28ページ目 教室での三人の会話
メリークリスマス!
ということでクリスマスですね。しかし言ってみただけで特に何も意味はありません。
それにしても最近良いサブタイトルが思いつかない……。
結局、旅人が大食い大会に参加出来るようにするにはやはり知り合いを当たってみるのが一番だとかいう結論に達して、手分けをして大食い大会に参加しても良いと言う人を捜してみる事にした。
静かな教室で、俺は椅子に行儀悪く座り、一人の男と話していた。ちなみに教室には俺たち二人以外には誰も居ない。
「……で、俺か? すまないけど、俺も無理だ。大食い大会当日に部活の練習試合があるからなぁ」
「そういえばお前の部活って剣道部だったっけ? 鬼王寺」
「そうだよ。後、出来れば苗字で呼ばないで欲しいなぁ。剣って呼んでくれないか? 鈴音」
「分かったよ剣」
鬼王寺剣。それが今俺と話している男の名前だった。
俺と同じクラスで、身長は平均より少し高め。茶髪でそれなりに整った爽やか系の顔立ちをしている。それとなにやら『鬼王寺』という苗字で呼ばれるのが嫌らしい。
席が近くなせいもあって、俺とそれなりに親しくなった奴だ。
……俺がいつものあのメンバー以外で友人が居ないと思ったら、大間違いだからな? いやまぁ悲しい事に友達少ねぇけどさぁ。
「ま、俺のツテでも誰か参加しようとする奴が居ないか探してみるよ」
「あ、ありがとう剣」
そこで俺は一息置いて。
「……所で今更の事だけど、苗字の鬼王寺はひとまず置いといて、剣って名前もかなり変だよな?」
「……親のセンスだ。それでも鬼王寺よりは剣と呼ばれた方がまだ格好がつく分マシな気がするんだよ」
「親のセンスで剣って事は、もしかしたら楯も居たりするのか?」
俺は軽く笑いながら言う、当然冗談だ。
「………………………………………………………………………………………………」
「お、おい!? 無言か!? もしかしたら本当に居るのか!? いや盾と書いて『じゅん』と読むなら有り得ても流石に楯は……!」
「すまない。実は両方居るんだ!」
「マジか!?」
「あぁ、マジだ。大マジだよ。それだけじゃない。兄には鎧やら兜も居る」「うおおいっ!? なんだその武者鎧甲冑名前シリーズは!? まさか、他にも……?」
「き、気にしないで欲しいなぁ」
そこで剣の顔が引き攣る。
「それに、親の名前のセンスで困ってるのはキミもじゃあ無かったか?」
「うげ……まぁ俺もこの女顔と親が付けやがった『鈴音』っつう名前で女と間違われまくってんだけどさぁ」
「……確か、間違われる確率は99%ぐらいじゃあないか?」
「違う、95%だ!」
「大して変わらないような気がするけどなぁ」
「かなり違ぇんだよ。 4%も違うんだぞ!?」
「まっ良いか。95%だね……で、とりあえず話を戻そうか。こっちは俺の兄弟と剣道部の方を当たってみる事にするよ」
「宜しく頼む」
「まぁ、期待はしないで欲しいなぁ。剣道部の面子はまず試合で無理だろうし、俺の兄弟……矢弓姉さんは遠くに行ってるし、鎧兄さんは馬鹿だし。兜兄さんは最近忙しいし、他の弟たちも大食い大会に参加するにはちょっと心配だしなぁ」
「実の兄貴を馬鹿扱いかよ? そして鎧甲冑シリーズで新しく出て来たのは弓と矢で矢弓か……」
「兄弟ってそんなもんだよ。それに俺の兄弟は多いから、一人くらいは馬鹿が居ないと駄目だしなぁ。あと矢弓姉さんは鎧甲冑名前シリーズではかなりマシな方だ。……鐙なんて名前の妹も居るよ」
「鐙? 鐙ってまさかアレか。馬に乗った鎧武者の足を置くアレの事だよな? そんな名前のまで居るのかよ!?」
「あぁ、残念な事にな。うちは兄弟が多いから、その分マイナーというかマニアックな名前の鎧甲冑シリーズが増えるんだ…………。
まぁ、それでも家族がたくさん居るっていうのは良いものだし、そこら辺は実はほとんど気にしてないけどなぁ」
「ふぅん……そういうもんか。俺には兄弟がたくさん居る所か、家族が一人も居ねぇから良く分からねぇな」
「そういうものだよ……って家族が一人も居ない?」
そこで剣は驚いた顔をした。
…………しまった、失言だったか。『兄弟が』じゃなくて、つい『家族が』って言ってしまった。
まだ、学校で初めて会った奴らには一度も話した事のねぇんだけどなぁ。ちっ、面倒くせぇ。
……でも、しょうがねぇか。ここで切り上げても余計に厄介な事になる。
「……俺の両親は、ちょっと前に航空機の事故で二人とも死にやがったんだよ。
……俺の父方の祖父母は生きちゃあいるが、なにやら俺が生まれる前に俺のクソ親父と親子の縁を切りやがったらしいから、血こそ繋がってるものの家族じゃあねぇ。
だから俺には家族はいねぇんだよ」
「………………………………………………………………………………………………………………悪い事を聞いた。すまない」
剣が頭をゆっくりと下げた。
「別にもう気にしちゃあいねぇから良いよ。それに、家族はいねぇけど家族のような奴はいるから問題はねぇ」
「そう、か」
そこで会話が止まっり、俺は席を立とうとした所で、ふと俺の後ろのドアが開いた。
「やぁ、二人とも。こんな所で何を話していたんだい? ボクにも聞かせてよ」
それと同時に一人の赤い髪の女が入ってきた。名前は夢音。クラスは違うが俺の同級生だ。
「よう夢音。調度良かった。今からお前の所にも行こうかと思ってたんだ。実はな……」
「大食い大会参加の件だよね? 聞いてたから分かるよ」
「そうそう……ってなんで聞いていたのに尋ねてきたんだよ?」
「だってさ、会話のきっかけって重要だしね」
「いや意味分かんねぇよ」
「全く、夢音は時々訳の分からない事を言うなぁ」
最初に俺が突っ込んで、次に瞬が軽く笑いながら言う。
そこで、俺は剣の台詞に僅かな疑問を浮かべる。
「って剣? お前夢音と知り合いなのかよ?」
俺の記憶の中では、剣と夢音は一度も会った事が無いはずだ。
「あぁ。実は中学校が同じなんだ」
その言葉ですぐに俺の疑問は無くなった。
「そういう事だよ鈴音。……で、大食い大会の件なんだけどボクの方に心当たりがあるんだ」
「本当か夢音!?」
俺は食いつくように言う。
「うん、本当だよ。ちょっとしたバイト仲間なんだけどさ」
「そうか……ふぅ、安心した。なんか手当たり次第で駄目だったからマジで誰も駄目かと思っちまったよ」
俺は安堵して、胸を軽く下ろす。
そこに、夢音の声がさらに聞こえてきた。
「本当に、キミはよくそこまで友達のために動けるよ。なんでキミはそこまでかいがいしく世話を焼くんだい?」
「へ?」
俺は一瞬ばかし、言葉に詰まった。確かにその通りだ。普通ならここまでする必要はねぇ。だがなんで俺はここまで動く? 昔の俺なら間違い無くこんな事はしねぇはずだ。
「よく分かんねぇよ。理由なんてないかもな」
もしかしたら、ただ『昔の俺』から変わりたかっただけなのかもしれない。荒れていた『あの頃』からの脱却を望んでいたのかもしれない。
でも、そんな事は今はまるで考えていなかった。ただ友人として動いただけだ。だから分からない。
「……なるほどね。全く、自分自身が出ればそんなに頑張らなくても良かったのにさ」
夢音は明確に呆れたようなそぶりを見せ、やれやれと言った感じで首をふる。
「一度断っちまった以上、また参加するだなんて事は出来ねぇよ」
「それはまた変なプライドだなぁ」
横から剣が声をはさんできた。
「うっせぇよ。俺だって本当は意地っぱりだって自覚してるからな!」
そこで、クスリとした笑いが大きな笑いへと変化した。
***
「……鈴音は行ったか」
「行ったようだね」
鈴音は行き、教室に残ったのは剣と夢音の二人だけとなった。
二人とも、先程とは僅かばかし雰囲気が違っていた。まるでスイッチが切り替わったかのように。
「それにしても同じ中学校かぁ。良い言い分を思いついたね。剣」「お前が考え無しなだけだと思うなぁ」
二人ともクスリと笑う。
「ところで、ちょっと一つ聞いてもいいかな?」
「なんだよ夢音」
夢音は一拍置いた後、軽く息を吸い込んで発する。
「キミが槍館鈴音に干渉しているのは『ただの偶然』か、それとも『狙った』のか、どっちだい?」
それはとてもゆっくりとした、相手に見えない圧力をかけるような口調だった。
「ただの偶然だよ」
剣は圧力なんて関係無しに腕を軽く振って否定を示す。
「ふーん……まぁいいか」
一瞬だけ夢音は疑わしい目を向けてすぐに止める。
「信用無いなぁ俺は。俺だって学生だよ。友達の一人や二人、居てもおかしく無いじゃあ無いか」
「まぁ、そうだね……っとボクはちょっと用事があるからここら辺で行かせてもらうよ」
「あぁ、気をつけてな」
「そうするよ」
そして、夢音は静かに教室から出て行った。
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