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魔霊大蛇八太夫ぶん殴られる

校長室で一人ふんぞり返っている大蛇八太夫の様相は、かなり時代がかっていた。


頭は歌舞伎役者が時代劇を演じる時に使う(かつら)の五十日のようだった。


五十日とは、五十日間も手入れをせずに伸ばした髪が団子のようになった状態を指す。


そして、衣装は、これも歌舞伎の雪の積もった松や笹などの刺繍を施した派手で豪華なものだった。


言ってみれば、大蛇八太夫は江戸時代風の豪華な半纏(はんてん)のようなものを着て応接の椅子に座ってふんぞり返っていた。


三人は、有一郎を先頭に花房、あやかの順に抜き足差し足忍び足で気配を消して校長室に迫るが、大蛇八太夫は既に察していた。


それでも悠々とふんぞり返っている。


人間如きに何ができるかと完全に見下していた。


ま、それでも、ここで暴れると室内がめちゃくちゃになるので、それもよくないかと思ってドアを開けて通路に出た。


有一郎は(出て来たな半纏オタク野郎)と思ったが、攻撃を躊躇していた。


なぜなら、空間弾烈を駆動して迫っても、霊が相手ではすり抜けてしまうのではないかと懸念していたからである。


どのようにして攻撃すりゃいいんだよ~。


そこに、あやかが有一郎の体の中に入って来て言った。


「空間弾烈を駆動してぶっ飛ばすのよ」


「えっ、でも相手は霊だよ。花房さんのようには殴れないよ」


「大丈夫よ。殴れるから」


「殴れる?」


あやかに殴れると言われても、依然として半信半疑だった。


ところが、実際に空間弾烈で超接近し、思い切りぶん殴ると手ごたえがあった。


(は? どうして殴れた?)


大蛇八太夫が姿を見せたので、花房は気を遣ってあやかに、「敵がでてきたよ」と言おうとして、あやかがいないのに気づいた。


(あれ? どこに消えた? なぜ消えた?)


有一郎が霊体を殴れたのはあやかが入っているからだ。


(ということは、あやかは霊体なのか)


えっ、霊体? 

有一郎は自分で言って、自分で驚いていた。


大蛇(おろち)は殴られた勢いで2階の壁から抜け出して落ちそうだった。


幽霊は落ちても怪我はしない。


例えスカイツリーから落下しても無傷だ。


だから、大蛇八太夫は落ちようとしているのではなく、逃げようとしているのだ。


有一郎は霊魂糸縛(れいこんしじゅう)を発動して、大蛇八太夫を縛り上げ、落下を阻止した。


花房も飛んできて大蛇八太夫をぐるぐる巻きにしたが、それでは厚手の半纏を縛っているようなものですぐに抜け出してしまう。


「それでは無理よ」とあやかが花房に言った。


「えっ? あやかちゃん! 今までどこに行っていたの」


「トイレです」

「トイレ?」


「大蛇八太夫は分身の術を使うわ」


そう言っているとオロチは豪華な衣装を脱ぎ捨てて、地味な半纏を着た状態で立っていた。


「ふふふ、どうやら、お前たちは特殊な人間たちのようだな」


「オレはな」と花房は言った。

「関東霊夢省の者だ」


「なるほど、そういうことか。それではわしも正体を明らかにしょう。わしの生前の名は大蛇三太夫だ」


「元忍者か」


「そうだ、伊賀のな。それから様々な魂を食らって五つほど能力を高めたから、今、こうして八太夫と名乗っておる」


「ということは500年前ごろの話ね」とあやかが言った。


「伊賀の忍者も織田軍の数の前に滅ぼされたということね」


「それは違う。わしたちは織田軍ではなく、織田信長に滅ぼされたのだ。そして、日本統一のために信長を操っていたのが陰府神霊(よみしんれい)両面宿儺(りょうめんすくな)だ」


「わしらはこいつにやられたのだ。わしはその仕返しのために、こうして魔霊に身を落として反撃の機会を伺っている」


「ほぉ」

大蛇八太夫の思わぬ話に花房は唖然とした。


「しかし、いくらガラクタの霊たちを集めても陰府神霊両面宿儺には到底敵わんぞ。どうせなら、牛鬼婆の村の霊を集めればいいだろう。それでも勝てるかどうかは分からないが」


「牛鬼婆の村? あそこに巣食うのは人霊じゃなく、妖怪だろう。妖怪は面倒くさい」


「それに、呪術も妖術もそれなりに有効だが、わしは魔術を磨きたい」


有一郎は訊いた。


「呪術や妖術と魔術は違うのですか?」


「ああ、もちろんだ。呪術や妖術は人が用いる術だが、魔術は人そのものをも取り込むからな。深みが違う」


あやかが痺れを切らしたかのように言った。


「あなたの蘊蓄はよく分かったわ。どちらにしても負け犬ね。成仏できないような霊がどんなにあがいても陰府神霊両面宿儺には勝てないわよ」


「だから、ここでわたしたちがあなたに引導を渡してあげるわ。もうこの世に現れて人騒がせをさせないように黄泉に封印してあげるわ」


「できるかな」というと大蛇八太夫は五つ首のオロチに変身した。


舌をちょろちょろ出して、首をクネクネ動かしている。


シャ! シャ! と五つの首が交互に攻撃してくる。


花房は目を丸くし、有一郎はあまりの恐ろしさに腰を抜かしかけたが、あやかは涼しい顔で「さあ、かかってきなさい、お前の500年の歴史を全否定してやる」と叫んで八徳数珠蓮華(はちとくじゅずれんげ)の舞を繰り出した。


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