第六話 やっぱ、普通が一番?
結論から言う。
普通に贅沢するのが、いちばん疲れた。
火星から帰還した俺は、
もう冒険をやめることにした。
宇宙は広すぎる。
海底は怖すぎる。
月は、人間関係が地獄だった。
もういい。
地球でいい。
それも、思いきり贅沢に。
俺は、
世界最高峰の高級ホテルを
丸ごと一棟借りた。
最上階スイート。
専属シェフ。
専属バトラー。
専属医師(念のため)。
金は、ある。
腐るほどある。
これなら、
さすがに満足できるはずだった。
最初の一日は、
確かに最高だった。
ふかふかのベッド。
静かな部屋。
何もしなくても、
誰かが全部やってくれる。
「……極楽だな」
俺は久しぶりに、
心からそう思った。
二日目。
朝食が、
豪華すぎた。
肉。
魚。
果物。
パン。
全部、一流。
全部、うまい。
……が。
「量、多くない?」
言った瞬間、
バトラーが青ざめた。
「も、申し訳ございません!
すぐに調整を――」
「あ、いや、
そうじゃなくて……」
俺は、
途中で言葉を切った。
何だこれ。
俺、気を使ってる。
客なのに。
三日目。
昼も夜も、
完璧な料理が出てくる。
だが、
食欲が、
ついてこない。
味はわかる。
美味いとも思う。
なのに、
箸が進まない。
「……こんなもんだっけ」
四日目。
スパ。
マッサージ。
エステ。
全部、最高級。
……なのに。
終わったあと、
妙に、どっと疲れた。
体は軽い。
でも、頭が重い。
休んでいるはずなのに、
回復している感覚がない。
五日目。
俺は、
何もしないことにした。
ベッドで横になり、
天井を眺める。
何も考えない。
……はずだった。
気づくと、
時計ばかり見ている。
まだ昼か。
もう夜か。
時間が、
やけに長い。
「……俺、
暇なのか?」
贅沢の極みのはずなのに、
退屈が、
じわじわと侵食してくる。
六日目。
ふと、
鏡を見る。
顔色が、
悪い。
目の下に、
うっすらと影。
「……あ?」
自分で見て、
少し引いた。
疲れている。
間違いなく。
七日目。
朝、
起きるのがしんどい。
寝不足じゃない。
むしろ、寝すぎだ。
それなのに、
体が重い。
「……おかしいな」
世界一、
贅沢しているはずなのに、
世界一、
消耗している。
その日の夜。
俺は、
ベッドに沈み込みながら思った。
派手なことをしても、
静かにしても、
金を使っても、
疲れは、
消えない。
むしろ、
金で無理やり快適にしようとするほど、
違和感が増していく。
「……普通って、
なんだっけ」
ふと、
そんなことを考える。
豪華じゃない飯。
完璧じゃない部屋。
多少の不便。
それを、
「日常」だと思っていた頃のほうが、
よほど楽だった気がする。
だが――
胸の奥に、
嫌な予感が広がる。
これは、
気分の問題じゃない。
ただの疲労でもない。
体が、
何かを訴えている。
「……一回、
診てもらうか」
そう呟いた声は、
自分でも驚くほど、弱かった。
金で解決できない問題が、
近づいている。
そのことだけは、
はっきりと、わかった。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
もし「100京円の使い道が気になる」と思ってくださったら、
広告の下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして
応援していただけると、執筆の励みになります!
皆様のブックマークや評価が、新人作家である私にとって一番の支えです。
また次の話でお会いしましょう!




