15話 卑怯
すっごくお久し振りです。ほんのちょっと編集を変えました。
それと以前キャラの名称変更したら辻褄が合わなくなっていたので、再び名称変更しました。このエピソードでは名称変更の影響がありますので、変更後の名称を知っておきたい人は戻って確認して下さい。
…以前の体育祭練習では、冬服が多かったが…今日は夏服の方が目立つ。日が良く照るこの季節では、冬服だとかなり厳しいようだ。
「よし!体育祭まで残り一週間を切った!体育祭当日は晴れの予報だから、多分予定通りに実施すると思うぞ!」
体育の授業では毎度恒例、長谷川先生の大声が轟く。毎度思うが、腹から声出しすぎだろ…正直言うと、めちゃくちゃうるさい。鼓膜に響き過ぎて平衡感覚がおかしくなりそうだ…。
「今日からは本格的な本番形式だ!今までの実践形式とは一味違うと思え!」
…多分言葉だけだろう。大体はそう言っても大して変わらない。よっていつも通りの練習だ。
「それじゃあ最初は400m走の出場者がグラウンドを使ってくれ!以上!解散!!」
その言葉で、生徒達は全員散開していく。
「…さて」
体育祭の練習と雖も、授業の一環だ。学ぶ事は禁止されていない。よって、400m走の様子を見て、俺も学ぶとしよう。
──というのは建前で、400m走には叡が出場するから、見ておきたいだけだ。
既に嘉納に話はつけてある。承諾は得た。得られるとは思わなかったけどな。意外と融通が利いてくれて助かったよ。
「……」
400m走の練習が始まるまでの間がかなり暇だ。入退場とかいう面倒なのまであるからな…そこら辺は端折れば良いと思うんだがな…。
「──へえ、アイツも居るのか…」
俺はその金髪に着目する。…五十嵐だ。〝あ〜、だる〜〟とか言ってそうな仕種で立っている。
滅茶苦茶スポーツやってそうな感じはするが…400m走に出る程か…。
「…後は…お、恋菜か」
一回話したきり、殆ど話さなくなった恋菜も出場するらしい。意外だな…あの形でスポーツ系か。
「…!?」
「…?」
なんか一瞬目が合った気がしたが、直ぐに目を逸らされた。
…なんか俺、嫌われてんのかな…。
「ええっと…お、居た」
叡を発見。いつも通りだ。
…こうして見るとイケメンだなアイツ。五十嵐もイケメンなんだろうが…身内贔屓というやつだろうか。全然叡の方が良い気がする。
…というかアイツ、体育祭の練習では琥珀色のピアス着けてないんだな。まあ邪魔になるか。
「…あとは…京さんか」
よくもまあ、この中に随分と端正な風貌が揃っているものだ。
「…五十嵐にガン見されてるな」
あからさま過ぎる。京さんも警戒してるな…。
…そういえば、練習では五十嵐は京さんに話し掛けてはいないと思われる。あの二人の初の会話は何度目かの体育祭練習の後だ。練習で関わっていないのは直ぐに分かる。
…だが、あの一件から京さんは相当ビビってるな。
「…っと。そろそろ始まるか」
俺は注意深く、400m走の練習を観察する準備をする。
「…さて」
俺がこの練習で注目するのは、叡でも京さんでもない。
元から、注視する相手は決まっている。
「──五十嵐だ」
[視点変更:東雲叡]
「それじゃあ!400m走始めるぞー!第一走者は定位置に着いてくれ!」
長谷川先生がそう言うと、第一走者は各々のレーンへと向かう。
…俺は第三走者、走るまでにはまだ時間がある。軽く身体でも解しておくか。
「よっ、と…」
軽くその場で飛び跳ねたり、脚のストレッチをしたりする。準備運動は基本だ。毎日少しやるだけでも違うから、面倒にならずやってみてくれ!
「…フン」
「…んあ?」
ええっと、誰だっけコイツ…ああそうだ、五十嵐だ。五十嵐がなんか鼻で嗤った。
多分俺に向けてだよな?
「なんだよ五十嵐。なんか気に障ったか?」
「黙れ」
うへぇ、コイツ面倒臭え奴だ…まだ二言三言しか会話してないのに、もう分かるぞ?
「東雲だったか?言っておくがお前と走るのは俺だ」
「何言ってんだ、お前以外にも居んだろ」
「他じゃ相手にならん。スポーツ万能と云われてるお前を認めたんだ。感謝しろ」
なんだこの恩着せがましい奴は。そもそも感謝する要素は何処だよ!?無いだろそんなの!
というかコイツ、マジで上下関係気にし過ぎてる奴だな…俺以外をゴミとしか思ってないのか…?
…イラつくな。
「──どうやら第一走者が走り始めたようだな」
五十嵐のその言葉につられ、俺は走っている第一走者達を見る。
「──どいつもこいつも遅いな。まるで話にならん。お遊戯か?コイツ等は出場者という自覚すらないんだろうな」
「………」
…落ち着け。
「フォームもまるでなってないな。こんな低レベルじゃ、体育祭当日もたかが知れてるぜ」
「……………」
「…ふわぁ〜…あ?やっと走り終わったのかよ。遅すぎだろ」
「…………………」
…第二走者も、五十嵐はダメ出しをし続けた。それはもう、聞くに堪えない程に。
…そして、第三走者の出番だ。
俺は第一レーンに立ち、スタートの合図を待つ。
「……」
…五十嵐をどう後悔させるか──って、良くないな。他人を陥れる行為は褒められたものじゃない。
(…要するに、自信を折れば良いだけだ)
傷付ける訳じゃない。ただ、差を見せるだけ。それだけでいい。
「それでは、第三走者、よーい…スタート!」
──ダンッ!!
合図と同時に地を蹴る。第二レーンの五十嵐のスタートは、俺とほぼ同時だった。
(…思ったより速いが…)
恐らくアレは軽く走っている。態々本番以外で全力を出すのは馬鹿だとか考えてるんだろう。
(ならこのまま抜かせてもらうぞ…!)
俺は少し加速し、五十嵐を抜かす──
ガッ!
「──ッ!?」
バタンッ!!
突然の事だった。脚に何かが引っ掛かり、態勢を崩した俺は前に転けた。
「…フン」
「アイツ…!」
練習だからと言って、脚を掛けるとかどんな真似だ…!
「叡君大丈夫!?」
「おい五十嵐の野郎わざと…!」
周囲からそんな声が上がる。
…クソッタレ。五十嵐の野郎、舐めやがって…。
「……」
俺はゆっくりと立ち上がる。既に俺を除く走者の中で一番遅い奴でも50mは空いた。普通にやっても追いつけないな。
…だったら。
「──後悔させてやるよ」
ダダダダダダダダダッ!!
瞬時に加速し、相当なスピードを出す。最早、一人の高校生とは思えない位の速度を出してしまっているが…気にしない。俺はスポーツ大好き人間だぞ?気にしてたまるか。
「うぇ!?はっや!?」
「追い越された!?」
「足速すぎだろ…!?」
「やっべぇ!?」
瞬く間に四人を抜き去って、残るは五十嵐のみ。距離は…30mか。やっぱりアイツは他の奴等とは違う。
…だけど、関係ねえよ。
「…ッチ」
五十嵐が振り向き舌打ちをする…それと同時に加速を始める。
…コイツ、普通に練習で本気出してんな。俺の予想が外れたか?まあいい。
「逃げ切れると思うなよ」
ダダダダダダダダダッ!!
再び加速する。みるみると、五十嵐との距離が詰まっていく。
「──遅えな」
「!!」
俺は五十嵐を抜き去り、更に距離を開こうと足の回転を速める。ゴールまでは残り20m──
ガシッ!
(コイツ…!!)
──五十嵐に襟首を掴まれ、そのまま引っ張られる。
「──舐めんな…!」
「くっ──!?」
それを全力で振り切る。五十嵐の手は離れ、ゴールまで一直線。
…そして、俺が一着。五十嵐が二着。そして数秒後、ぞろぞろと他の走者もゴールしていく。
「っち──たかが練習に、本気になってるようだな、東雲」
そんなことをほざく五十嵐。
…本気になってたのはどっちだ、って話だ。めっちゃ邪魔されてしんどかったぞ。
「…まあ、練習でそんなんじゃ本番はたかが知れてる…だが面倒だな。これじゃあ俺が東雲より運動音痴だと思われるじゃねえか…瑞葉に恥ずかしい所見せたことになる…っと、そろそろ瑞葉の番だな」
……コイツの〝お嬢様〟に対する執着はなんなんだ。何がコイツをそうさせてる?なんでここまで汚い手を使える?
…考えても、答えは見つからなかった。
[視点変更:天官零]
…400m走の練習は終わったようだ──中々に、酷かった。
五十嵐の叡に対する行動もそうだが…もっとヤバいのは、そんな事をしたのにも拘らず、五十嵐の評価が落ちなかった事だ。
奴の座右の銘〝顔が良ければなんでも許される〟の通りに動き過ぎている。これは本当に良くないこのままだと、奴は一生勘違いしたまま周囲を傷付けていく。
…だが、五十嵐を説得するとか、そんなのは無理だ。奴の信念の陶酔ぶりは異常、恐らく生まれつきその信念が深く根付いている。だから自身の都合の良い事しか脳で処理しないし、処理出来ない。
一番怠いタイプ。関わりを持たないのが吉…なのだが。
(──無理だろうな。少なくとも、あの一件で関わってしまった俺は)
あの一件で俺はアイツから〝自身と京さんの仲を邪魔した赦されざるクズ〟とでも称されているのだろう。まあ、つまりは栄誉ある、誇っていい称号だ。
…まあそんなどうでもいい事はさておき。その称号がある以上、ターゲットにされるのは火を見るより明らかだ。
だからこそ、何かしらの対策が欲しいが…それは追々考えよう。
「──ドーンッ!」
「づっ──!?」
突然、背中に強烈な痛みが迸る。
「ちょっとコウ君〜、レイレイにあんま乱暴しないでね〜」
「なんで俺がやったことになってるんだよ!?白宮がやったんだろ!?」
「え〜なんの事かな〜」
俺が振り返ると…そこには3組のリレー走者の二人が立っていた。
「あ、ああ…白宮さんと…黒凪だったか?」
「晃成で良いぜ」
「そうか…なら晃成。今俺の背中を叩いたのは──」
「白宮だ」
「だろうな」
白宮さんを指差す晃成に、俺は納得する。だって白宮さんには一回、これくらい強い力で叩かれたからな。
「あははっ、バレちった」
「コイツ、力強えだろ。とんでもねえ音したし…天官、大丈夫か?」
「ああ…」
「って、誰が馬鹿力って言ってんの?」
「お前」
「ひっどい…!?」
コントか…?仲良すぎだろこの二人。因みにこれで付き合ってないらしい。嘘だろ。
「んで?レイレイ何してんの?練習してないけど」
「他の競技を観察して勉強…というのは建前で、親友達の様子をみたいだけだ」
「成程。確か天官の親友は…東雲と寺沖だったか」
「4組人気の二人だね〜…顔も性格も良しの二人。良い親友じゃん」
「俺自身もそう思ってるよ」
良い親友、なんて表現するのが勿体無いくらいだ。
「…折角だからあたしも一緒に見て良い?」
「おい白宮練習はどうした」
「知〜らないっ♪」
「おいっ!!」
…………。
…本当に付き合ってないんだよな…?
[視点変更:寺沖蒼馬]
「…うん、オッケー」
しっかりグラブを着けて、キャップを被って、準備完了。
僕の出場種目は野球。ポジションはピッチャー。僕の得意な心理戦を活かすなら、これが適当かな。
…そんな事言ってたら、プレイボールが宣告されたね。
(──先ずは相手の目を見る)
「…っ」
どうやらこのバッターは目が合っただけで動揺しちゃったっぽいね。なら、考える暇を与えずに投げよう。
球種は…そうだね…適当にチェンジアップで。
「よっ、と」
「っ、おりゃあ!」
彼が振ったバットにコツン、と球が当たる。焦って早く振り抜いたのだ。
…まあ考える暇無く来たら焦るからね。タイミングを狂わせれば簡単にアウトが取れる。
そのボールは僕の方に飛んできた。慌てずキャッチにて、一塁手に投げてアウト。
「──さて、あと2アウト」
[視点変更:天官零]
「ひゅ〜、ありゃエグいね〜」
「…落ち着き方が尋常じゃねえな。一切音に揺らぎを感じねえ…」
二人も、蒼馬の思考と技量に感心してるようだ。
「…まあアイツ、こういう事に関しては反則級に強いからな」
特にリバーシやチェスは本当にヤバい。未来が視えてるんじゃないかってくらいには視野が広く、リバーシなら自分の駒がほぼ確実に無くなるし、チェスなら気が付いた時には搦手に嵌って落とされる。
…まあ、全部叡がやられた事だ。本人曰く、〝アレはチートだ〟とのこと。
「…お、三振だ」
「どんな球の変化の仕方だよ…」
淡々とアウトを積み上げていく蒼馬。
──凄いな。
一番近くで見てきたにも拘らず、そんな言葉が出てしまう。
俺だったら絶対あんな風には出来ない。完全に人の心を掌握している。
ほら、次のバッターもやる気無くしてるって。手加減してやれよ。
「…球は遅いのに、打てねえな…」
「アイツから打とうと思うな…絶対に」
「お…おう…」
「…多分レイレイも何度かやられてるね…コレは」
当然だ。俺もかれこれ20回くらい、様々な手法でやられてる。因みに叡は俺の5倍。
「…って、もう終わっちゃった。早すぎ」
スコアは1-0で翠…実質蒼馬の勝ち。戦った相手は…御愁傷様だ。
「…ありゃ、チャイム鳴っちゃった…ここで終わりか…」
「…そうだな」
…体育の授業は終わり、か。
「そんじゃね、レイレイ」
「またな、天官」
「ああ…じゃあな」
二人に別れを告げて、俺は。
「──早めにアイツに、罰を与えておくか…?」
…改めてお久し振りです。
暫く休止していた理由ですが…スランプもありますけど、大部分はやる気の問題です。自分は結構飽き性なので、適度な間隔でやらないとこんな風に間隔が空き過ぎる可能性が出てきます。
…現在はやる気を出して頑張って書いてます。少しずつ書いておりますので、気長に待って頂けると幸いです。本当すみません…。
次回の投稿は9/14を予定しています。では。




