有一郎は番長になり、超絶美少女が入学してくるやいなや呪術師にタイマンを迫られる
あやかちゃんが、時々、体の中に入ってくれるようになってから、喧嘩も強くなった。
空間弾烈、邪眼念通、時間溶解などの妖術が使えるようになったこともあるが、テストステロン値が高くなり、腕力も脚力も自然とアップしたことも要因である。
ある日、三人の中学生たちにカツアゲされた。
弱そうに見える昆虫オタクなので、昔から絡まれることは少なくなかった。
だが、今は違う。
「ちょっと、お金貸してくれないかな」と薄ら笑いを浮かべて近づいてきた男の下腹部を思い切り蹴り上げた。
驚いている様子のもう一人の男に空間弾烈の妖術で空間を削って瞬時に近づき、腰を回して体重を乗せたフックを思い切り叩きこんでいた。
一人は股間を押さえて悶絶しており、もう一人は大の字になって気絶している。
それを見た三人目の男は慌てて逃げて行った。
その乱闘をある男が見ていた。
男性が有一郎に近づいてきて言った。
「いや凄いね、あの距離を詰めたスピード、忍法の地走りそのものだね」
(地走り? 初めて聞く単語だな)と思って、改めて男性を見るとカマキリのような顔をした瘦身の男だった。
「私は」と男は言った。
「榊原奏一郎という剣道、榊原真流の道場主です。君を百年に一人出るか出ないかというほどの逸材とみた。私の道場の練習生になりませんか?」
「いや」と有一郎は言った。
「木刀は長すぎて実践に使えないでしょう」
奏一郎はにこっと笑って言った。
「確かに、木刀は一メートル近くありますから、普段使い用には持ち運べないが、私の流派は小太刀です。長さは約50センチなので、それほどかさばりません」
「カバンやリュックなどに詰め込めば、簡単に持ち運びできます」
「私は週に一度、警察で特殊警棒の指導も行っています。特殊警棒なら縮めればわずか17センチなので、何処にでも携帯してゆけますよ」
奏一郎は(こいつは喧嘩のことしか考えていないな)と思わずニヤリとした。
願ってもない人材ではないか。
剣道以外に忍法も仕込めるかもしれない。
有一郎は一年生のとき、城北中学校の番長になった。
なったといっても、なりたくてなったのではない。
ただ、喧嘩自慢を5人ほどをぶっ飛ばしたにすぎない。
その後、勝手に番長に祭り上げられたわけだ。
(そんなの知らねぇよ。勝手に騒いでいろ)というのが有一郎の本音である。
だから、子分を引き連れてブイブイ言わせるなどというのは論外だ。
何が悲しくて株式投資でボロ儲けしている僕が、こんなちんけな中学校で面倒くさい役割を演じなければならないのか。
中学二年生になったとき、城北中学校にとびっきりの美女が新入生として入学してきた。
すらりとしたスタイルに一点の曇りなき抜群の美貌。
全校男子生徒どころか、周辺の中学校でも大騒ぎになり、毎日告白する男たちが列をなしていた。
彼女の名前は神紹寺あやか。
有一郎は既に知っている人なので、あまり関心はない。
しかし、あやかの入学を見越したかのように、城西中学に一人の転校生がやってきた。
名前は真月徳馬、彼はまたたく間に城西中学を制圧し、城北中学校にやってきた。
「ここの番長は誰だ、オレは城西の真月だ。ここの番長を出しやがれ」と城北の生徒たちをつるし上げていた。
何人かが、「城西のガキが」と殴りかかって行ったが苦も無く叩きのめされた。
真月は言った。
「オレは空手三段、柔道二段だ。ただの生徒などゴミクズだ。番長を読んで来い。韮咲有一郎とかいう野郎をな」
たちまち城北中学校は大騒ぎとなり、有一郎へのご注進があいついだ。
(空手三段、柔道二段? ふん、ままごと君がいい気になって)
有一郎が出向いてみると目つきの険しい、いかにも喧嘩上等という男が校門の前にいた。
「僕が番長の韮咲だけど、僕と喧嘩をしたいというわけですか」
「僕だって? 本当にお前が番長なのか」
「タイマンがご希望なら、受けますよ。近くに森がありますから、そこでどうですか」
「どこでもいいぜ」
「じゃあ、行きましょうか」
二人は森の中の開けた空き地で戦うことになった。
しかし、有一郎には気になることが一つあった。
それは、城西の番長を自負しているこの男が普通でないオーラを発していたことだ。
(なんだ、この妖気は? でも、ま、いいか)
そのとき、心の中がホッと暖かくなった。
あやかが入って来たのか?
なぜ、このときに?
あやかが言った。
「こいつは敵よ。呪術師よ。術を使ってくるわ。ようやく敵が姿を見せたわね」
(呪術? 敵? 呪術ってなんだ? 敵ってなんだ?)