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未来旅行  作者: KO
3/6

変えられない死

目を開けると、そこは自分が務めている会社だった。


「はい、これもよろしく〜。」


課長はいつも仕事を押し付けてくる。その理由は、お気に入りの女性社員の指導が僕になって、仲良くしているのを見たからだった。

もちろん仕事上の関係として仲良くなっていたというだけだが、どうやら気に食わなかったらしい。


「あの、その仕事手伝いましょうか?」


この子が新入社員の『本田 ゆき』さんだ。心配してくれているのだろう。


「ありがとう、大丈夫だよ。」


「あのセクハラじじいいい加減にしてほしいですね。」


そういえば、この子は口が悪かった。

以前食事に誘われた時断ると、『上司と仲良くなると出世が早まるぞ〜、食事のあと2人になれる場所でくつろぎながら仕事の話なんかしよう。』と言われたらしい。

その時のことを愚痴ってた本田さんは、『誰が小太りじじいと寝るんだよ。そもそも既婚者が誘ってくんな、お前と寝たせいで慰謝料払うとか死んでも嫌。』と言っていた。さすがに腹がよじれるほど笑ってしまった。

スマホを見ると、彼女が死ぬ2日前だった。2日後に彼女が、そう考えると胸が締め付けられ涙がこぼれそうになった。


21時過ぎに家に着いた。彼女は今日も残業しているようだった。

彼女を失わないためにできることをしよう。お腹は空いていたが、彼女と一緒に食べるため我慢した。風呂に入り、彼女の帰りを待つ。


23時半を過ぎた頃玄関から物音がして、彼女が帰ってきたことがわかった。


「おかえり、ご飯一緒食べよ。」


「え、ごめん!もう食べてると思って、会社で食べちゃった。」


「そうだったんだ!じゃあお風呂入っておいで。」


少し落ち込んでるのがバレたのか、彼女は笑いながら抱きついてきた。


「私軽食だけだったから少しお腹空いたなー。食べよ!」


その日は一緒に食べて、同じタイミングでベッドに入った。

次の日も早く起きて、一緒に弁当を作り洗濯物を済ませ仕事へ向かった。


「今日だ...」


いつもと変わらない仕事だったが、いつもと違って仕事量が重く感じた。

『駅に着いたら教えて』とだけメールして、彼女を待った。時間的にも暴走車が来ることはないが万が一があるため、迎えに行くことにした。


『最近どうしたの?笑笑 もう着きまーす!!』


彼女から連絡が来たため駅へ向かった。

駅の外にあるコンビニの前で彼女を待っていた。こっちがエスカレーター側で、向こうが階段側だ。階段側の真横はビルの建設途中で通りづらい。そのためエスカレーター側の、わかりやすい場所で待っていた。


彼女が降りてきたがまさかの階段側だった。


「2択外したなー。」


笑いながら手を振ると、彼女も笑いながら走ってこちらに向かってきた。

ガゴッと大きな物音がした。彼女は驚いて後ろを振り向いた。僕も彼女の周りを確認した。

彼女がこちらを向いた時、上から鉄パイプやレンガが彼女を下敷きにした。


「金具がきちんとしまっていなかったようです。いつ落ちてもおかしくない状況だったようです。」


警察からそう言われたが納得出来るはずがない。こうして僕は2度目の彼女の葬式へ向かった。

雨の中、走ってあのBARへ行く。


「すいません!やり直したいです。」


「いらっしゃいませ。当店は2度目のご利用ですか?」


「はい、お願いします。」


バーテンダーは、赤と青2つのカクテルを出した。


「右の赤のカクテルは未来を受け入れる、左の青のカクテルは過去を変えるものとなっています。」


迷わず左のカクテルを飲み干した。


「行ってらっしゃいませ。」


視界が歪む。


「はい、これよろしく〜。」


ここからか。課長は仕事を押し付けてデスクへ戻った。


「大丈夫ですか?」


本田さんが、心配してくれている。


「大丈夫、ありがとね。」


どういうことだ?今回は喧嘩もしていないし、改善できることはした。

あと2日、次はエスカレーター側から降りてきてもらおう。


『着いたよ〜!エスカレーター側だよね?』


今回はエスカレーター側から降りてきてもらった。大きな物音がした後、鉄パイプやレンガが反対側で落ちていた。


「きゃ!なに??」


「大丈夫、怪我人はいないから。」


彼女を落ち着かせ家に向かう。乗り切った、そう思って安堵していた。

マンションに着いて、エレベーターを待っていた。中からフードを深く被った人が出てきたが、手には包丁が握られていた。


「どうしたの?」


彼女は気づいてないようだ。彼女の手を引いた時には遅く、すでに腹には包丁が深く刺さっていた。

倒れる彼女を支えようと腕を伸ばしたが、腹から抜かれた包丁は僕の腹に刺さった。そのまま2人とも倒れた。


目が覚めるとそこは病室で、彼女は即死だった。

病室を抜け出して、あのBARへ向かった。涙が止まらなかった。


「青の過去を変えられるカクテルをください。」


「変えられませんでしたか...」


「早く!」


「少し落ち着かれてはどうですか?頭が混乱した状態で戻っても、同じ道を辿るかもしれませんよ。」


確かにそうだ、少し状況を整理しなければならない。

バーテンダーが水を出してくれた。一気に飲み干して最初から整理する。


「まず暴走車、その次に建設途中の建物、そして殺人。この3つを超えれば次こそは...」


「変えられない未来というものもあります。逆に変えてしまったことで、生まれるはずだった素晴らしい未来が消えることにもなります。」


空のグラスを両手で握りしめて、バーテンダーの話を聞く。


「彼女がいない未来が怖いです。」


バーテンダーは笑顔で頷いて、空のグラスを受け取った。


「それにしてもここまで未来が変わらないなんておかしいですね。まるで必ず死ぬように仕組まれているのか?それとも...」


バーテンダーの一言で、別の可能性が見えてきた。


「すいません、青のカクテルください。」


次こそは、絶対に助ける。何かを確信したように、勢いよく青のカクテルを飲み干した。

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