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牛鬼婆の息は超くさかった

一人はおでこに大きなたんこぶをぶらさげ、片手に包丁を持っていた。


うれしそうに包丁で手のひらを叩いてペチペチいわせているが、下をみると片足がサンダル、片足が下駄だった。


こんな歩き方が難しい凸凹な履き方ってある?


もう一人は、黄ばんだシミがいっぱいついている白のブリーフ一丁のいでたちで、あやかを見ながら「お嬢ちゃんキレイじゃのう。わしと一発やるか」とほざいていた。


限界脳味噌なのか。

出て来た先が精神病院なのかと思うばかりだ。


三人目は、涎を垂らしながら、首振り人形のように頭をゆらし、へらへら笑っているおじじだった。


悪趣味な人間博物館に来たみたいだ。

これがヒヒ~ンで呼び出されたおじじたちなのか。


あまりのひどさに、思わず、あやかの唇が怒りと笑いの混じった奇妙なひん曲がり方をしていた。


一方の有一郎も、しわくちゃエロばぁばたちに取り囲まれていた。


一人が、いきなり有一郎の下腹部に手を伸ばしてポークビッツを握った。


有一郎は思わず、空間弾烈を発動させて凄いスピードで後ずさっていた。


「こらこら」ばぁばたちが叫んだ。


「逃げるんじゃねぇ。もうちょっと触らせんかい。触って減るもんじゃなかろうが」とまるで、どスケベ爺のようなセリフを吐いている。


歳をとると女も男になるとはよく言われることだけど、本当だと有一郎はビビっていた。


そこにスーツを着た男が現れて、こう言った「薄汚いじじいはばばあたちは散れ、散れ! 散って家に戻れ。そうでないと逮捕するぞ」と叫んでいた。


「ったく、どうしょうもない奴らだ」と舌打ちしながら、「いいか」とあやかと有一郎に言った。


「オレは関東霊夢省の者だ」


(関東霊夢省? 初めて聞く名称だ)と驚いていると男は言った。


「いいか、これから言うことはすぐに忘れろ。聞いた直後から記憶を消してゆくのだ。分かったな」とじろりとあやかと有一郎を見ながら言葉を継いだ。


「オレの名前は関東霊夢省主査花房浩太郎(はなふさこうたろう)だ。

現在、この地を調査しているところだ」


と言いかけて、さらにぞろぞろとおじじとおばばが出てくるのを見て、ガラケーを取り出してどこかに電話をしだした。


へぇ~今どき、まだ、ガラケーを使っている人がいたんだと思った有一郎は思わず訊いていた。


「ガラケーってまだ販売されているのですか?」


「ん? これか。これは市販されているものではない。官製だ。スマホは大きいうえに壊れやすいから我々は全員、ガラケーを使用している」


有一郎が「関東霊夢省って」と言いかけた時、花房は手で制して言った。


「言っただろう。オレが話したことはすぐに忘れろ、消去しろと」


「で、誰を探しているのですか?」


「ここはな、詐欺集団の巣窟なのだ。しかも、普通のオレオレ詐欺などではなく、怪しい術を使っている。そこが我々の調査対象だ」


(出た!)と有一郎は思った。


(やはりビンゴだ。ここに来て正解だった)とワクワクしてきた。


「怪しい術って呪術ですか」


「は? なぜ呪術を知っているのだ? 君は誰だね」


「榊原道場で忍法を習っている者です」


「ほう、榊原道場。ここの道場主は有名だからな、名前だけは聞いたことがある」


有一郎は思った(忍法という名称を出しても驚かないところをみると、この人も術使いか。ますます面白くなってきた)


「もしかして、探している相手は牛鬼婆ですか?」


「は? なぜ、そこまで知っている?」


「だって、ここは牛鬼婆の村でしょう。当て字の地名から、そのように推測できます」


「確かに、君の言うとおりだ。これだけジジババが出てきているので、もしかして牛鬼婆も出てくるかもしれないと思って相棒を呼ぶために電話したわけだ」


「もう出てきてますよ。牛鬼婆は」と有一郎は言った。


「左側に並んでいる家の三件目の壁に隠れていますよ」


「ん? 牛鬼婆が出た?」


「おりますよ、今、ここに引きずり出してやりましょうか」


有一郎は霊魂糸縛(れいこんしじょう)を発動させ、蜘蛛の糸のような魂の糸を繰り出して牛鬼婆を捕え、たぐり寄せた。


牛鬼婆は何が起こったのか分からず、手足をばたつかせて花房の近くにたぐり寄せられてきた。


「おお! この醜い異相はまさしく牛鬼婆だ」と花房は驚いていた。


その一方、(この若者は妖術を使えるのか)と警戒心を露わにしていた。


牛鬼婆は近くに来るといきなり3メートルも垂直に飛び上がり、同時に魂の糸が断ち切られた。


(これは人間技じゃない。呪術か)


有一郎は空間弾烈を発動し、空間を削ってあっというまに牛鬼婆の目と鼻の先にきた。


しかし、牛鬼婆の容貌は間近で見ると肝をつぶすほど気持ち悪かった。


(おえっ)とひるんだ有一郎に牛鬼婆は、とんでもなくくさい息を吐きかけた。


あまりの悪臭に有一郎は脳細胞の大半が死滅したかと思うほどの衝撃を受けた。


(ううう)ときりきり舞いしている有一郎の心がふっと暖かくなった。


あやかだ、あやかが入ってきた。


「逃げるのよ」とあやかはささやいた。


有一郎は渾身の力を振り絞って空間弾烈を駆動した。


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