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「へ、陛下!? これは一体?」

「祝宴会場だが? こういった趣向が憧れだったのだろう?」

「はい。ですがまさか叶えていただけるなんて……」


 結婚式まで一週間。最終の確認を進める私は、祝宴会場だ、という場所に案内されて、驚きと感激で立ち尽くしていた。


 案内されたのは大きくて立派な中庭。普段城の建物に囲まれて無骨な雰囲気のそこは、花が沢山飾られて、とても華やかな雰囲気となっていた。


「庭師達が一世一代の大仕事だ、と張り切ってくれた。あとで労ってやってくれ」

「えぇ! それはもちろん。中庭が工事中だ、と聞いていましたが、まさかこんな風になってるなんて」

「他にもいろいろ考えてある。楽しみにしていてくれ」

「はいっ! 陛下」


 いろいろってなんだろう? 私はわくわくしつつ頷く。と突然陛下に両手を取られた。


「それでだ、そなたに言いたいことがある」

「私に……ですか?」

「あぁ、よく考えてみれば、私はまだそなたに求婚していない。ーーいや私は初日にしたつもりだったのだが、『あんなの求婚じゃありません! 世界が認めても私が認めませんっ!』とクララに叱られてな……まあ一理ある」


 そう言うと、陛下は私の手を握ったままその場にひざまずいた。普段見上げてばかりの陛下の目が私より下に来て、その懇願するような瞳に私はドキリ、とする。


「ほのか。そなたが『黒髪の乙女』だ、というのは関係ない。そなたが欲しい。私の妃になってくれるだろうか?」


 いつもよりもさらにキラキラと輝く陛下にそんな風に言われ私は少し固まる。が返事しないと、と思い直し、にっこりと笑みを作った。


「はい、陛下。喜んで!」


 もう随分慣れた膝を深く折る礼で応えると、陛下がギュッと私を抱きしめ、中庭を囲む建物のあちこちから歓声が聞こえる。どうやらたくさんの人がこの求婚劇を見守っていたようだ。


 幸せだけど、ちょっと恥ずかしい。そんな気持ちそのままに私は陛下の胸に顔をうずめるのだった。






 そうして迎えた1週間後。よく晴れた空の下で私は陛下と結婚した。城の中にあるそれはもう立派な神殿で、緊張で固まりつつ式を挙げて、その後は中庭へ。


 一週間前よりもさらに素敵に彩られた会場には、たくさんのお客様が集まって私達のことを祝福してくれた。


 向こうの世界の披露宴の習慣を持ち込んで大丈夫かな? と思っていたが、それは杞憂だったらしい。


 ブーケトスは結婚適齢期だ、という各国の王女様方に大変好評だったし、城のシェフが腕によりをかけてくれたウエディングケーキもとっても一目を集めてくれた。


 両親への感謝の手紙、はこの城でいつも私を支えてくれたハリエットさんと、彼女の夫で執事長のパーカーさんへーー本当の両親への手紙はそっと私室のテーブルに置いてきた。


 そうして祝宴も終わりに近づき、テーブルが移動させられて中央に大きなスペースが開く。ここからはダンスの時間だ。


 もちろんファーストダンスを務めることになる私は陛下と向かいあい、手を取り合う。と陛下がそっと私に囁いた。


「後ろを見てみるんだ、ほのか」

「後ろですか?」


 陛下の言う通り振り返った先。そこには信じられない光景があり、私は驚きに固まった。


「お父さん! お母さん! どうして?」


 お客様方の間でこちらへ手を降るのは間違いなく二度と会えない、と思っていた両親だった。思わずフラフラとそちらへ行こうとする私ーーが次の瞬間二人の姿はスッとかき消えた。


 えっ? と思いつつ陛下の方を見ると、彼は静かに両親がいた方向へ頭を下げている。そして姿勢を戻してから私にこう言った。


「……本当はダンスの間ぐらい招待したかったんだが、召喚術はやはりままならんな。すまない」

「いえ、そんな……一目会えただけでもう……」


 私は思わず涙ぐむ。


「お父さんとお母さんは……その、ここに来た、ということを覚えているのでしょうか?」


 突然別世界にきたら、死んだはずの娘が花嫁衣装を来ているのだ。現実感なんてないだろう。と考える私に陛下は微笑む。


「うむ……おそらく夢の中の出来事のように思っているだろう。だが、そなたの手紙は送ることが出来た。そなたがここにいることは信じてもらえるはずだ」

「え!? あれをですか?」

「あぁ、まずかったか? もちろん中身は読んでいないが……」

「いいえーーとっても嬉しいです! ただ、らしくもないことをいっぱい書いたので少し恥ずかしいな……って」

「感謝の言葉であろう? そなたの御両親も喜ぶ」

「ーーはい!」


 私の返事に笑みを深める陛下。


「……さて、そろそろ踊り始めなければならないな。みんなが待っている。良いか?」

「あっ、そうですね。よろしくお願いします」


 私がそう言うと、陛下が腕を引き、私達はゆっくりとステップを踏み始めた。


 前回よりもさらに重くて豪華なドレスだが、だいぶ慣れたのか今回はまだ一度も躓いていない。陛下と視線を合わせ、笑い合いながらクルリ、クルリと柔らかな芝の上を進む。


 曲の終わりに合わせて足を止め、それから膝を大きく折る礼をすると、あちこちからたくさんの拍手が降ってきた。


 愛しい人に笑いかけられ、たくさんの人に祝福されて、私はこの国の妃になる。


 お父さん、お母さん。私、とっても幸せだからね。

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