プロローグ
僕は宮木誠高校1年生だ。
小学校…いや、幼稚園の頃から高校まで。今の今までの人生の中で僕は影のようだった。
いや、影だった。
友人どころか家族ともあまり喋らない。
だからと言って友人や家族の事が嫌いな訳ではない。
別に喋ろうと思えば喋れる。
喋るような機会が無いだけで、人が苦手な訳では無い。
熱中できるような趣味もなければ、嫌いな事も無い。
だからといって人にいじられたことやいじめられた経験は無い。
どちらかというと、教室の隅でいじめられている人のすぐそばに、ただ突っ立っているだけだ。
多分、人から認知されていないんだと思うし、僕自身も人にそんな興味がない。
僕もなんでこんな風になったのかはわからない。
僕の性というものが「こういうもんだ」語りかけてくる。
呼吸をするように、当たり前にそこにいる。だが誰も空気があるのを実感して生活していないように、誰からも認知されていない。文字通り「空気」だ。
だけど、空気と違って誰からも必要とされていない。
必要なのかも知れないけど僕はそう思った事はないし、勿論言われた事もない。
ゲームで言うところのモブN。それが僕。宮木誠だ。
桜の花が舞う本屋の下で友人と楽しく一緒に本を読み、汗が滴る残暑の中で男女混合で海に行き、誰かと恋仲になって、紅葉が鮮やかに茂る場所で2人で歩き、緩やかな光で照らされた夜の空を分け合う。
そんな日々。眩い生活。
以上は僕の妄想であるけど、僕にはこういった予定は入っていない。
「…はぁ」
静かにため息を漏らすが、静かな部屋に空気がただ溶け込むだけだった。
ふと気晴らしに椅子を傾けて窓の外を見てみる。
家の前にある公園には1つ立派な桜が生えていた。時期が過ぎてもう満開ではなくなった桜。
近所では花見で有名なその場所の下で、知らない男女が向かい合って立っている。
2人とも神妙な、そわそわした面持ちだった。
しばらくの静謐を破るように男子が少しして、口を開いた。
「ーーーーー」
窓越しで声は聞こえないけど、何を言っているのかはわかった。
言い終わり口を閉じるとゆっくりと手を相手に向かって差し出した。顔どころか耳まで真っ赤だ。
差し出す手は小刻みに、だけど確かに震えていた。
息を飲み込むような、永遠とも感じれる束の間の沈黙の後、その手に返事が返ってきた。
震える手を包み込むように優しい手の抱擁。
包み込む手は少し濡れている。
女子は微笑んで口を開く。
「ーーーーー」
その時、少し季節から外れかかった桜の木は満開に咲いたように見えた。
祝うかのように華々しくそこに佇んでいるようだった。
綺麗だなぁ。と、素直にそう思う。
そう思うと同時に少し淋しくなった。
桜は見事に咲いた。それはもう見違えるほどに。
僕はただ、見ていただけだ。家の椅子に座って、ただボーッと。
満開に咲いた桜は僕のものではない。当たり前だ。
だからきっと、僕にはそんな華々しく、薔薇色の青春とやらは僕には訪れない。
そう思えてくる。
今までも。きっと、これからも。




