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ドメスティ教会の怖い絵

とりあえず、二人は評判の「怖い絵」というものを見に行こうという話になった。


「その絵はドメスティ教会に収められているらしいわ」


「ドメスティ? 聞いたことがない宗派ですね」


「ソポタミアで発生した最も古い宗教の名称と言われているわ」


「メソポタミアの歴史といえば最も古い時代で約一万年前ぐらいですよね。日本でいえば縄文時代は一万二千年前。その頃には土偶が作られていた。八百万(やおろず)の神、つまり今の日本の妖怪の原型がそこにあるかもしれない」


ドメスティ教会はかなり混雑していた。

誰もが怖いもの見たさに寄ってきているのだ。


噂の絵は確かに不気味だった。

しかも発色の悪い油絵だ。


そして、女性の顔が描かれている。

崩れかけたかのような顔をしている。


「なんとなく気持ちの悪い絵ね」

「確かに」


「なにか声が聞こえてこない?」

「ん? に? にげ?」


「逃げてよ。逃げて逃げて逃げてと言ってるわ」

「どうゆう意味?」


「絶対に逃げきれないと知って、逃げてと言っているのかもしれないわ。西部劇でよくあるでしょう。逃がしてやると言って、かなり距離が離れ安心しているところを遠距離ライフルで射殺するという場面。あれと同じよ」


「かなりの根性悪ですね」


「だって、地獄に落ちたから妖怪になったろくでなしだから、そんなものよ」と二人で会話していると、(絵の目が動いたような……)


すると、キャーという女性の声が響いた。

細く、幼さが残る青い声だった。


発信者はJCらしき三人組だった。


だいたい、女性は恐怖が好きなのに、恐怖に敏感すぎる。


さらに言えば、「どうしよ、どうしよ、どうしよ」とテンパりすぎるのも女性の特徴だ。


(この女性たちも全員が目が動いたことを見たわけではないだろう)と有一郎は考えていた。


女性は男性に比べて共感度が桁違いに高い。

小さな緑色のこびとがそうだ。


誰でも、明るいところから暗いところを見ると緑色に見える。これは、桿体細胞(かんたいさいぼう)の働きだ。


それが緑色のこびとを見たという都市伝説の根拠になった。

緑色が絡む妖怪の多くは錯視である。


しかし、今度の変化は違っていた。

明らかに唇が変だ。


笑っているのか、唇が歪んでいる。


ここまでくると、教会のあちらこちらからキャーという悲鳴が漏れ出した。


そのうち、先の三人組の一人が青白い顔をしてしゃがみこんだ。


(貧血なのかな)と有一郎は思ったが、あやかが「しゃがんだ子の前頭葉が食われているわ」と言った。


有一郎が慌てて邪眼念通を発動してみると、女性の前頭葉の一部が欠落しているような……。


(えっ? なに?)と思っていると、あやかが言った。

「これは食われた痕跡よ」


「食われた? ソウルイーターってこと?」


「その可能性が高いわね。そして、逃げて逃げて逃げてという連呼。これは間違いなく、妖怪の仕業ね。妖怪魂喰魔女(こんくいまじょ)かもしれないわ」


有一郎は、なぜかホッとした。

(悪霊ではなく妖怪だったのか)


妖怪だったら捕まえて花房さんに引き渡し、牛鬼婆村に軟禁しなければならない。


その前に、と有一郎は思った。

(どんな妖怪なのか姿を見てみたい)


しかし、あやかが透視しても見えない。


「おかしいわ、なぜだか分からないけどはっきりと透視できないのよ。位置関係は分かるけどぼやけて見えづらいのよ。こんなこと初めてだわ」


新手(あらて)の妖怪が現れたのかしら)という疑問を抱いたあやかは、かねてから考えていたことを言った。


「わたし、骸骨さんたちと戦って思ったのだけど、全ての幻術にちょっとだけエネルギーを加えてみようかなと。そうでないと効率が悪すぎるわ」


「そうですね、それ賛成。脳も肉も持たない妖怪が出現すれば、打撃戦や肉弾戦だけではこなしきれないですからね」


しかし、透視が効かないということは、どういうからくりになっているのだろうか。


有一郎はあやかと一緒に、位置関係で示された場所に向かった。


超絶美人と並んで歩いていると、やけに視線が刺さる……ような気がするが、これは思い過ごしではないだろう、と考えると異常にイケメンとか美女とかに生まれつくのは、ちやほやされたいという軽薄分子意外ではデメリットになるのじゃないかなと思いつつ歩いていると目的地についた。


そこは神社だった。

名前も知れない古びた神社。


妖怪は意外と寺社仏閣や教会が好きだ。

霊的因子が多いからだろうか。


それとも、ひとけが少ないからだろうか。

しかし、戦うにはもってこいの場所だ。


「いるわよ、何かが、はっきり見えないから、多分、ターゲットの妖怪ね」


有一郎は邪眼通念を全開にして、ひとけが全くない神社に乗り込んだ。


見ると小柄で可愛い中学生のような女の子が、薄暗い(やしろ)の中に独り、ポツンと座っていた。


(へ?)と有一郎は肩透かしを喰らったような気持ちになった。


勝手に、妖艶美魔女のような毒々しい魔女を想像していたからだ。


「君は中学生?」

「そうよ、花咲かごめというの」


「かごめ? かわいい名前だね。ここに一人で住んでいるの?」

「そうよ、ここの敷地もこの社もわたしの所有物よ」


「ところで、あなたはかごめの歌を知っている?」


「知っているよ。かごめかごめ 籠の中の鳥は いついつ出やる 夜明けの晩に 鶴と亀と滑った 後ろの正面だあれ? というやつでしょう」


「籠の中の鳥は いついつ出やるという歌詞はあの絵のことを言っているのよ。わかる?」


(は? ということは、籠の中は鳥は、額の中の鳥? つまり、あの絵はかごめの肖像画? 似ても似つかないけど)



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