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100京円持って死ぬ男  ―毎日1億円使っても、金が減らない―  作者: 一月三日 五郎


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9/10

第九話 花咲じいさん

 人は、

 自暴自棄になると、

 だいたい二択に分かれる。


 引きこもるか。

 暴れるか。


 俺は――

 金で殴るほうを選んだ。


「よし、続行だ」


 昨日は衝動。

 今日は計画。


 つまり、

 一段階ヤバくなっている。


 机の上に並べたのは、

 世界地図と、

 各国の経済指標。


 普通なら、

 ここで頭を抱える。


 だが俺は違う。


「足りないなら、足せばいい」


 金は無限。

 発想は雑。


 これ以上、

 単純な戦略もない。


 まずは、

 貧困地域。


 インフラ。

 教育。

 医療。


 必要そうなところに、

 片っ端から資金投入。


「はい百兆。

 はい五百兆。

 はい一京」


 桁が、

 完全にギャグだ。


 次に、

 中堅国。


 財政赤字?

 知らん。


「借金、消しとくぞ」


 次は、

 先進国。


「医療費、全部肩代わり」

「年金、前倒しで満額支給」

「ベーシックインカムで月100万」


 数時間後。


 世界が、

 阿鼻叫喚になった。


『物価が急変』

『通貨価値が暴落』

『市場が停止』


 専門家たちが、

 テレビで頭を抱えている。


「前例がない」

「理論が追いつかない」

「そもそも資金源が不明」


 当然だ。


 俺だ。


「……なんでだよ」


 俺は画面を見ながら、

 不満げに呟く。


「金、配ってるだけだろ?」


 怒られる意味が、

 正直わからない。


 人は助かる。

 国は潤う。


 いいことしかない――

 はずだった。


 だが現実は違った。


 金が溢れすぎると、

 人は動かなくなる。


 働かない。

 考えない。

 奪い合う。


 配分を巡って、

 争いが起きる。


「なんであの国だけ?」

「不公平だ!」

「もう取引しない!」


 怒りの矛先は、

 最終的に一つに集まった。


 俺。


「……あー、はいはい」


 モニターを消す。


 正直、

 もうどうでもよかった。


 胸が苦しい。

 息が浅い。


 椅子に座っているだけで、

 体が重い。


「……はは」


 笑いが、漏れる。


「金、

 兵器じゃん」


 冗談で言った言葉が、

 現実になった。


 俺は世界を救うどころか、

 引っ掻き回しただけだ。


 しかも。


 まだ、ほとんど減っていない。


「……どうすんだよ、これ」


 画面の端に表示された、

 残高。


 見なきゃよかった。


 視線を逸らし、

 天井を仰ぐ。


 息が、

 少し震える。


「……もう、無理だ」


 国を買った。

 都市を作った。

 宇宙に行った。

 世界に金を投げた。


 それでも、

 使い切れない。


 解決しない。

 救われない。


「……誰か」


 ぽつりと、

 言葉が落ちた。


「誰か、

 考えてくれよ」


 俺一人じゃ、

 無理だ。


 知恵も、

 時間も、

 足りない。


 金だけが、

 余っている。


 その瞬間、

 頭に一つの考えが浮かんだ。


 馬鹿げている。

 情けない。


 でも――

 他に、道がない。


「……引き継ぐか」


 俺は、

 震える手でキーボードに触れた。


 次に書くのは、

 命令でも、計画でもない。


 お願いだ。


 世界中に向けた、

 最後の問いかけ。


 残り時間は、

 刻一刻と減っていく。


 この金を。

 この人生を。


 どう使えばいいのか。


 答えは、

 まだ、どこにもなかった。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

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また次の話でお会いしましょう!

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