第1章 潜入開始:その3
やがて帰還が完了した。
ダイブ装置DMSのチェアから目を覚まし、身体を起こしたメンバーは呼吸を整えた。
彼らを出迎えたのはオペレート担当をしていたサクラだった。
「みんな、お帰りなさい。男性陣はコーヒーでいいわね。レミナはオレンジジュースね」
「ありがとう、サクラさん」
「わしゃコーヒーはいい。はよう帰って酒でも飲むわ」とロビン。
各自が帰還後の対応に忙しく動いている。
「サクラ、今回のドク者の詳細情報を出してくれるか」と班長の指示に、
「それがね……」と困惑気味な渋い表情をして見せるサクラ。
「どうしたんだ?」
「身元検出がブロックされた特殊なドク者だったの」
サクラはコーヒーを淹れる準備をしながら答えた。
普段だとリュオの媒介位置情報を使って、ドク者の名前や住所といった個人情報が明らかになるはずだが、今回のドク者に関しては不明だった。
だがレミナは彼のことを知っていた。
きっと彼はあの子のはず——それでもまだ確信は持てなかったので班長とサクラのやりとりを黙って聞いた。
「サクラ、詳しく教えてくれないか?」と班長。
「〈ダイブ・コード〉が暗号化されているみたいなの」
「なぜ一般のドク者のダイブに暗号化が施されている?」
「まだ原因はわからないわ。彼のさまよいを外部の人間が隠している可能性もあるし、ドク者本人が何らかの目的でやっている可能性あるわ」
するとレミナは、
「本人いわくデータは借りたって言っていたから、貸し主による暗号化措置の可能性も否定できない。だけど本当にそうなら一体どんな目的があるのかな?」
「いずれにしろこの状態では回収検査局も動けない。また上から厄介なこと言われそうだ。参ったな」と班長のあとにモリアーノは、
「あのドク者の彼自身がバウンティダイバーの可能性もある。しかしあの慌て方だと考えにくい。演技でもあるまいし。たとえダイバーだとしてもドク者として潜った目的も見えてこない。まさか各自が見えていた彼のアバターは微妙に違っていたのでは」
「ワシには長髪で色白の若造に見えたが、モリアーノは?」
「僕にはまるで俳優に見えた。認めたくないけど……俺よりイケメンで。班長は?」
「俺にはメガネをかけた読書青年にしか見えなかった。レミナはどうだった?」
「私にはいつもの彼のまま。あの子はうちの学校の生徒で間違いない。名前も知っている。読書好きな男子。きっと私だけに正体の見せていたのかも」というレミナはさらに、
「班長、私が直接聞くわけにはいきませんか?」
「回収検査局が許可しないだろう」
「じゃあどうやってノベルデータの回収を?」とレミナの問いに班長は参ったように、
「もはや我々の任務範囲を超えた話だ。手の打ちようがない。本部と回収検査局に事情を伝える。同じ高校ならレミナへの直接対処の指示が出る可能性もあるが、余計な行動は取るな」
さらに班長はこう続ける。
「明日以降、対象者の行動をチェックしてくれ。お前の担当校でドク死ノベルの流通率が上昇している可能性もある。パトロールも気を引き締めてやってくれ」
さらに班長は続けてレミナに、
「あのドク者の名前はわかるか?」
「関塚アキトです——」
班長比賀はかすかに目を見開いたが「そうか」とだけ答えた。そんな様子をサクラとロビンが静かに見届けていた。
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