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その1

その1


深夜2時


片田舎のどこにでもある普通のファミリーレストラン。


卒業論文の提出も差し迫ったある夜「僕」はそこにいた。


近所の狭いアパートをねぐらにしている「僕」はよくこのファミレスを使っている。


冷暖房、ドリンクバーの完備。深夜なら人も少ないから静かなものだ。


それにひきかえ、自慢の我が家は家賃1万9千円のボロアパート・・・


いや、ボロというレベルではない


解体現場の廃材をかき集めて作ったような家なのだ。


隙間風は当たり前、当然冷暖房などあるわけもない。


こんな家に住んでいるからこそドリンクバーだけで長時間居座れるファミレスには1分


1秒でも長くいたいというものだ。


特にここ2週間は大学卒業がかかった卒業論文を書いていた。


「僕」の右手にはボールペン、左手には原稿用紙


本当ならパソコンで打てれば楽なのだが先日バイト先の店長との喧嘩でクビになり


そんなものを買う余裕なんてない。


だったらファミレスなんかこなければいいのだが、とても家でかけるような環境ではないのでファミレス代については食費と同様に必要経費として割り切っている。

今のところ親からの仕送りで何とか生活しているものの実家も決して裕福ではないので


仕送りもいつまでしてもらえるか分からない。


もし、もう1年大学に通うことになれば学費のアテはない


バイトだって掛け持ちするにしても限度がある。


そのことを考えると、どこまでもネガティブな気分になるが


要は卒業してしまえば学費はなくなるし、幸い就職も内定しているから


それまでの辛抱だと思えば今の生活にも我慢できるというものだ。


そして現在


順調に書き進めていた「僕」は論文を書く手を止め、休憩しようと


空になったコーヒーカップを持ちドリンクバーに向かった。


ふと店内を見渡してみると客は4人。


この時間には不似合いな、小学校5・6年生くらいの男の子を連れた夫婦


周りをキョロキョロ見ながら貧乏ゆすりをするジーンズに黒いパーカー姿の高校生らしき

少年


ブレザー姿で窓の外を見ながらブツブツ何かをつぶやく虚ろな目の女子高生


普段この時間は「僕」一人だけなのだが、どういうわけか今日は他にも客がいた。


しかも内二人がどう見ても高校生。


(親子ずれに関しては保護者同伴とはいえこの時間に小学生を連れ出すのはどうなのだろう?)


そんな事を考えてみたものの今の「僕」には他人を詮索するほど余裕はないのだ。


とりあえず眠気を覚まそうとカップにコーヒーを注ぎ席に戻った。


窓際のこの席から一つボックス席を挟んで向こう側にいる子供づれの夫婦から

言い争う声が聞こえてきた。


「あなたのそういう態度に私は我慢できないの!」


「じゃあ俺と別れたら拓也とどうやって暮らしていくつもりだ!ろくに働いたこともないお前が子供一人養えるのか?」


(おいおい別れ話かよ、しかも子供同伴で・・・)


しかし驚いたのはここからだ


その小学生の卓也君とやらは表情ひとつ変えずアイスクリームを食べている。


子供だから話の内容が理解できないのではない。


時折、夫婦の顔を見てはため息をつき


「いい加減にしなよ、人のいる所で。迷惑だよ。仮に別れるとしても俺は母さんについていくからね」


なんてのたまうのだった。


(今の小学生はどれだけクールなのだろう・・・)


(いやドライというべきか)


そんな親子を見ると裕福じゃなくても別れずに「僕」を育ててくれた両親にはただ感謝するばかりだ。


「僕」はそんなことを考えながら斜め前にいるキョロキョロしている少年に目を向けた。


彼の右手は軽く震えており、目は常に周りを気にしているようだ。


目が合った


彼は一瞬止まり、すぐに俯きじっと動かなくなってしまった。


(僕の顔はそんなに怖いですか・・・?)


(っていうか、この少年は大丈夫なのか?)


僕は思わず思ってしまった。


それと同時に深夜のファミレスでの人間観察という娯楽に目覚めてきたのだった。


さて、残るは反対側の窓際の女子高生。


さっきから一切体勢を変えず窓に頭をもたれさせてブツブツつぶやいている。


正直彼女は相当ヤバイ気配を出していた。


そのヤバイ雰囲気を雰囲気ではなく「本当にヤバイ人」として印象付けたのは


テーブルの上に乗っけた両手首の無数の切り傷だ。


僕はあえて見て見ぬフリをした。


(はぁ〜、今の日本は病んでいるなぁ・・・)


今、僕の周りにはネガティブ要素を持ち合わせた人間しかいないことに気づき


こちらまで鬱な気分になりそうだ。


そろそろ論文を再開させなければ。


そんなことを思った矢先、1発の銃声が店内に響いた。

僕の憂鬱は本格的なものになった。


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