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その2

その2


「パン!」


それはあまりにもあっけない音だった。


その音が銃声だと気づいたのは少し後のことになるが


音がしたその瞬間は例えるなら子供時代に新聞紙を折って作った、振ると「パン」と大きな音を出すアレ(正式名称は分からないが)を僕に思い出させた。


が、しかし


音のした方向を見ると黒いマスクをした3人組が立っていた。


その中の一人が重厚な黒い鉄の塊を天井に向けて掲げており


天井には穴が開いていた。


僕は思った。


「あ、これテレビで見たことがあるぞ」


いやはや自分でも嫌になるくらい頭の悪い感想ではあるが


いざ実際の事件現場に遭遇してしまうと脳が今起きていることをちゃんと認識しないのかもしれない。


いわゆる一つの現実逃避。


だから恐怖はなかった。


単純に深夜のファミレスに黒いマスクの男3人が入ってきて銃を発砲したそれだけの事実。


何より黒マスクはまだ何も要求を言ってはいない。


そこで、おもむろに背の低い黒マスクの一人が声を発した。


「店内にいる客・従業員はこっちに来い。」


そう言いながらドリンクバー付近のボックス席を手に持った鉈で指した。


幸い僕のいる場所はついたてによって死角になっており反射的に身を隠した僕は見つかってないようだった。


これに確証はないが犯人たちの顔の動き等から導き出した僕の推論だ。


この時点でようやく僕の中に焦りが芽生えてきた。


他の客はどうしたのだろうか・・・


親子づれは?挙動不審高校生は?アブナイ女子高生は?


犯人側からも見えない代わりにこちら側からもあちらの様子がほとんど確認できない。


後に気づいたことだが犯人たちが客を集めた場所というのは外からは一切見えないし


窓やドアから遠いため大声を出したところで外には聞こえない。


始めは犯人が見回りに来ることを警戒したが犯人が3人であること、3人ともそんなに体格


が良くないことから人質にした客からの反撃を警戒し3人で見張りをしていた。


犯人が声を出さないところをみると、とりあえず皆おとなしく従っているらしい。


その時である、男の叫び声とともに犯人の声が聞こえた。


「うわぁぁぁっ!」


タッタッタと駆けていく足音


「おい!テメェ!」

犯人の叫び声。


ガシャン!


ガラスの割れる音


おそらくコップが割れる音だろう


犯人たちがあわてている雰囲気が伝わってくる


「あの野郎逃げやがった!」


おそらく犯人の隙をついて逃げたのだろう。


コレで助けを呼びに行ってくれれば助かる。


(とりあえず見つからないようにおとなしくしていよう)


そんな事を思いながら僕はため息をつき窓から外を眺めた。


店の裏の方から男が走って出て行った。


格好からみると、店のウェイターなのだろう


そして、後ろから追いかける黒マスク。


僕側から見るとその二人が右から左にかけていった。


犯人に見つかるのではないかと思い一瞬身を潜めたがどうやらウェイターを追うことに精

一杯のようだった。


ウェイターは速かった。


黒マスクとの距離が離れていった。


が、しかし

僕の安堵は次の瞬間、絶望に変わった


ファミレス横の道路から出てきた1台の大型トラックがウェイターをはねた。


黒マスクも思わず立ち止まる。


(これで警察が来れば助かるな。ウェイターはかわいそうだが)


が、ここでも僕の考えは甘かった。


トラックは一旦停車したものの夜の闇に走り去った。


(おいおい、ひき逃げかよ!)


一応言っておくと、ここら辺は田舎も田舎のド田舎なのだ。


朝の7時過ぎになってかろうじて通学する学生が2、3人通る程度なのだ。


ひかれたウェイターは死んだカエルのような体勢で動かない。


助けが来る望みは絶たれた・・・


もちろん朝になれば誰かが通りかかってくれるかもしれない。


が、僕の卒論は明日の9時が提出期限。


ここから大学まで2時間半


6時30分には出ないと間に合わないが、6時代に人が通らないのはこのファミレスヘビーユーザーである僕がよく知っている。


僕は半ば監禁状態である事よりも提出期限のことで頭が一杯になっていた。




提出期限まであと7時間30分


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