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2話 とにかく顔が良い!

 自己紹介はどんどん進んでいく。中には京さんに対しての愛を叫んだり、婚約者(フィアンセ)だと虚言を吐いたり…それはもうヤバかった。皆が皆、京さんという存在に目を奪われている。【恋は盲目(もうもく)】とはよく云うが…本当にその通りだと思う。


 …そして、次の自己紹介は。


「次…出席番号…14番…?」


 そいつは元気良く席を立ち、深呼吸をする。内心緊張しているだろうが、それを感じさせない立ち振る舞いだ。


「俺は東雲叡だ!好きな事は運動で、スポーツはほぼ全部出来る。これから一緒に過ごすことになると思うけど…よろしくな!」


 笑顔いっぱいの自己紹介。その瞬間、先の京瑞葉の自己紹介の時に起きた拍手に匹敵する程の大拍手に加え、女子からの大喝采が巻き起こった。


 …やっぱこいつ、めっちゃイケメンだな。俺は心の中でそう言葉を漏らした。運鈍根(うんどんこん)のすべてが揃っている叡だが…とにかくイケメンだ。


 (つと)に叡が女子に告白される場面に出くわしたんだが…その時の振り方が「ごめん、俺はお前と付き合えない…だけど、気持ちを伝えてくれてありがとな。俺、君とはあんま話したことなかったよな…なら良かったら、これからは遠慮せず話に来てくれ。その方が、俺も嬉しいしな!」だったっけな。いやイケメン過ぎるだろ。多分男子でも惚れるぞこれ。


 叡、このクラスの女子の9割5分がお前に凄い視線を送ってるぞ。因みに送ってない5分は俺の隣に座っているお嬢様一人のみ。


 そんな女子を魅了するチート能力を持っている叡の直後に自己紹介した男子生徒は災難だった。女子には先程の叡の自己紹介の余韻が残っており、とてもその男子生徒の自己紹介を聞いてられる状況でも無かったからな。その自己紹介で聞こえたのは俺と蒼馬と叡の拍手だけだ。悲しい奴だった。


 …って、俺の自己紹介の時は叡と蒼馬の拍手すら聞こえなかったぞ…真に悲しい奴は、親友にすら見捨てられた俺か…。


 そう考えている内にも、再び自己紹介はどんどん進んで…そして次の自己紹介。


「次…出席番号19番…?」

「…あ、もしかして僕…?」


 アシンメトリーな髪を揺らし、ゆらりと立ち上がる。そして一拍を置いた後、口を開いた。


「初めまして、僕は一尺八寸蒼馬。勉強が好きで、よく読書とか計算を(たしな)んでいるよ。皆とは是非とも仲良くしたいから、良ければ話しかけて欲しいな…よろしくね」


 こちらも相当な喧騒(けんそう)。蒼馬も容姿は良い方だからな…加えてあの態度の柔らかさ。叡程じゃないにしても、蒼馬もかなりモテるだろう。実際中学時代には、叡に惚れていない女子の大半は蒼馬に惚れていたしな。


 こう考えると、三人組の中で俺という存在が浮いているんだが…虐めの対象とかにならないよな…?


 その後も自己紹介は続いていき、全員の自己紹介が終わった。この時間を長く感じたのは、俺だけでは無いだろう。


 終わりを告げるチャイムが鳴り、椎名先生は口を開く。


「…それでは、休憩時間に入ります…?どうぞ、好きにしてください…?」


 椎名先生がそう言い終わった後、大半の生徒が席を立ち、それぞれが叡か蒼馬か京さんの(もと)に集まる。


 …叡の席では。


「ねえねえ、叡君って家で何してるの?」

「ゲームとか軽い運動とかだな…テスト前だったら勉強もする」

「へえ〜!叡君って何でも出来るんだね!」

「そんなことは無いと思うけどな〜…でもありがとな、嬉しいぜ!」


 …続いて蒼馬の席。


「蒼馬君って勉強得意…?良かったら今度勉強教えてくれないかな?私、勉強苦手で…」

「勿論構わないよ。学力には結構自信があるからね。分からなかったらどんどん聞いてね」

「あ、ありがとうっ…!」

「うん、全然良いよ〜」


 …最後に京さんの席。


「京さんって、何か運動とかやってますか!」

「…」

「あ、その本俺も読んだことある!面白いよな〜!」

「…」

「えっと…京さん…?」

「…」


 ご覧の通り、それぞれが三人の誰かに夢中だ。他のクラスの生徒であろう奴等(やつら)も光に群がる虫の様に、どんどん集まってくる。


 特に京さんの席には人が多く集まっている。俺は隣の席なので、必然的に目と耳に入ってくる。はっきり言って、邪魔だと思う。


(…だけど、流石の人気ぶりだな〜…クラス内カースト最上位はこの三人で決まり…か)


 学校という場では、必ずと言って言いほどカースト制度が付き(まと)う。それは目に見えずとも自覚しなくとも、必ずそこにある。


 カーストは秒を刻む毎に更新され、やがて固定される。つまり、今此処でカースト順位を上げていれば、充実した学校生活は保証される。


 つまり今この時間、クラス、いや学校での比重(ひじゅう)を増している三人は、揺るぎのないクラスカーストのトップとなる。下手な事をしない限り、その地位は地に落ちることが無いだろう。


 そして比重を高めたいなら、そういうトップに積極的に関わりに行くのが定石だ。簡単に言えば〝自分は凄い奴と関わりを持っているから、そんな凄い奴に関わっている自分も凄い奴である〟という謎理論が働くのだ。


 世界は完全な階級主義。地位を(しつら)えて権力者を目指す、乃至(ないし)はその権力者と関わり、おこぼれをもらう人生ゲームなのだ。


「…はぁ〜…結局こういう世界か…」


 カースト最底辺の一角、通称〝陰キャ〟。その称号が授与される人は限られる…が、俺は見事にそれに当てはまっている。


 叡や蒼馬はどちらかと云えば陽キャ寄りなので、より一層、俺の存在が目立つ。


「…ま、どうでもいいけど…」


 別に陰キャに劣等感は抱いてないし、今更変わろうとも思っていない。今後の学校生活がつまらなくても、案外どうでもいい。


 俺はただ、平穏な学校生活を送って、普通に教育を受けて普通に卒業する。その為にこの鳳高校に来たんだ。それ以外に(うつつ)を抜かすつもりは無い。


「れ〜いっ」

「うおっ…何だよ叡…」


 急に叡が俺の許にやってきて、肩に腕を回してきた。さっきまで女子達に囲まれていた筈だが…どうやら抜けてきたらしい。


「いや?特に何も無いけど」

「何もないならなんで来たんだよ。女子達と会話してろよ」

「いや、話しかけただけで大体が呆然として動かなくなったからこっち来たんだよ。なんでだろうな?」

九分九厘(くぶくりん)お前の所為だよ…お前がイケメンなのが理由だ」

「そんなもんなのかね〜…」

「ああ、そんなもんだ…蒼馬を見倣え」


 俺は、生徒一人一人に分け隔てなく接している蒼馬を指差す。蒼馬は会話が上手いから、会話を長引かせるのはお手の物だ。それに比べると、叡はそこまで会話が得意ではない印象がある。


…「叡は自分の容姿を持て余し気味だ」。俺は毎回そう言っているが、叡にはあまり伝わっていない。故に、叡はほぼ毎日、無意識的に女子の誰かを悶え死なせている。本人に悪気は無いから、余計に(たち)が悪い。


「…そういや、お前の妹は中学何年になったんだ?」


 話を切り替えたなこいつ。


「ああ…澪は明日から中学2年だな」

「へえ〜、まだ2年か。可哀想だよな〜、こんな兄貴が居てな」

「おいどういう意味だ」


 不名誉な事を言われ、俺は叡を(にら)む。(もっと)も、前髪越しなので叡には判らないだろうが。


「いや、だってそうだろ。家事も今は全部澪ちゃんに任せてるんだろ?」

「…悪いかよ」


 ぶっきらぼうにそう返す。仕方ないだろ、俺は(しばら)くは家事をしたくないんだ。…別に、やろうと思えば出来る…多分。


「いや、否定はしねえよ…ただ、落ち着いたら手伝うくらいはしてやれよ?」

「……そうだな」

「それでよしっ!」


 そう言って、叡は俺の肩をポンと叩く。心なしか、満足そうな表情を浮かべているような気がした。


「ったく……っあ…!?」


 …突如として。開いていた窓から風が吹き抜け、それによって、俺の前髪を吹き飛ばした。一気に瞳に光が差し込んで、少し眩しい。


 俺は直ぐに顔を生徒達から逸らし、顔を見られないようにした。数秒後、前髪は元の位置に戻り、俺は視線を生徒達に向ける。


「っ…危ねえ危ねえ…」


 幸い誰も気が付いていなかった為、俺は安堵(あんど)の声を漏らす。


「おお…気を付けろよ。お前顔見られたくないんだろ?」

「…ああ…窓は閉めておこう…」


 そう言って、俺は窓を閉めて施錠(せじょう)をする。


 …俺にとって、〝顔を見られる〟のは絶対に避けたい。理由は単純で、()()()()()()()()()()()()()()からだ。


 それに気づいたのは小学校時代。だから俺の素顔を知っている奴は俺の家族と隣人…後は小学校時代に俺と会ったことのある奴のみだ。


 この高校で言えば、知っている奴は叡と蒼馬…他に居るかもしれないが、多分それ以外には居ないだろう。というか、居ないと信じたい。


「…ま、お前は小・中では災難だったからな…」

「おい…それを此処で口にするなよ…」

「おっと、悪い…」


 両手で口を押さえて、叡はそう謝罪する。…少なくとも、〝その話〟は此処でするべきじゃない。


「…っと…俺、そろそろ席に戻るよ。じゃあな」

「ああ」


 俺がそう返すと、叡は自席へと戻っていった。他の生徒達も、チャイムが鳴る一分前には席に戻り、自席の近くの生徒達と話している。


「……」

「…ん?」


 隣の方から視線を感じた。見れば、京さんは本から視線を外して俺の方を見ていた。


 …え?なんでこっち見てるんだ?


「…あの〜…俺何かしたのか…?」


 俺は少し怖くなって、そんな事を質問した。俺が彼女の気分を害するような事をしたのか?そう心の中をざわつかせながら、返答を待つ。


「…話しかけないでと言った筈ですが」

「あー…はい」


 でしょうね、ある程度予測出来てた。でも理不尽じゃないか?いかにも何か言いたげな顔だったよな?だったらこっちから訊ねるのもOKにしてくれよ。


「…やっぱり、私の勘違いかしら…」


 彼女が何か呟いた気がしたが、それについて言及しても同じことの繰り返しだ。その質問には答えてもらえないだろう。


 …でも、俺に対する対応…他とは少し違う気がする。他の生徒達には無視を貫くのに、俺に対しては何かしら一言以上言葉を発するし、ある程度の〝会話〟が出来る。何かを探っているのか、はたまた別の理由があるのか。


 …ともあれ、京さんの対応は俺にだけ少し違う…それだけは確かだ。…言うとアレだが…迷惑かもしれない。俺の平穏な学校生活に、美少女との関わりは必要ないからな。彼女が俺に対して他とは違う感情を抱いていたら面倒だ。


(…出来るだけ干渉しないようにするか)


 俺はそう心に決め、軽く拳を握るのだった。




 …今日は入学式があった為、授業は4限で終わり。現在は放課後だ。


「じゃあな〜零」

「零、また明日」

「ああ、またな、叡、蒼馬」


 俺は、叡と蒼馬とそう別れの挨拶を交わし、教室を去った。




 マンションの6階、602号室…そこが俺の家だ。解錠(かいじょう)して扉を開ける。扉が閉まる音と同時に、奥の方から、パジャマ姿の少女がこちらへ迫ってきて…。


「おかえりっ、おに〜ちゃんっ♪」


 彼女はそう機嫌よく言い、俺に抱き着いてきた。


「おっ…っと。ただいま、澪…とりあえず離れてくれ」

「む〜…お兄ちゃんは相変わらずつれないな〜」


 俺から離れながら、頬を膨らませそう不満を(こぼ)すのは、俺の実の妹の天官(あまくらい)(みお)。腰まで届く灰色髪で、瞳は漆黒…そして俺、天官零にべったりのブラコンである。


「つれないも何も…」

「うるさ〜いっ!良いじゃん別に〜。ほら、お昼ご飯出来てるよ、行こ?」


 今度は俺の腕にしがみつく。…スキンシップが好きな奴だ。


「分かったから、離れろ…ったく」




「…美味いな」


 俺は澪の手料理に思わずそう感嘆(かんたん)の声を漏らす。流石、俺が家事を押し付けているだけあって、日に日に腕が良くなってきている。


「本当?ありがとっ♪あむっ……うん、我ながら見事」

「…なあ澪」

「ん?…(食べ物を飲み込む)…何?お兄ちゃん」

「ああ、いや…明日から学校だろ?明日の準備はしたのか?課題は?」

「ううっ…まだ終わってないよ…」

「おい…」

「ご、ごめんって…お兄ちゃん手伝って〜…」

「いや、謝るなら要求をするなよ…」


 澪は基本的に怠惰(たいだ)だ。課題は提出日ギリギリで取り掛かるし、学校がある日以外は、外にもあまり出ない。だが真面目にやっているのは家事。掃除や洗濯、料理…俺が材料を買ってくれば、勝手にやってくれる。


 逆に言えば、それ以外は殆ど俺に任せっきりと言っても良い。さっき言った課題や荷造り…もっと酷ければ身支度の手伝いもする。いや3歳児みたいだな。


 そして、毎回それらを承諾(しょうだく)している俺も俺だ。甘やかし過ぎるのがいけないのは分かってるが…家事全般を任せているのも事実だから、断り切れないんだよな。…だから。


「…分かった、やってやるよ」

「やったっ♪ありがとうお兄ちゃん♪」

(…ったく、調子の良い奴だ)


 …その後、俺は澪の代わりに課題と荷造りを急ピッチで終わらせるのだった。

これで2話は終了です。


物語上では明記されていませんが、澪は可愛いです。


それと〝澪〟という字も〝れい〟って読む為、自分はこの兄妹をなんとなくで〝れい兄妹〟って呼んでます。別に意味などは無いです。


次回から京瑞葉の出番が多くなると思います。それでは、また次回。

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