あら嫌ですわ。わたくし、真っ当な「悪役令嬢」でしてよ?
大陸でも一二を争う強大な王国の、貴族の子女の通う学園。
その卒業式で事件は起こった。
卒業生でもある、この国の第一王子がこともあろうに婚約者に対して「平民の少女を虐めた」と断罪を始めたのだ。
「おーっほっほっほっほっ!」
しかし、断罪された婚約者…彼女も学園の卒業生でありこの国の筆頭公爵家の娘なのだが、その名もオルキデーアという。その彼女は己を断罪してくる第一王子に対して不遜にも高笑いをした。
「な、何がおかしい!」
「だって、浮気を隠そうともなさらないんですもの!」
「は、はぁ?浮気?」
「第一王子殿下を、さも親しげにジェルソミーノ様…だなんてお名前で呼んで、腕を組んでしなだれ掛かって。第一王子殿下もそんなジプソフィーラさんを一つも咎めないでしょう?そんなご様子で浮気してませーん、は通りませんわー!あら?でもわたくしという王命に基づいた婚約をしている者がありながら、そんな不貞いいのかしらー!!!」
大仰な仕草で第一王子と平民の娘の「罪」を断罪し返すオルキデーア。
その場にいた貴族も皆平民を虐めたというオルキデーアより、婚約者がありながら不貞を働いた第一王子に非難を寄せた。
「くぅっ…し、仕方ない。まだ言うつもりはなかったが、良いよな?ジプソフィーラ」
「はい、ジェルソミーノ様っ」
二人は顔を合わせて何かを打ち合わせする。そして言った。
「ジプソフィーラはただの特待生制度で入学した平民ではない!聖女候補なのだ!そして学園の卒業後、つまりこの後聖女となる!」
その言葉に会場はざわつく。
「その女は我が国の聖女を虐めたのだ!」
しん…と静まり返る会場。
しかし。
「おーっほっほっほっほっ!」
またもオルキデーアの高笑いが響いた。
「何がおかしい!」
「その件につきまして、せっかくですから皆様の前でご報告ですわ!そのジプソフィーラ様を聖女と認定するお話、なかったことになりましたのー!!!」
その言葉にまたも会場がざわつく。
「ど、どういうことだ!?」
「平民という身分でありながら不遜にも第一王子殿下と不貞を働いたその女は、聖女には相応しくない!と教会に直談判致しましたわー!前々から不貞の証拠集めてましたしー!」
「はぁああああ!?」
「あとー、ジプソフィーラ様曰くわたくしって〝悪役令嬢〟なんでしょー?わたくし、第一王子殿下とジプソフィーラ様の会話はしっかりと調査しておりますのよー?で、悪役令嬢・ら・し・く」
彼女は高らかに宣言する。
「聖女の地位を奪ってやりましたわー!ただ貴女を引き摺り下ろすだけでなく、わたくしが聖女として認定を受けましたのー!」
「なんだとぉー!?」
勝ち誇るオルキデーアにジェルソミーノとジプソフィーラは顔を真っ赤にして叫ぶ。
「聖女って、だって!」
「ご存じないかしらー?わたくしも貴女と同等の光魔法の使い手ですわー!そこの第一王子殿下の妃となると聖女の仕事を両立できないからと辞退していただけですわ!婚約を〝そちらの不貞で〟破棄することにしましたので、改めて聖女として認定を受けますわー!」
わなわなと震えるジェルソミーノとジプソフィーラ。
オルキデーアはさらに続ける。
「あ、わたくしとの婚約が無くなった第一王子殿下は王太子にしないと国王陛下が仰っていましたわー!優秀な第二王子殿下が王太子になるんですって!第一王子殿下のことは放逐してやるとか仰ってましたわー!あとそちらの不貞での婚約破棄ですから両者に慰謝料請求致しますからよろしくー!」
その言葉にジェルソミーノとジプソフィーラは青ざめる。
がくがくと先程とは別の意味で震え出す二人。
「そ、そこまでしなくてもいいじゃない…!」
「そ、そうだ…!」
オルキデーアは嗤った。
「あら嫌ですわ。わたくし、真っ当な〝悪役令嬢〟でしてよ?」
ジェルソミーノとジプソフィーラはとうとう膝から崩れ落ちた。
ちなみに、ジプソフィーラをオルキデーアが虐めていたというのは概ね本当である。
自分の手は汚さず取り巻きたちにやらせていたのだが。
ともあれ、あれから卒業式は混沌としたまま急遽中止に。
オルキデーアは本当に聖女となり、ジプソフィーラはただの平民の娘のままだ。
ジェルソミーノは第一王子という立場すら奪われ、生殖能力を奪われた挙句に王家から放逐された。
ただの力ない平民となったジェルソミーノとジプソフィーラは、オルキデーアに請求された多額の賠償金に頭を抱えることとなる。
「おーっほっほっほっほっ!わたくし、完全勝利ですわ!」
「ご立派でございます、お嬢様」
彼女は別に、根っからの悪人ではない。
むしろ本来の彼女は、傲慢なところはあれどもお小遣いを積極的に貧しい人々のために寄付したり、光魔法を人のために使うことを厭わない善人だ。
だが、ジプソフィーラがジェルソミーノに「彼女を最近劇で流行りの悪役令嬢に仕立て上げれば良い」と言っているのを聞いて覚悟を決めて本当に〝悪役令嬢〟となったのだ。
取り巻きを使って苛烈にジプソフィーラを虐めたし、ジプソフィーラとジェルソミーノを徹底的に追い落とした。まさに〝悪役〟の所業を働いてみせたのだ。
それは、自分のためではない。公爵家の…大好きな両親や愛する弟のことを守るためだった。
オルキデーアは自分をバカにするのを通り越してあまりにも「我が公爵家をバカにしている」と思ったし、ジプソフィーラの目論見通りになり自分が断罪されれば最悪家族にも責が及ぶと考えて鬼となったのだ。
「完全勝利は気持ちいいですけれど、ちょっとばかり虚しいですわね」
「そんなお嬢様に一つ良いお知らせが」
「なにかしら」
そっと侍女が耳打ちする。
「お嬢様の憧れの方から、婚約のお申し出がありました。この国において聖女様もご結婚は可能。ご当主様は乗り気で、お嬢様の意思だけ確認したいと。如何なさいますか?」
それを聞いて彼女は叫んだ。
「ももも、もちろんお受けしますわー!」
「いやー、申し込んでおいてなんだが…お嬢ちゃん、本当にいいのかい?こんなおじさんで」
「もちろんですわー!王弟殿下本当に素敵ぃ…惚れ惚れしちゃう…イケオジすぎるぅ…好きぃ…」
「いやー、照れるねぇ」
オルキデーアは王弟である、親子ほども歳の離れたトゥリパーノに幼い頃から恋していた。
それを知るのはオルキデーアの家族とトゥリパーノ当の本人だけ。
オルキデーアはきちんと実らないだろう恋心を対外的には隠しきっていたが、トゥリパーノ本人にはどうしてもその熱い眼差しが伝わってしまっていた。
とはいえ人から見れば、オルキデーアはジェルソミーノにゾッコンだったように見えていたが。
オルキデーアは猫被りも得意である。
だが、今回の件で第一王子のしたことの尻拭いのため誰かオルキデーアを娶らないかと王族内で会議が開かれたので…オルキデーアの気持ちを知るトゥリパーノは思い切って立候補したのだ。
年下趣味だのなんだのと家族にからかわれたが、実際間違いでもない。
子供の時ならいざ知らず、学園の卒業を間近に控えた日にたまたま会った時まだあの熱い眼差しをくれるオルキデーアに年甲斐もなくときめいてしまったのだ。
それまではどうしても人を愛することができずに、わがままを通してまで独身を貫いていたのに。
そして今。
オルキデーアは変わらぬ眼差しをトゥリパーノに向ける。
トゥリパーノのオルキデーアに向ける眼差しもまた、同じ熱量を持っていた。
これから二人は、ようやく実った愛をお互いに貪り合うのだろう。
悪役令嬢は悪役令嬢らしく、特大のざまぁをヒドインにお見舞いしてやった後その先の幸せをきっちりと手に入れたのだ。
宗教系の家庭に引き取られて特別視されてる義兄に気を遣ってたら、なんか執着されていました
という連載小説を始めました。よろしければご覧ください!




