妖艶美魔女いななきとじぃじ、ばぁばたち
祝日に、有一郎はあやかに「神社で会わないか」と連絡を取った。
体の中で超接近して会話することはあっても、生で話をするのは初めてだ。
「有一郎さんから連絡があるのって珍しいわね」
「珍しいというより初めてだよ」
「特別な用があるの?」
「そうなんだ、野暮用になるかもだけど、あやかちゃんは限界集落の噂を聞いたことはある?」
「自然と耳に入ってくるわ。妖艶美魔女いななきの話でしょう」
「そうなんだ、あの村の名称を知っている? 宇士尾仁馬場という名前なんだけど、いかにも、へたくそな当て字であることが丸わかりでしょう」
「うしおにばば?」
「そうだよ、多分、元の正しい名称は牛鬼婆じゃないかと思うんだよね」
「牛鬼?」
「日本古来の妖怪で最も醜悪な妖怪と言われているんだけどね。ちなみに、アメリカ映画のプレデターのモデルとも言われている」
「それで?」
「僕たちに戦いを挑んできた呪術師なんだけどね、真月徳兎が出してきた呪術が北斎が描いたお岩の提灯お化けとそっくりだった。徳狐が出してきたのが平安時代に鳥羽上皇に仕えた玉藻前という美女が化けた九尾の狐でしょう。全て、和風の妖怪だった」
「和風?」
「そうだよ古の伝統的な妖怪たちだ。そして、限界集落が牛鬼の婆でしょう」
「だって、限界集落って地域人口の50%以上が65歳以上の集落を指すのでしょう。どこへ行ってもお爺さんとお婆さんばかりよ」
「そうなんだけど、妖艶美魔女の名が馬のいななきでしょう。牛と馬。仲間を呼び寄せるいななき。とても偶然とは思えない。そこで、あやかちゃんがよければ、今から、その村に行ってみないかなと思って呼び出したってわけ」
「ふふふ、ヒマだからいいわよ。でも、物好きね。わたしたちを襲ってきた呪術者たちとその村に何かつながりがあると考えているの?」
「あるとは断定できないけれど、何かヒントが見つかるかもしれないじゃん。もしかしたら、そこが奴らの巣窟だったということもなきにしもあらずだし」
こうして二人は宇士尾仁馬場の様子を見てみることにした。
人口はおよそ300人だけど決して廃村ではない。
新築の家も建っているし、田んぼや畑が広がっていて、どちらかといえば、美しい村である。
しかしである、うわべ善人で本当は極悪人というのが人の常であるからには決して油断はできない。
そもそも、村に漂うオーラが少し歪な感じがする。
こういう直感はおろそかにはできない。
村に入るとさっそく「お嬢ちゃん、お嬢ちゃん」と声をかけてきたお爺さんがいた。
あやかは今日はセーラー服を着用していない。
祝日だから、普段着のモスグリーンのカーゴパンツを穿いている。
この方が身軽に動けて楽だ。
ミニスカートを気にする必要もないし。
お爺さんは言った。
「ものすごくキレイじゃのう。タレントさんかぇ」
「いいえ、普通の中学生です」
いきなりズケズケと。
初対面の人間に対して無作法極まりない。
やはり、特殊な村なのか、それとも田舎とはこのようなものか、或いは、この爺さんが境界知能の持ち主なのか。
そこは、まだ判然とはしないが、(これは意外と期待できるかもしれない)と有一郎はゾクゾクしてきた。
「はやく来い来い お正月」ではないけれど、早く来い来い妖艶美魔女いななきだ。
早くお前に会いたい。
すると、本当にらしき女性が近づいてきた。
ひなびた村にふさわしくない垢抜けたファッションにど派手なメイク。
(これは)と、思わず有一郎の頬が緩んだ。
あやかを見るとビンゴ! みたいな顔をしている。
女は言った。
「あら、僕ちゃん、かわいい顔をしているわね。そばにいる綺麗な子は彼女なの?」
「いいえ、ただの近所の子です」
「あらそうなの、じゃあ、お姉さんといいことする? いいことよ」
「いや、僕はそういうの苦手なので」
「は? 何言ってるの、わたしがいいことしょうと誘ってるのよ。あなた、鼻くそ丸めて万金丹、それを飲むやつぁアンポンタンって言葉を知らないの」
「わたしの誘いを断るなんて、アンポンタン以外のなにものでもないでしょう。とんでもないガキね。私を否定するとひどい目に会うのよ。知ってる」
そう言うと、突然、ヒヒ~ンといなないた。
するとそれが合図かのように周りの家々から、ぞろぞろとじぃじやばぁばがでてきた。
(ヒヒ~ン、いななき、仲間を呼んだ? やはりビンゴか)
呼ばれて出てきてジャジャジャジャーンではないけれど、出て来たおじじたちは想像を絶するほどひどかった。




