第三話 そうだ、海に行こう
結論から言うと、
海底都市は――最高に金がかかって、最低に怖かった。
俺は本気だった。
国は買えない。
なら、誰も住んでいない場所を買えばいい。
――海底だ。
深海数千メートル。
国境もなければ、近隣住民もいない。
文句を言う相手が存在しない。
これ以上の好条件はない。
俺は即断即決で、計画を走らせた。
耐圧ドーム。
人工太陽。
完全循環型の空気と水。
地震対策。
津波対策。
サメ対策(なぜか提案された)。
どれも高額。
文句なしに高額。
請求書を見るたび、
俺は心の中でガッツポーズをしていた。
「よし……減ってる……!」
金が減る。
確実に、目に見えて減る。
この感覚、久しぶりだ。
そして完成した。
超豪華・完全独立型・誰もいない海底都市。
静か。
とにかく静か。
エンジン音も、
風の音も、
波の音すらない。
あるのは、
低く響く水圧音と、
自分の呼吸音だけ。
「……いいな」
最初は、そう思った。
広いリビング。
ガラス越しに見える深海。
ゆっくりと泳ぐ発光生物。
誰にも邪魔されない。
誰にも気を遣わない。
最高だ。
――最初の三時間は。
問題は、夜だった。
正確には、
「夜という概念がないこと」に気づいた瞬間だ。
外は、ずっと暗い。
昼も夜もない。
照明を落とすと、
ガラスの向こうは完全な闇になる。
何もない。
動きもない。
音もない。
自分だけが存在している感覚。
背中が、じわっと冷えた。
「……まあ、音楽でも流すか」
BGMをかける。
クラシック。
ジャズ。
ロック。
どれも、
この空間には合わなかった。
音が、
妙に軽く感じる。
次にテレビをつけた。
ニュース。
バラエティ。
通販番組。
どれも、
“ここに存在しない世界”の映像だった。
チャンネルを変えるたび、
胸の奥がざわつく。
「……静かすぎる」
気づくと、
俺はソファの中央で丸くなっていた。
誰もいない。
本当に、誰もいない。
この都市が、
俺のためだけに存在している。
それが、
急に、耐えられなくなった。
ふと、
ガラスの向こうで何か動いた気がした。
……気のせいだ。
深海生物だろう。
わかっている。
わかっているのに、
目が離せない。
心拍数が上がる。
無駄に、疲れる。
「……だめだ」
俺は立ち上がった。
この場所は、
金は減るが、
精神が削れる。
しかも、
削れ方が嫌なタイプだ。
人がいないのは、
快適じゃない。
人がいないと、
世界が実感できない。
俺はその事実に、
ここで初めて気づいた。
翌朝(ということにした時間)、
俺は即撤退を決めた。
滞在時間、
わずか一日。
建設費は天文学的。
維持費も凶悪。
だが――
心が、限界だった。
帰還用エレベーターの中で、
俺は深くため息をついた。
「……金を使うのも、楽じゃないな」
海底都市は、
その後、無人のまま維持されている。
たぶん今も、
誰もいない深海で、
静かに光っているはずだ。
次はどうする?
人は欲しい。
でも、近すぎるのも嫌だ。
適度に遠くて、
適度に非日常で、
金を盛大に使える場所。
俺は、空を見上げた。
――月。
「……宇宙なら、いけるか?」
こうして俺は、
また一つ、
金の使い道を思いついてしまった。
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