過去旅行
バーテンダーは話を聞いた後、少し考えてカクテルを作り始めた。
「私の自論なのですが、付き合ってる時が経つとこのような喧嘩が必ず起きます。これは2人の成長に欠かせない必要な出来事です。」
「でもこの喧嘩が起きたせいで取り返しのつかないことになりました。」
「あなたの間違いはそこなのでしょうか?お待たせしました、『コープスリバイバー』というカクテルです。このお酒は『死んでも永遠の愛を誓う』という意味があります。まずは、あなたの彼女へ謝罪と愛を込めて、関係の回復のためにどうぞ。」
グラスを手に取り、口へ運ぶ。
「優しい味ですね。」
「迎え酒でよく飲まれるカクテルですから。」
バーテンダーは少し笑いながら、レモンジュースを片付けた。
飲みきると、バーテンダーはグラスを引いた。
「実は隠し味を入れてるんです。どうでしたか?」
「すみません、カクテル全然分からなくて。何が入ってたんですか?」
「あなたはどこで間違ったのか、それを考えてもらうためのものです。」
視界がぐるっと歪んで、瞼が重くなる...
ゴソゴソ動く音で目が覚めた。そこは自分の家だった。
「あれ?なんで家にいるんだ?」
少し開いたドアから明かりが漏れている。リビングに向かうと、そこには死んだはずの彼女がキッチンで料理をしていた。
「あれ?今日早起きだね。朝ごはんまだだけどお腹空いた?」
「え...いや、大丈夫。」
「どうしたの?体調悪い?」
夢なのか、混乱して頭が痛い。
弁当を作り、そのまま朝ごはんを用意してくれた。自分は食べずに洗濯物を干し始めた。
「じゃあ行ってくるね、今日残業になると思うからご飯食べててね!」
明るくそう言うと、仕事へ向かった。
そうだ、彼女は言っていた。
「夢ならせめて謝ってから覚めてくれ。」
また視界が揺らぎ、瞼が重くなる。
目が覚めると、彼女が目を潤わせて外へ向かおうとしていた。財布をカバンから取り出して出ていく。
「ここって...行かないで...」
後を追って外へ出るが彼女は既にマンションを出て、信号が変わるのを待っていた。
今日に限ってエレベーターが遅く感じる。マンションを出ると、ちょうど信号が変わって彼女が渡ろうとしていた。
「待って!」
声が届かない、彼女は止まらず渡り始めた。
スピードを出した車が来た、信号を見ていないのか減速する気配は無い。車とすれ違う時、なぜか時間の進みが遅くなった。
そういう事か、4人乗りの車に5人乗っている。爆音でHIPHOPを流して、騒いでいる。
「止まる気がないんだ!人がいるぞ!止まれ!」
声は届かない。ゆっくりと進んでた時間も急に元に戻り、そのまま彼女を轢いて行った。急ブレーキで止まったあと、中から全員出てきた。
「おいやべーって!」
運転していた男が罪を軽くしようとしているのか、ボンネットを開けて中をいじっている。整備不良ということにして罪を軽くしようとしているのか?
「おい!起きろ!」
ピクリとも反応しない。携帯がない、部屋に置いたまま飛び出してきたようだ。
「おいお前ら救急車呼べよ!」
病院で医者に言われたことを思い出した。
「もう少し早く応急処置ができていれば...」
この時こいつらがすぐに呼んでれば助かったかもしれない。そう思うと無性に腹が立ってくる。
立ち上がって、男たちの元へ向かおうとしたところでまた視界が揺らぎ、瞼が重くなる。
目が覚めると、BARに戻っていた。
「え?どうなってんだ?」
頭が混乱する。リアルすぎてどちらが現実かすら分からなくなってしまった。
「お帰りになられましたね。」
「あの、これどうなってるんですか?」
「過去旅行です。あなたの間違いは見つかりましたか?」
少し考えたあと、頭を少し抱えた。
「あいつらに救急車を呼ばせればよかった?いや、その前に暴走を止めれば轢かれることはなかった。」
そういえば、暴走を見た時に時間がゆっくりと流れていた。少し俯いて、あの時の状況をまた思い出す。
「あの瞬間、時間の流れが変わりました。てことはあの暴走は止められなかった?」
「そのようですね。」
「僕のミスは彼女を追いかけなかったこと...」
バーテンダーは頷いて、新しいグラスを用意し始めた。
「喧嘩はよくあることです。あなたは後悔した時追いかけていれば未来は変わったかもしれません。」
「そうですね。それはなんですか?」
バーテンダーは青色のカクテルを出した。
「当店オリジナルカクテルです。もしあなたが望むなら、このカクテルでは過去を変えられるでしょう。もしやり直したい場合は、ここへ来てまた私に頼んでください。」
「どういうことですか?生き返るってことですか?」
「それはあなた次第です。彼女様の命日にあなたの行動次第で、未来を変えることができるかもしれない。」
もう一度会えるなら。そう思い、藁にもすがる思いでカクテルを飲み干した。
視界がまた揺らぐ。これは慣れそうにない。