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100京円持って死ぬ男  ―毎日1億円使っても、金が減らない―  作者: 一月三日 五郎


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8/10

第八話 八つ当たり

 絶望というのは、

 静かに来るものだと思っていた。


 布団の中で、

 じわじわ考え込んで、

 涙の一つも流して――

 みたいな。


 違った。


 俺の場合、

 先にキレた。


「ふっざけんなよ……」


 高級ホテルの一室。

 値段だけは、

 俺の体調と反比例するレベルの部屋。


 壁に向かって、

 一人で悪態をつく。


「一年?

 は?

 短すぎだろ」


 思わず、

 笑ってしまう。


 金はある。

 時間はない。


 これ、

 どう考えてもクソゲーだ。


 テーブルの上には、

 医師団から渡された資料。


 専門用語。

 確率。

 グラフ。


 どれもこれも、

 どう頑張っても死ぬ

 という結論を、

 丁寧に説明しているだけだった。


「……納得できるかよ」


 俺は立ち上がり、

 部屋をうろつく。


 歩くだけで、

 少し息が切れる。


 ――ああ、これか。


 最近、

 妙に疲れやすかった理由。


 国を買って。

 海底に潜って。

 月に行って。

 火星まで行って。


 そりゃ、

 体も壊れるわ。


 でもだ。


 金、払っただろ?


 頭に血が上る。


「よし」


 俺はスマホを掴んだ。


「ばらまくか」


 理性より先に、

 衝動が動いた。


 どうせ死ぬなら、

 派手にやろう。


 意味?

 知らん。


 善意?

 後付けだ。


 単純に、

 ムシャクシャしていた。


 世界中の口座。

 慈善団体。

 国家予算。

 個人。


 構わず送金。


 桁?

 見ない。


「はい一億。

 はい百億。

 はい兆」


 金額感覚が、

 完全に壊れている。


 数時間後。


 ニュースが、

 世界を埋め尽くした。


『謎の巨額送金』

『史上最大規模の資金移動』

『経済への影響は計り知れず』


 知るか。


「知らん。

 もうどうでもいい」


 ベッドに倒れ込む。


 天井が、

 ぐるりと回る。


 胸の奥が、

 ずしんと重い。


「……あー、クソ」


 叫びたい気分だったが、

 声を出す元気もなかった。


 しばらくして、

 ようやく一つ、冷静になる。


「……で?」


 金をばらまいたところで、

 何が変わった?


 世界は混乱した。

 俺の寿命は、変わらない。


 むしろ、

 余計な爪痕を残しただけだ。


「……最悪だな」


 ここまで来て、

 ようやく理解する。


 俺は、

 逃げている。


 考えたくないから、

 金を動かした。


 向き合いたくないから、

 派手に散らかした。


 ――でも。


 金を使い切る方法は、

 まだ見つかっていない。


 余命も、

 減り続けている。


 このままじゃ、

 何も解決しない。


 頭の中で、

 同じ言葉が回る。


「……どうすりゃいい」


 答えは、

 相変わらず、出なかった。


 ただ一つ、

 はっきりしたことがある。


 もう、普通じゃいられない。


 次にやることは、

 もっと極端で、

 もっと馬鹿で、

 もっと――


「使い切れなきゃ、

 意味ねぇんだよ」


 俺は、

 天井に向かって呟いた。


 そして、

 次の無茶を考え始めていた。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

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また次の話でお会いしましょう!

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