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第2章 関塚アキト【潜入開始】

 ドク者・夏川弥生に先回り物語の世界へ入った時には、すでに五名は装甲着の着用を完了していた。


 ネットランチャーも各々の手元にあった。物語の世界では自分の顔や声を自由にカスタマイズできる。


 ゲドックスの隊員はほとんどの場合、現実世界と同じ姿の〝原型タイプ〟でいくのだが、変装タイプを採用してダイブする者もいる。


 特にバウンティダイバー(ある機関や人物から依頼を受けてドクモノを倒して賞金を稼ぐ者)や創造主(物語の著者本人)、あるいはトリックスター(〝魔女〟のようにゲドックスの活動の邪魔をする者)の多くは変装アバターでダイブすることが多い。


 レミナはもちろん今夜もお気に入りの長い金髪アバターに着せ替えていた。


 さらに金髪アバターのツインズまでやってくると、三名を見ながらやれやれといわんばかりのモリアーノに、


「なによ。かわいいって素直にいえばいいのに」


「そうよ。いいなさいよ。正直に」とツインズもレミナに続いた。


 するとモリアーノの「ちっ」という舌打ちに、レミナとツインズが三人で「ちっ」と返した。


「サクラ、聞こえるか?」と班長。


「ええ、こちら第三十九班オペレート・サイド。聞こえるわ」


「これより行動開始する。モリアーノ、現在位置は?」


「現在ポイント〈Iラインは六十二度、Kラインは四十九度〉を確認。無事に第三章の中盤に入っています。しかし物語の目的地ヘルム森から百メートル離れているようです」


「了解。総員、これより前進するぞ」


 三人は100メートル先の物語の現場、いわゆるストーリー・ポイントへと向かっていく。辺りには分厚い層の霧が立ちこめるが、ゆっくり進むしかない。


 恐怖心も増していく。雑草が生い茂り、足元の視界もよくない。何もかもが不安定な最中にあった。


「班長、到着しました。この付近が現場です」


「ドク者はどこだ?」


「予測データによると、どうやら先ほどさまよっているみたいです」とモリアーノ。


 五名は何とか雑草のない土面の陸地へとたどり着いていたが、依然として霧に囲まれている。地面は所々ぬかるみもあり、足元は不安定であった。


「まだドク者は見つからないかしら? 座標の乱れは特にないけど。だったらドク者は自分で帰還した可能性がある。となると痕跡座標だったのかしら」とサクラが分析する。


「そんなまさか」と比賀の言葉にモリアーノは、


「だったら今日は久々の〈空振り〉ですかね。本部の読みが外れちまった。どうあれ今夜のドク死は免れたと思えば何よりです。班長、俺たちがドクモノにやられる前に早く帰りましょう。今日はロビン爺もいないし」


「そうだな」


するとそのときサクラから、


「ちょっと待って。データ更新。えっ? 座標が重なっている。まさか。この更新情報だとドク者とドクモノがすでに一緒に……」


「何だと?」


「班長、嫌な予感がします」とツインズ。


 すると五名の元へ大きな体躯を予感させる足音が近寄ってきた。レミナが、


「班長! 二時の方向にドク者発見!」


 よく見るとドク者らしき女性の姿が大鉈男のグリモに捕らえられていた。


「しまった!」と一同が声をそろえた。


「班長、すぐにネット打ち込みましょう!」モリアーノが提案するが、


「ダメだ! ドク者に危害が及んでしまう。モリアーノ、何か別の方法は思いつけないのか? 四ヶ月も作戦研修をやってきたんだろ。こういう時こそレミナをぎゃふんと言わせろ!」


「そうよ。私をぎゃふんと言わせてみなさいよ!」


「私たちにも言わせなさい、モリアーノ」とツインズまで言い放った。


「皆でそんなこと言われたって……参ったな」


するとレミナがドク者を落ち着かせるような声で、


「夏川さん、大丈夫? 私たちが助けるから」


「あなた方は誰です?」


「あなたを救出に来たのよ」


「でもこのグリモは後から主人公のロベルトと一緒に旅する仲よ。何か変なことになっている。これはグリモじゃないわ」と捕まりながらも夏川は答えた。


「後から説明するわ。今はあなたを助けないといけない。そのために私たちはここへ来たの。大丈夫。私たちはグリモを傷つけたりしない」


 するとそのとき、ダイバー五人と、ドク者、ドクモノ以外に霧をかき分けてもう一つの姿が見えた——大きなサーベルを背中に背負い、最小限にまとめた荷物を背負った背丈の高い鍛えられた身体の男だった。


「主人公のロベルトが登場」とモリアーノが補足した。


「おい、グリモ! その女の子を離してくれ!」


 主人公のロベルトは勇ましい声で言い放った。大鉈男は頑なな態度を見せると、さらにロベルト続けて、

「勇敢な大鉈男のグリモよ、君のヘルム森は守られる。安心してくれ。もともと誰も存在しないし誰も何もしない。私は旅の者だ。名はロベルト・バルドスだ。この森にあるこの森のモンキーチェアと呼ばれるキノコを取りに来た。旅の食料にしたい。それさえ取ったら帰る。その女の子を離してくれ。俺は武器を置く」


 ロベルトは自分で言ったとおりに背中に背負ったサーベルや腰に差したナイフなどあらゆる武器を置いた。


 さらにロベルトはゲドックスの五名の存在に気づくと、


「あなた方は?」


「捕まっているあの子を救出しに別の世界から来ました」とレミナは礼儀正しくに説明した。


「そうか。では、そなたたちもその武器らしものを地面に置いてくれるか?」


 ロベルトに言われるがまま、各自がゆっくりとネットランチャーを地面に置き、何も握られていない証として掌をグリモに見せつけ、無抵抗であることを示した。


「これでどうだ。我々は君に危害を加えることはない。さあ、彼女を離してやってくれ」

 

 グリモは安心したように大きく頷いた。すると、それまで男に捉えられていたドク者の彼女は無事に地上に解放され、彼女はロベルトのもとへと駆け寄ってきた。


「ロベルトさん、どうもありがとうございます」とレミナ。


「とんでもない。ご無事で何よりだ」


 大好きな物語のキャラクターであるロベルト・バルドスを前にドク者は顔を紅潮させる。


 そしてレミナが、


「ロベルトさん、ここはあなたの物語よ。あとはよろしく。私たちは彼女を連れて元の世界へ帰ります」


「わかった。君たちの存在は理解できないが、とにかくここは危険だ。気をつけて行ってくれ。さあ今のうちに。彼は私が何とかする」


「わかりました。ありがとう」


「あの……」とロベルトに声をかけたのはドク者の夏川弥生だった。


「ロベルトさん、握手してください」


 「君も彼らの仲間かい?」


 その問いかけに対して、彼女の代わりにレミナが、


「この子はこの物語に憧れてここにきました。きっとロベルトさんに会いたくて」


「はい、そうです」とときめくドク者だった。


「そうか。それは嬉しいよ、ありがとう」というとドク者の要望通りに彼は笑顔を添えて握手を交わした。


 彼女は嬉しそうだったし、そばで見ていたレミナも微笑んだ。

執筆歴は長いですがまだまだラノベは未熟者ですので、みなさまのコメントや何でもご指摘をいただけますと助かります。

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物語の感想やリクエスト、誤字報告もしていただけるのも大歓迎です。

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