第十話 俺にはもう思いつかない
俺には、
もう時間がなかった。
正確に言えば、
時間は「あるような顔」をして、
静かに消えていた。
朝、目が覚める。
体が重い。
昨日より、
確実に重い。
「……まだ、生きてるな」
独り言が増えた。
返事をする相手もいないのに。
医者は言った。
「無理はしないでください」
「安静に」
「刺激を避けて」
――全部、無理だ。
俺の人生は、
刺激過多でできている。
机に向かい、
世界中に接続された端末を開く。
残高表示。
相変わらず、
笑えるほど減っていない。
誰か時間と金を交換してくれ。
「……参ったな」
国を買っても。
宇宙に行っても。
世界にばらまいても。
大した意味はなかった。
なら、
最後にやることは一つだ。
俺は、
文章を書き始めた。
声明でもない。
遺書でもない。
もっと、
情けないもの。
---
『俺には深刻な悩みがある。
金がありすぎるのだ。
額を聞いて驚いてくれ。
100京円だ。
冗談じゃない。
ガチだ。
どう使えばいいか、
本気で困っている。
国を買った。
都市を作った。
宇宙にも行った。
全部、失敗した。
だから頼む。
この金の使い道を、
一緒に考えてほしい。
俺には、もう時間がない』
---
どうみても釣りにしか見えない駄文をSNSに投下する。
投稿ボタンを押した瞬間、
不思議と、胸が軽くなった。
「……もう疲れた」
俺にはもう、これ以上は無理だ。
あとは他人に丸投げだ。
完全に。
責任放棄とも言う。
だが、
もういいと思った。
世界を救う義務なんて、
最初からなかった。
俺は、
ただの金持ちで、
ただの病人で、
考えすぎただけの人間だ。
それでいい。
画面には、
次々と反応が流れ始める。
『ネタだろ?』
『釣り乙』
『本当なら怖すぎる』
『俺ならこう使う』
笑ってしまった。
「……そうだよな」
みんな、
好き勝手言う。
それでいい。
金は、
一人で抱えるには、
重すぎた。
なら、
分けてしまえばいい。
考えること自体を、
引き継いでしまえばいい。
椅子にもたれ、
ゆっくりと息を吐く。
窓の外は、
いつもと同じ景色だ。
空は青く、
街は騒がしい。
世界は、
俺がいなくても回る。
「……悪くないな」
体の奥が、
じんわりと熱を持つ。
眠気が、
ゆっくりと降りてくる。
もう、
抗う気はなかった。
金は残る。
問いも残る。
答えは――
誰かが出せばいい。
それでいい。
それが、
俺の出した、
最後の結論だった。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
この物語はここで一区切りです。
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