プロローグ:「ゲドックスとは……」
西暦20××年——。
読書は〈バーチャル・リーディング〉——つまり誰もが新感覚で物語に没頭できる時代へと突入した。
新時代の中軸を担うのは〈高次元夢遊媒介システム〉であり、その名は現在では通称〝リュオ〟と呼ばれ、DMSというヘッドセット型潜入装置で物語の世界を立体的・没入型で楽しむことができる。
ただし、バーチャル・リーディングは全ての読者たちに興奮と感動のみを与えるだけではなかった——。
実際に物語の設定によって読者を〝ドク者〟として死に至らしめる恐れのある危険な小説はバーチャル・リーディングの蔓延する現代社会に多数流通した。
そうしたいわゆる〝読死ノベル〟を回収し、バーチャル・リーディングの世界へさまよってしまったドク者を救うことを任務とする〈読死ノベル掃討部隊〉——通称〝ゲドックス〟(名称の由来は『解毒』から)は全国に合計六十班編成(各都道府県に平均で一から二班程度が配置されるが、正確な数字は非公表)で存在している。
ゲドックスの本体となる〈読書安全対策機構〉は文部科学省直属の公式機関である。
ゲドックスは組織の中枢を担う最重要部門と位置づけられ、花形の部門とされている。(ゲドックスとは読書安全対策機構内の〈ドク死ノベル掃討部隊〉を指すのが一般的だが、機構全体を〝ゲドックス〟と指す場合もある)
一班あたりの所属部隊員は少ない班だと四名、多いと十名所属の班もある。隊員の年齢層は高校生から六十歳定年までと幅広い。小説、作家、エリア、場面、戦い方ごとに分けられたエキスパート集団〈特殊サイド部隊〉も設置されている。
所属三年目の田波レミナは担当地区の街の中心部に配置された第 39班の三番手。ライセンスは第五級特別掃討士(略して〝五特士〟)として活躍している。
彼女はこれまで数多くのドク死ノベルに登場する〈ドクモノ〉を制圧し、多数のドク者を救出してきた。三十九班が現在十八ヶ月連続で読死発生件数ゼロという記録を作り上げている立役者こそレミナである。
ゲドックスの機関誌にもこれまで三度も表紙を飾り、いまや読書安全対策機構内では地響きのごとく名をとどろかせている。
百戦錬磨の彼女の戦いぶりはいつからかゲドックス内で〝女神〟と呼ばれるようになった。ただし、本人はそうした呼ばれ方を嫌がる。
レミナの所属する第三十九班の活動拠点であるオフィスは一軒の小さな喫茶店の地下空間にある。表向きはあくまで美味しいコーヒー(自家焙煎の本格派)とケーキをそろえた喫茶店。
地下オフィスへ入るにはライセンスカード、または顔認証が必要となり、部外者は立ち入ることができない。
オフィスのさらに奥にはDMSのダイブルームがあり、そこからドク者が発生した場合は直ちに該当の物語へとダイブし、ドク者を読死から救出する任務を担っている。
三十九班の所属部隊員は四名、物語の世界のみで存在するAI隊員二名、さらに現実世界にてオペレーターを担当するサクラの合計七名。
サクラは喫茶店業務を兼ねており、店の地下にある三十九班のオフィスルームも行き来し、作戦行動時にはオペレーターとして三十九班のオフィスから本部と細かな連絡を取りながら実行担当の六名に指示を出し、情報分析と解析を行う役割を果たす。
ゲドックスに所属する隊員たちのダイブ以外での業務内容は、調査依頼を受けた管轄エリアの小中高校、あるいは大学、さらには全国各地の公設・私設図書館など、本が管理されている施設の巡回活動を行う。
特に田波レミナの場合は高校生の立場から〈諜報巡回〉も担うため、三ヶ月から半年単位で担当エリアの高校を回る。
おかげで彼女はすっかりベテラン転校生となった。すでに2年生の一学期の時点で四校を転校している。
ノクターンでは別名で作品を書いておりましたが全年齢向けのラノベは初投稿です。
以前に書いていたものを投稿いたしております。
まだまだラノベは未熟者ですのでみなさまのコメントやご指摘を頂けますと嬉しいです。
これからなるべく毎日投稿予定ですので、どうかよろしくお願いします。
物語の感想やリクエスト、誤字報告もしていただけるのも大歓迎です。
今後の創作のモチベにもつながります。どうかよろしくお願いいたします。