【続編】婚約破棄されたら、なぜか各国の王子から求婚が殺到しました!? ~反逆者呼ばわりされた令嬢、実は各国の恩人でした!!!~
三人の王子が言い争う声で、大講堂はすっかり収拾がつかなくなっていた。わたくしが仲裁の言葉を挟もうとした、その矢先――
「――待たれよ!!!」
四度目の扉が、これ以上ないほど盛大な音を立てて開かれた。
「ノルデンス王国、第四王子フェリクスだ! 噂を聞いて馳せ参じた!」
「……あら。あなたには覚えがないようだけれど? 恩義もなく殴り込んでいらしたのね」
わたくしが率直な感想を述べると、フェリクスは胸を張って堂々と頷いた。
「ハッハー!! その通り! 恩義など知らぬが、面白そうな話を聞いたら黙っていられぬ性分でな!」
「随分と正直でいらっしゃること」
「クラリス嬢、単刀直入に申し上げよう! 私と結婚してくれないか!」
会場が一瞬、完全な沈黙に包まれた。カイン、ダミアン、リアムの三人が、揃って呆気に取られた顔をしている。
「――あの、殿下.......順番というものがございますのよ.......?」
「順番など知らぬ! 気になったら即行動、これが我が国の家訓だ!」
「家訓に婚姻の話まで含まれておりますの?」
「含まれる! しかし、私は乗馬も剣術も得意だ、が恋文は書いたことがないんだ! どう口説けばいいかぜひ教えてほしい!」
「求婚しながら口説き方を尋ねるのは、順序が随分と逆さまでしてよ.....?」
わたくしが呆れながら指摘すると、カインが額を押さえてため息をついた。
「フェリクス殿、貴殿は状況を分かっているのか? 我々はそれぞれ、クラリス嬢に受けた恩があってこの場にいるのだが.......」
「恩などなくとも、気持ちがあれば十分だろう!」
「理屈は分かるがいささか唐突すぎるようなーー」
「唐突さこそ我が武器だ!」
「その武器、鞘に収める気は.....?」
「ハッハー!! 随分と面白いことを聞くな? 答えはもちろん、なしだ! 迷っている暇があれば行動する、それが我が家の教えだ!」
胸を張って言い放つフェリクスに、わたくしはとうとう笑いを堪えきれなくなった。断罪の場から求婚合戦になり、今度はマイペースな乱入者まで加わって、収拾のつく気配が一向にない。
「ちなみに、フェリクス殿下。求婚の前に、まずはご自身の国について、少しはご紹介いただけまして?」
「おお、良い質問だ! ノルデンスは馬と酒が自慢の国でな、私も三日三晩馬に乗り続けたことがある!」
「それは殿方として、あまり魅力的な説明になっていないですわね......」
「なっていないのか? てっきり体力自慢は好印象だと思っていたのだが」
「体力よりも、まずは常識をお持ちかどうかの方が気になりますわ」
歯に衣着せぬ物言いに、周囲からくすくすと笑い声が漏れる。フェリクスは特に気にした様子もなく、むしろ楽しそうに頷いていた。
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「皆様、少し落ち着いてくださいませ。このままでは埒が明きませんもの」
わたくしが扇を鳴らして注意を引くと、ようやく四人が口を噤んだ。
「まず、恩義があろうとなかろうと、求婚は等しく一つの意思表示ですわ。フェリクス殿下のなさりようは礼儀を欠いておりますけれど、勢いだけは評価して差し上げます」
「おお、寛大な判断、感謝する!」
「評価しただけで、了承したわけではございませんことよ?」
「うっ……なるほど、道は険しいらしいな......」
素直に肩を落とすフェリクスの様子に、リアムがくつくつと笑い始めた。
「フェリクス殿、貴殿の姿勢はいっそ清々しい。少なくとも、駆け引きを知らぬ分、裏表がないのは分かったぞ」
「褒められている気がしないが、悪い気もしないな!」
朗らかに笑うフェリクスを前に、これまで格式張った言葉を並べていたカインやダミアンまでもが、少しずつ肩の力を抜いていくのが分かった。妙な男だが、場の空気を和らげる才能だけは本物らしい。
「そういえば、フェリクス殿下。恩義もなくいらしたということは、噂だけを頼りにここまでいらしたのかしら?」
「その通りだ! 隣国で『反逆罪で断罪された令嬢の裏に、三カ国の恩人という真実があった』という話を耳にしてな、いても立ってもいられず馬を飛ばしてきた!」
「それは随分と気の早いことですこと」
「“善は急げ、恋も急げ!”、が我が家訓でな!!」
「先ほどの家訓とは微妙に内容が違う気がいたしますけれど」
「細かいことは気にするな!」
堂々と開き直るフェリクスに、わたくしはとうとう扇で口元を覆いながら笑ってしまった。
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そんな騒がしいやり取りの最中、蚊帳の外に追いやられていたアルフレッドが、ふらりと前に進み出た。
「く、クラリス。少し頭を冷やして考えたのだが、やはり私たちの婚約、なかったことにしようというのは早計だったのではないかとーーー」
「……殿下、それは復縁を望んでいらっしゃるという意味でして?」
「そ、その通りだ.....! 改めて、婚約を続けてほしい.....!」
図々しいにもほどがある発言に、会場が再びざわめいた。真っ先に反応したのはカインである。
「アルフレッド殿、証拠もなく断罪しておいて都合が悪くなった途端に復縁とは、いささか虫が良すぎるのではないか?」
「わたしも同意見だ。恩人を反逆者呼ばわりした男に、易々と譲る気は毛頭ない」
ダミアンまでもが冷ややかに切り捨てる。
「そうだそうだ! クラリス嬢があまりにも美しいがために、是非とも嫁として迎入れたいのはわかる。だが、私だってお前みたいな往生際の悪い男に負けるつもりはないぞ!」
なぜかフェリクスまで便乗して声を張り上げるので、わたくしは思わず吹き出してしまった。
「殿下、恥の上塗りはそのくらいになさいませ。皆様が仰る通り、証拠もなく切り捨てておいて、旗色が悪くなった途端の前言撤回など、都合が良すぎますわ」
「そ、それは……」
「それに、今この状況で復縁を申し出るということは、殿下ご自身、わたくしを国際情勢のために利用したいだけなのではなくて?」
図星を突かれたらしいアルフレッドは、みるみる顔を青くして黙り込んだ。国王への報告一つで、彼の立場がさらに悪化することは想像に難くない。
「殿下、そもそも先ほどまで反逆者と罵っていた相手に、掌を返して求婚まがいの発言をなさるとは、我が国であれば失笑どころでは済みませんぞ」
カインが追い打ちをかけると、ダミアンも重ねて頷いた。
「一貫性のない振る舞いは、国の代表としても致命的だ。この場にいる誰もが、殿下の判断力を疑う結果になっただろうな」
「そ、そこまで言わずとも……!」
「言わせているのは殿下ご自身の行動ですわよ?」
わたくしが淡々と付け加えると、アルフレッドは反論の余地もなく肩を落とした。
「あら、殿下は蚊帳の外がお似合いのようですわね」
にこりと微笑んでやると、四人の王子たちがそろって満足げに頷いた。奇妙な連帯感である。
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「――というわけで、求婚のお返事は、今しばらくお待ちいただきますわ。皆様それぞれの誠意を、じっくり拝見させていただきますもの」
わたくしがそう締めくくると、四人は揃って深々と一礼した。
「クラリス嬢、首を長くして待たせていただこう」
「私も、次にお会いする時までには贈り物の一つでも用意しておこう」
「私は、今度こそ正式な恋文というものを書いてみせる! 誰か代筆を頼めないものだろうか.....?」
「それでは誠意が半分になりますわよ? フェリクス殿下........」
「た、確かに! よし、やっぱり自分で書こう!」
素直に前言を撤回するフェリクスに、周囲から温かい笑いが漏れた。誠に憎めない男である。
意気込む三人を横目に、リアムだけが静かに微笑んでいた。
「私は、焦らず貴女のペースに合わせよう。それが一番、貴女らしい選び方だと思うのでね?」
思いがけず落ち着いた言葉に、わたくしは少しだけ驚いて彼を見つめた。
「あら、案外女性の扱い方がお上手でいらっしゃるのね?」
「褒め言葉として受け取っておこう」
「その余裕、いつまで保てるか楽しみですわ」
「貴女に試される分には、悪くない気分だ」
穏やかに笑うリアムに、わたくしはふっと肩の力を抜いた。四者四様の求婚者たちを前にして、これほど賑やかな夜を過ごすことになるとは、断罪される前には想像もしていなかった。
夜会の喧騒がまだ収まらない中、わたくしは小さく息をついた。断罪から始まった夜は、四カ国を巻き込む騒動へと発展し、いよいよ収拾のつかない様相を呈している。
――もっとも、こんなにも賑やかな日々は、悪くないと思い始めている自分がいることも、否定はできなかった。
そしてこの騒動が、まだ見ぬ第五、第六の求婚者を呼び寄せることになるとは、この時のわたくしは、まだ知る由もなかったのである......
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
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第五、第六の求婚者が誰になるのか、そしてクラリスが最終的に誰を選ぶのか、まだまだ書きたいことがございます。よろしければ作者フォローもしていただけると幸いです!
それでは、また次のお話でお会いしましょう!!!




