嬢であった。見たこともない特殊なスキルで剣を飛ばすと、ミドガルズオルムと言う巨大魔獣に攻撃を加え始めたのだ。その威力はすさまじく、遠目からでも分かる程の大穴が魔獣に空いていた。


 これほど強かったとは……。無礼な態度をとっていた自分を思い返し、思わず冷や汗をかいたわ。良く生きているな私。


 1度剣を手元に戻すと、今度は2本の剣を操り、再び魔獣を攻撃する。なんと、即死効果のある剣らしいが、複数の心臓を持つ、つまり命を複数もつ巨大魔獣には効かないようだった。どうなることかと見守っていたが、最後には剣を魔獣の口から突入させ、何かをしたようだ。魔獣の苦し気な悲鳴が聞こえ、その動きが目に見えて鈍った。


 船長たちが、これなら逃げ切れると喜んでいる。


 船に戻ってきた剣を鞘に納めたフラン嬢が、涼しげな顔で海賊の本拠地へ向かおうと指示している。あれだけのことをしておいて、まるで当然とでも言わんばかりだ。疲れた素振りさえ見せない。


 改めてその強さに冷や汗が出た。自分のスキルや、真実の剣については黙っている様にお願い(脅迫)されたが、誰もが素直に頷いている。


「喋ったら……後悔すると思うよ?」


 とか言われて、頷かない者はいない。あの強さを見た後なら、なおさらだろう。後ろでは巨大な狼が、低く恐ろしい唸り声を上げているしな。


 しかし、戻ってきたのはロングソードだけだ。即死の魔剣はどうしたのだろうか? 魔獣との戦いで失ったのか? かなりの業物に見えたが、もったいない。いや、我らの為に失ったのだし、それについても、何か報いなくてはならないな。何か礼が必要だろう。元々彼女を雇っていたサルートは捕えられたので、新たに報酬も渡してやらねばならんだろうし。


 まあ、まずは頭を下げて、礼を言うとしようか。ずいぶんと失礼な態度をとってしまったしな。許してもらえるかは分からないが、誠心誠意、頭を下げなくては。報酬の話は、それからだろう。


「あー、フラン嬢、ちょっとよろしいかな?」



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― 新着の感想 ―
神剣ディアボロス……いつか“魔王”に連なる魔族の人々と力を合わせて何かして欲しかった……
[一言] こいつまともだったのか
[気になる点] 絆の指輪を当然のように渡しているのは勿体ない
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