美しき彫像
あるところに一人の、それはそれは美しい容姿を持つ青年がいた。誰もがその容姿を褒めそやし、たとえ嫉妬からの言葉であろうとも彼の容姿を貶す人はいなかった。
ただそこに立ち微笑みを向けるだけで老若男女の区別なく彼に奉仕した。たとえ彼からの感謝などなかったとしても、この青年のために奉仕するというのはそれだけで幸福なことであると皆がそう感じていた。
青年もまた自身がこの上なく美しい存在であることを理解し、奉仕されるのが当然であると理解していた。
そんなあるとき、青年は気が付いてしまう。
自分に価値があるのは、自分が奉仕される存在であるのは自分がまだ若く美しいからである。このまま年老いてしまったら、そうしたら自分の価値などなくなってしまうのでは?
そのことに強い恐怖を覚えた青年はなりふりも構わず、ありとあらゆる方法で年老いるのを遅らせようとした。しかしいくら美しかろうと人の身である以上は年月の流れから逃れることは出来ない。そこで青年はついに人以上の存在の力を使うことにした。
つまり、悪魔の召喚である。
呼び出された悪魔に対して青年は言った。
「私の容姿が年月によって劣化しないようにしてくれ」
悪魔はニヤニヤと笑みを浮かべるとそれを了承する。そしてゴニョゴニョとなにか呪文を唱えると青年に魔法をかけた。
「動くってのも見方によっては劣化するってことだよな」
高笑いをしながら何処かへと飛んでいく悪魔の言葉を聞きながら青年は身動ぎ一つしなかった。
それから青年の容姿は一切劣化していない。