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第1章 潜入開始:その1

 目の前には物語の世界が延々と広がっている——。


 お好みの長い金髪姿のアバターに変身した彼女は通信機で連絡を取ると、


「班長、こちらレミナとツインズ、西北第三方向入り口を進行中」


「了解した。三人とも油断するな」


 通信応答した班長・比賀のそばで部下のモリアーノが、


「まったく。このドク者と言ったらとんでもなく深い世界に誘い込まれちまった。皮肉なほどに〈リュオ〉との相性を見事に確立させてしまって」


 すると二人の背後から老いた声で、


「さっさと終えよう。早く帰って酒でも飲みたい」


 39班の最年長であるロビンが二人に言った。


 彼の腕には全国に数人のみの〈一級〉のスナイパーとしてのライセンス・バッジが光る。

 さらにその隣には六十歳以上の再雇用された部隊員であることを示す〈シルバーバッジ〉が本人にとっては鬱陶しく付けられている。


「班長、レミナに厳しく言ってください。いくらなんでも班長やロビン爺にサクラさんに本部本庁と他班の連中もみんなそろってレミナに甘いですよ」


 モリアーノは不満を漏らすものの、班長もロビンも任務に集中する。


「潜入対象の物語は小谷野リンク作の『戦国魔術旋回作戦』にはそろそろ〝三面獣〟が登場するぞ」


「そういえば『戦国魔術…』って第一級のドク死ベル指定で全シリーズ廃棄決定したじゃありませんか? だったら今回は回収忘れですよね? 回収検査局はあれだけ血眼になって回収していたのに。今回の件は何者かがどこかで残骸データを散布したという可能性も考えられませんか?」


「確かに。隠蔽所持の当人が興味を持ってしまい、〈さまよい〉を食らった可能性もある。その場合はもっと厳しいお沙汰が下るだろう」


「これだと読禁ペナルティは三ヶ月ってところですかね?」


「いや、半年は堅いぞ」とロビンがひげをさすりながら言った。

 

 さらにモリアーノは、


「当人が読書好きなら尚更辛いです。早いところ新しい趣味でも見つけておかないと読書家には身が持ちません。俺の知り合いには〈故意さまよい〉で読禁二ヶ月食らって頭がおかしくなったヤツもいます。そいつは結局病院送りでしたが。筋金入りの読書好きだったけど物語の世界にダイブしすぎて……」


すると班長は通信機でレミナに連絡を取った。


「レミナ、ツインズ、今どこにいる?」


「まだドク者もドクモノも発見できないけど、気配は感じます」


「気をつけろ。慎重に進んでいけ」という班長の横でロビンが、


「心配ない。今夜もあの子が見つけ出す。あの親父の血が流れていることが何よりの証拠じゃ」


 するとモリアーノが、


「班長、どうしますか? ドク者の捜索が難航すれば応援班も必要になるかと。待機班は現在七つあるみたいですが」


「大丈夫だ。こっちにはレミナがいる。俺たちは俺たちのペースで進駐していくしかない。他班に余計な借りは作りたくないからな」


すると三人より先へ進んでいたレミナから、


「緊急連絡、緊急連絡、ドク者、ドク者発見!」


「了解」とレミナに伝えた直後に班長は、


「オペレーターサクラ、聞こえるか? 今すぐデータを送ってくれ。レミナ、ドクモノは見つかったか?」


「ドクモノまでは未確認です。ドク者に帰還措置を施して早めに返した方がいいわ」


 するとモリアーノが、

「B部隊、お前たちアネス(麻酔薬)は持ってないだろ。余計な真似するな。これでお前が読死しても知らないぞ」


「縁起でもないこと言わないで。こういうケースに備えて、今日はサクラさんに用意してもらっているから大丈夫よ」


「ドク者を保護したらすぐ連絡しろ。帰還タイミングを見計らう。ひとまず我々もそっちへ向かう。総員集中してかかるように」


「了解!」と全員の声がそろった。


 班長との通信を終えたレミナとツインズはすぐにドク者の元へと駆け寄った。


 膝を抱えて身を伏せたままのドク者に声をかける。ぼんやり浮かんだ体躯の輪郭を見る限り、男性であることにレミナは気づく。


「大丈夫ですか?」


「はい……」


 ドク者の男性はレミナの存在に気づいた。ドク者の詳細データは明らかになっていない。だがレミナには見覚えのある若者の顔だった。


「君ってもしかして……」


「ど、どちら様ですか?」


 彼にはレミナのことを認識できていない。〈さまよい〉にかかった人物は持っている知識や記憶の全てをこの世界に持って来ることはできない。

 もちろんそうした症状を知っているレミナは冷静な対応をとる。


「私たちはあなたを助けに来たのよ。私たちは物語の世界の人間ではない」


「ここは一体どこ?」


「そこから忘れているのね。ひどく混乱しているわ。ここは特殊な場所。この話は危険な物語、つまりドク死ノベルのバーチャル・ワールド。あなたは危険指定を受けている危険なノベルをバーチャルタイプで読んだ。自分の意志でここへ入り込んでしまったの」


「そんな……」


「この物語にはあなたの命を奪いかねない危険なキャラクター、いわゆる〈ドクモノ〉が出現してドク者のあなたを襲いにくる。ヤツらに襲われたら、あなたは精神麻痺を起こして最悪の場合、死に至るの。どこかを傷つけられても脳はそこに傷があると思い込んじゃって向こうの世界で痛みが残る。これは私たち救う側にもあり得ること。注意して。とにかくドク者のあなたを脱出させるために救出に来たの」


「まだよくわからないんだけど……」


「ゆっくり説明している暇はない。とにかくここから脱出するわよ」


 するとツインズが、


「レミナ」とインティ。

「迫ってきますよ」とショーン。


 彼らの前からまるで闇の中から生まれてくるかのように一人の人物が現れた。


「また魔女かよ」


 現れたのは〝ウィッチ・ガール〟だった。魔女といえども長い金髪にローリングストーンズの舌出しロゴのついた白いシャツに革のジャケットとロングパンツ姿の若い女だった。


 魔女と言うよりバイクではなくほうきに乗った女ライダーの姿である。


 ちなみに彼女はこの物語の登場人物ではなく、毎度さまざまな物語を渡り歩き、彼らゲドックスたちの救出活動を阻害し、あるいはドク者たちを翻弄する、いわば厄介者である。

 

「おやおや、これは優秀なゲドックスさんじゃないか? 双子のロボットもご一緒に」


「ロボットではないわ」とインティ。

「せめてAIって呼びなさい」とショーン。


「魔女もどき、あんたの登場にはリュオも厄介に思っているに違いないわ」とレミナの言葉に魔女は、


「リュオをわかったつもりで偉そうに。出てくるなと言われても私の居場所は物語の世界だから致し方ない。ゲドックスこそ物語の世界を乱す厄介な連中よ」


「いい加減なこと言わないで。私は彼を連れて帰る。邪魔しないで」


「邪魔しないで」とさらにツインズが声をそろえて続いた。


「待ちな。ドク者を捕まえたらこのアタイに背中を見せて帰ろうとでも思っているのか? そんなのは許さない。お楽しみはこれからよ」


するとそのとき、大きな足音に地面が揺れた——。


ノクターンでは別のペンネームで作品を書いておりましたが全年齢向けのラノベは初投稿となります。

まだまだラノベは未熟者だと思っておりますので、みなさまのコメントや些細なことでもご指摘をいただけますと助かります。

「いいね」やブックマーク、広告下の「☆☆☆☆☆」から評価して応援いただけますと非常にありがたいです。

物語の感想やリクエスト、誤字報告もしていただけるのも大歓迎です。

今後の創作のモチベにもつながります。どうかよろしくお願いいたします。

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