バンブルビーアイの最後と魔王デザミングの登場
あやかと有一郎はアツユ同様に、透視能力を備えているので、六眼シンシャの力に惑わされないため、その威力を甘く見ていたのだ。
危なかった。
ヤタロウのファインプレーに感謝しなければならない。
ヤタロウのモヤのような闇に捕らわれてバンブルビーアイは身動きが取れなくなっていた。
(こんなバカなことがあるか。猿を使徒もどきにするという猿知恵が思わぬ危機を招き入れてしまった)
しかし、後悔先立たずだ。
バンブルビーアイはアツユの黄金の玉の攻撃を受けた。
音もなく忍び寄ったアツユの玉はバンブルビーアイの体をすり抜けた後、一度バックしてバンブルビーアイ体内に潜り込み、そこで破裂した。
(うう、なんだこの魔術は、六眼シンシャがまったく使えない。人生始まって以来の大ピンチだ! こうなれば逃げるが勝ちだ)
猿男も黄金の玉の攻撃を受けていた。
猿男は小柄からなのか、黄金の玉一発で何が起こったかも知らずに悶絶した、つまり気絶してしまったわけだ。
しかし、猿男がどうなろうか知ったことではない。
バンブルビーアイは翼を出そうとしたが、その翼もあやかが放った九呪裂帛弾によって、穴だらけにされてしまった。
あやかは、アンドレの背中を押した。(おお)とアンドレは思った(オレの出番だ)しかし、バンブルビーアイは正面を向いている。
これはさすがに怖い。
アンドレは恐怖のあまり、汗をにじませ、一歩も動けないでいた。
すると見かねた有一郎がアンドレの手から黄金のナイフを奪い、空間弾烈を発動させた。
有一郎はあっという間にバンブルビーアイに迫り、ナイフを突き刺した。
うぉぉぉぉぉ。
バンブルビーアイは叫びながら、プシュ~という音をたててしぼんで行った。
同時に猿男も消え去り、あとには、マシンガン一丁が虚しく残されていた。
あやかが「終わったわね」と言った。
有一郎は呆然と立ちすくむアンドレの肩を叩いて言った。
「終わりましたよ。これで、もうあなたの命を狙う者はいなくなった」
魔王デザミングは激怒していた。
「暗黒の大宇宙を記憶も遡れないほどの膨大な歳月を費やして、ようやく、小悪党たちが群れる生ぬるい星を見つけ、これで永遠に安泰だと思っていたら……わしの作った使徒たちが全滅だとぉぉぉ! ゆ、許せん絶対に! 目玉くりぬいて、手足をひんちぎり、細切れにして海の藻屑にしてやる」
デザミングは、顔面に張りついた六つの目を光らせ、頭髪として生やしている百匹の細い蛇をかきむしって怒り狂っていた。
まず、始末すべきはあやかとか呼ばれている異能者の女だな、次は有一郎と呼ばれている青二才だ。
そして、花房という名の男と使徒の裏切り者アンドレだな。
この星の妖怪たちも一人残らずぶっころしてやる。
デザミングは自身の能力に絶対の自信を持っていた。
この星の各地を巡って幾人もの魔王たちと戦ってきたが、時を飛ばすという、暗黒宇宙空間の無限の闇の中で鍛え、芽生えさせたマグナカルタと銘打った自慢のタイムスキップ能力の餌食にならなかった者は存在しなかった。
デザミングは牛鬼婆の村に降り立った。
牛鬼婆村の人々は、稀にみる異形のデザミングの到来に大騒ぎになった。
いかなる妖怪たちをかき集めてミキシングしたとしても、ここまでの怪物は作りだせないだろう。
(なんじゃこりゃぁ)とよせばいいのに、ろくろ首がデザミングにちょっかいを出した。
自慢のろくろ首をデザミングの首に巻きつけて顔をなめてやろうとしたところ、デザミングの姿が消えた。
(はっ?)と思った次の瞬間、ろくろ首の首が絡まり、固く結ばれていた。
(ぐぁ、く、苦しい。誰かあたいの首をほどいておくれ)と言いたいが声がでない。
そこに達磨小僧がやってきて、ろくろ首の結び目に体を入れて結び目を緩めようとしたが、なぜか、達磨小僧はろくろ首の首に噛みついていた。
(痛たたたた)とろくろ首は悲鳴をあげたが声になっていない。
妖怪たちはこの異様な光景にドン引きしていた。
牛鬼婆村の異常現象はすぐにあやかと有一郎の知るところとなった。
「遂に、魔王がやってきたわね」
「髪の毛が蛇だなんて、まるでメデューサーだ」
「見たものを石に変える?」
「理論的にそれはないでしょうけど、奴は時間を飛ばすことができる。ろくろ首が奴に巻きついたが、すぐに奴は消えていた。つまり、時間がぶっ飛んだということだ」
「すぐにアンドレさんと一緒に牛鬼婆村に行かなくては」
「そうね、私たちが戦わないと妖怪さんたちでは荷が重すぎるわ」
三人は牛鬼婆村に急行した。
そこでは、魔王デザミングが悠々と姿を見せていた。
周りの妖怪たちはビビッて遠巻きにデザミングを取り囲んで見ているだけだった。
三人の到着はすでに、六眼の目を持つデザミングに知られていた。
そして、アンドレを見つけて言った。
「一度、裏切った奴は何度でも裏切りやがる。いいか、裏切り者は逃げ場がない。永遠に楽園に辿り着くことはない」
そういうと、デザミングは目から光線を放った。
「ぐわぁ」アンドレは胸を射抜かれていた。
「アンドレさん!」
有一郎が駆け寄ったが、虫の息の状態となったアンドレは言った。
「もう終わりだ。助からない。だから、もうアンドレさんと呼ばないでくれ。こんなけったいな毛唐の名前は、もううんざりだ。わてはな、上方の商人、銭屋幸兵衛として死んでゆきたい」
「銭屋幸兵衛さん!」
そういうと、アンドレは満足そうな笑みを浮かべて目を閉じた。




