第五話 さよなら、地球
結論から言う。
火星は、すごかった。
そして、一週間で飽きた。
月生活に失敗した俺は、
反省していた。
閉鎖空間はだめ。
人を増やすとトラブルが増える。
孤独もだめ。
集団もだめ。
――つまり、場所が悪い。
「もっと、広い場所に行こう」
そうして思いついたのが、
火星だった。
赤い大地。
果てしない地平線。
地球より小さい重力。
閉鎖感はない。
視界も広い。
月より、
“世界”を感じられる。
俺はまた、
金の力で全てを解決した。
居住ドームを複数建設。
農業プラント。
医療施設。
娯楽施設。
今回は、学習している。
最低限の人員だけ連れてきた。
技術者。
医師。
料理人。
全員に高額報酬。
不満が出ないように。
完璧な計画だった。
……はずだった。
火星に降り立った瞬間、
俺は感動した。
「すげぇ……」
赤い大地。
地平線の向こうまで続く荒野。
誰のものでもない土地。
この星全部、
実質、俺の庭だ。
最初の三日は、最高だった。
低重力で跳ね回り、
ドーム間を移動し、
展望室で赤い夕焼けを見る。
「人類の最前線」に
立っている気分。
――だが。
四日目あたりから、
違和感が出始めた。
静かすぎる。
風の音もない。
鳥もいない。
虫すらいない。
歩いても、
足音しか返ってこない。
どこまで行っても、
同じ景色。
「……なんも、ねぇな」
五日目。
やることが、
なくなった。
娯楽施設は一通り試した。
酒も飲んだ。
料理も豪華。
でも、
外に出ると、
また赤い地面。
どこまで行っても、
赤。
赤。
赤。
六日目。
俺はドームの椅子に座り、
ぼんやりと天井を見ていた。
体は元気だ。
金もある。
なのに、
妙に疲れている。
刺激が、ない。
トラブルもない。
危険もない。
だが、
変化がない。
「……俺、
何しに来たんだっけ」
七日目。
答えは出た。
火星は、
観光には向いていない。
広すぎる。
静かすぎる。
そして、孤独だ。
人を増やしても意味はない。
減らしても意味はない。
ここには、
“生活”が存在しない。
俺は、
盛大にため息をついた。
「行く前に
気づけよ、俺……」
撤退は、
決定事項だった。
スタッフたちは、
露骨に安堵していた。
誰も文句は言わない。
高額報酬は、
すでに支払った。
金は、
また減った。
だが、
心は満たされない。
帰りの船の中で、
俺はぐったりと
シートに沈み込む。
体力じゃない。
気力が削れている。
壮大なことをやれば、
何か変わると
思っていた。
でも、違った。
問題は、
場所じゃない。
――俺自身だ。
「……もう、
普通でいい」
贅沢も、
非日常も、
宇宙も、
深海も、
全部、疲れた。
次は、
地球で、
普通に贅沢しよう。
高級ホテル。
いい飯。
いい酒。
派手な夢は、
一旦、おしまいだ。
そう思いながら、
俺は目を閉じた。
――このときは、
まだ知らなかった。
次に来るのが、
「体調不良」という現実
だということを。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
もし「100京円の使い道が気になる」と思ってくださったら、
広告の下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして
応援していただけると、執筆の励みになります!
皆様のブックマークや評価が、新人作家である私にとって一番の支えです。
また次の話でお会いしましょう!




