□自演乙!! 7 リパチ #04(Re:パチンカスから始める異世界転生転生)
風景が一転した。
俺の一人称視点から、何故か神の視点へ。
俺を抱いたゴダードが、薄暗い城の通路を歩く。
その横では数字が踊る。
どうでもいいが、リーチが掛かったのは『6』絵柄だった。
確変絵柄でもなんでもない普通の『6』。
それが左右に2個表示されている。
ゴダードが歩みを進めるたびに、『6』に挟まれた真ん中の数字が少しずつカウントアップしていく。
『2』から『3』へ。そして『4』へ。
ゴダードが城の裏口へたどり着く。
扉を開ける。するとセンターの数字が『5』に変わる。
まごうことなき、CR七鍵守護者の救世譚のリーチ演出だ。
通常のリーチと変わらない、期待度の低いほぼ当たらないリーチ。
このリーチでオオアタリを引く可能性は1%も無いだろう。
確か……このリーチは……。
当たれば問題ない。ゴダードが馬車の中を覗きこんだとき。
シンシュアが迎え入れてくれる。
それで俺を抱きかかえてくれたらオオアタリだ。
で、外れのパターンには二種類ある。
ひとつは馬車の中に誰も居ないという結末。
その場合、未来の俺の暮らしとして、ゴーダの不味い料理を喰わされるというカットが表示されて、残念! ということになる。
あとは、シンシュアが俺を抱こうとして取り落とすと言う、赤子には厳しいハズレ演出もある。
まあ、そっちは危うく取り落としそうになったところをゴダードが受け止めるという逆転パターンがほとんど場合で発生するので、そこまで行ったら基本的にはアタリを期待していいが。
というか、なんでパチンコのリーチ演出が発生するのか?
どういうことなのか……。
それで、ハズレたらそうなるのだろう。
もっと期待度の高いリーチは対決系などが多く、破れるということは死に繋がるためゲームオーバーならぬ、人生の詰みという状況も考えられるが。
こんなどうでもいいリーチでハズレても、俺の異世界人生に影響があるのだろうか。
とにかく、賽は投げられた。
あとは大人しくリーチ演出の結果を待つしかない。
俺は単に抱かれて運ばれているだけだ。
たしかパチンコ台でもこのリーチは見ているだけのリーチだったように思う。
他のリーチだとPUSHボタンを押すことで演出が入ったり、つばぜり合いの時にPUSHボタンを連打することでゲージが溜まって期待度が判明したりという楽しく、そして熱くリーチの結果を待つという演出があるのだが。
いよいよだ。
ゴダードが馬車に辿り着く。
ここで原作には無かった台詞が挟まれる。
「ルート殿下。年寄りと二人っきりの暮らし。
不自由をおかけするでしょうが、なにとぞお許しを。
儂が責任をもって立派にお育てするゆえに」
「ゴダード様。どうぞ!」
騎士らしき人間が、馬車の荷台に掛かった布を捲り上げる。
いかん。緊張でドキドキしてきた。
それを、楽しめと言わんばかりに映像はスローモーションになる。
入り口にほど近い床から。このあたりはゴダード、あるいは赤子のルート(トール殿下)視点になっている。
そして、徐々に視線を上げる。
ここで……。
二台の奥に細い綺麗な足が見えたら、それはシンシュアのものだ。
オオアタリが確定する。
見えた! シンシュアの足! 白くて細くて。
いや、待て。この台は、フェイクの演出が過多ということでも知られている。
シンシュア登場からルートを落としてハズレというのもそうだが。
シンシュアの足が見えたのは気のせいだったというハズレパターンも存在したはずだ。
その場合は保留内でのオオアタリが濃厚になるというやや複雑なシステムなのだが。
とにかく、風景は足元から徐々に上がっていく。
足首から膝へ、膝から腰あたり。
そして胸、肩と徐々に見上げて……。
「お待ちしておりました。ゴダード様」
居た~!! シンシュアが待ってくれていた!
「トール殿下を……」
ゴダードがシンシュアに俺を渡す。
後は落とさずに受け止めてくれたらいい。
リーチ演出のために見えている数字が『6』『5』『6』から、
『6』『6』『6』へと徐々に変化していく。
とりあえず、第一関門突破だな。
あるいはこれで俺の異世界生活は終わって元の世界に戻れるかもしれない。
と安堵もつかの間。
「あっ!」
シンシュアの叫び。
俺は体中に衝撃を受ける。
落とされた!?
『6』『6』『6』で揃いかけた数字が『6』『5』『6』へと逆戻り。
ハズレかよ!!
で、どうなるんだよ!
「何をしている、シンシュア。
ルート殿下にもしものことがあったらどうするんだ」
「申し訳ございません、ゴダード様。
実は殿下をお抱きするのは久しぶりで緊張してしまいました」
「しっかりしてくれよ……」
とゴダードは俺を拾い上げようとするが……。
その時点で俺の意識は失われ、視界が真っ暗になったのだった。
まさか……。こんな単純なことで……。
リーチがハズレるってことは……。
死に直結するのか……。
まさか……そんな。馬鹿げている。
が、薄れゆく意識の中で俺は自らの力でどうすることもできない運命を呪うしかないのであった。