バンブルビーアイ、アンドレを操る
あやかと有一郎、アンドレの三人が別荘に直行する。
六眼シンシャのバンブルビーアイは三人をすぐに察知した。
(意外と早くきたな、ま、いずれ決着をつけねばならない相手だ。それにしても、たったの三人でオレにむかってくるとは、バカなのか。しかも、アンドレまで一緒とは、オレの手間を省かせてくれるというわけか?)
別荘の裏では、小柄な男がマシンガンを連射していた。
ズダダダダンズダダダダンという音が聞こえてくる。
「あの音は?」
「マシンガンみたいに聞こえるわ」
音が聞こえるあたりを透視してみるとオラオラ系のジャージを着た若者がマシンガンをぶっ放していた。
「若いヤンキーみたいなのがマシンガンを撃っているわ」
「マシンガン? それって、人間ってこと?」
アンドレが言った。
「バンブルビーアイが作った使徒見習いかもしれやせんぜ。幹部だけに与えられた特権で、使徒もどきみたいなのが作れるんでっさ」
「弱点である後方をカバーしょうという目論見かしら? あら、この男、尻尾が生えているわよ。しかも、それ用にジャージのパンツにも穴が開いているわ」
「え? どーゆーこと? それって、人間じゃなくて、猿? なの? まさか、猿を使徒もどきに仕立てあげたんじゃないでしょうね」
「あり得ると思いまっせ。猿なら、人間より察知能力も高く、素早いでっしゃろ。何も考えずに反射的に行動できますからねー」
有一郎が、何気なく上を見上げると式神が飛んでいた。
「あれは式神三人組じゃないですか?」
「バカね、ここには来ちゃいけないのに。思念を操られて簡単に殺されてしまうわよ」
バンブルビーアイの恐ろしさも知らずに、式神三人組はマシンガンをぶっ放している猿顔の男をめずらしそうに見ていた。
「マシンガンを撃つところを初めてみた」とかごめは不思議そうにつぶやいていた。
(何をしているのかしら。ロボット犬の機銃さえ何の役にも立たなかったのだから、もし妖怪を相手に考えていたのなら、骨折り損のくたびれ儲けよ)
毛女郎が言った。
「おもしろそうだから、あのマシンガンを奪ってやろうかしら」
毛女郎が深い考えもなくマシンガンに自慢の長い毛を伸ばしたとき、急にかごめの中から引きずり出され、自分の髪で自分の首を絞めていた。
「ぐぐぐぐ、苦しい! ど、どうなっているの、た、助けて!」
しかし、毛女郎はそのまま落命して、カスミとなって消え去た。
そして、スーツ姿のバンブルビーアイが別荘からでてきて、猿男に「もういい、うるさいからマシンガンを撃つな」と命じた。
これでは、せっかくの作戦も見抜かれてしまうではないか、ま、作戦がバレても何の心配もいらないがな。
バンブルビーアイがでてくると猿男がその背にぴったりと自分の背中を合わせていた。
有一郎が思わず笑いだした。
「なんて構図だ。猿なんかを使徒もどきにするから、こういうことになる」
「猿は何も考えずに忠実に命令に従うからね、バンブルビーアイって、意外とバカなのかもしれないわね」
アンドレが言った。
「魔物は感覚だけで行動するから、こういうイージーミスを犯してしまいがちになるでやんす。だいたい、オレも含めてだけど、使徒に知恵の回る奴は少ない。どこか抜けている。クズばっかり集めているからね」
あやかが霊魂糸縛を放った
。蜘蛛のような霊糸で二人をしばりつけようという考えだ。
本来ならば、あやかの動きを察知したバンブルビーアイが瞬間移動のような早さで逃げるのだけど、それをやると猿男が置いてけぼりになるのでできない。
つまり、バンブルビーアイは、勝手に自縄自縛の罠にハマってしまったわけだ。
しかし、これはバンブルビーアイが仕掛けた罠だった
。身動きできないとみせかけて油断させる罠だった。
本当の刺客はアンドレだった。
アンドレは既に意識を操作されており、黄金のナイフを手にしていた。
あやかと有一郎を刺すために。
勝負の決着がつくのは、もはや時間の問題だった。
そこに、アツユが姿を見せた。
(アツユ、なぜここに)アツユを見た有一郎は驚いたが、式神三人組の後ろには常にアツユの式神が張りついていることを思い出した。
(それでアツユがここに来たのか)
アツユはゆっくりと姿をみせた
。バンブルビーアイはアツユの異形をみて驚いたが、さらに驚いたのはアツユが赤い渦巻き型の隻眼を持っていたことである。
(こ、この渦巻のような赤い隻眼にオレの六眼シンシャが通用するのだろうか)とバンブルビーアイは懸念していた。
しかし、その心配は無用だった。
なぜなら、バンブルビーアイは漆黒の魔霊であるヤタロウが放った黒いモヤに全身を包まれてしまったからである。
その瞬間、何も見えなくなり、六眼シンシャの効力が遮断されてしまった。
ヤタロウの闇はあやかの透視能力を防いだように強力である。
六眼シンシャは能力を失い、その結果、アンドレにかけられた魔法も解け、アンドレの意識が戻った。
アンドレは黄金のナイフを手にして有一郎の背後に迫っていたことに愕然とした。
(わては、知らない内にバンブルビーアイに操られて、有一郎君を刺そうとしていたのか)
あやかと有一郎も、同時に、アンドレの不審な動きに気づき青ざめていた。