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……だだだ黙って俺に愛されてろ! そっ、そそその……ききき綺麗な唇も、お前の歩んできた過去も、俺がぜぜぜ全部……ううう受け止めてやるからよっっっ!―②

 その瞬間、場の空気が一瞬で凍りついた。そしてこの場にいる何人かが俯く。

 状況から察するに、玉座を奪うためのソフィアの協力者たちだろう。

 母さんにそのことが見抜かれた動揺がひしひしと伝わってくる。


 ……いや、ちょっと待ってくれ! 何でいきなりこんな展開になるんだよ!?


 そしてソフィアが俺と結婚を目論んでいるだって!?


 たしかにさっき母さんが女は皆、俺に惚れていると思え、とは言っていた。


 だけどその中に妹が含まれているなんて思わねぇだろ!?


「ななな、何故お母様が私の計画を知っておられるのですか!?」


「……ほぅ、図星だったか。適当に鎌をかけたつもりだったのだが、とんでもないことを考えていたようだな。まぁ法に触れない範囲で精々頑張れよ。ソフィア(我が愛しの娘)。あと、王になるなら、そのあからさまなブラコンも、少しは改善した方が良いぞ」


 しまった、という表情を浮かべるソフィア。


 そして俺の方を見て火が出そうなほど顔を赤らめた。

 どうやらそのヤバそうな計画を母さんに知られたことよりも、俺のことが好きという気持ちを俺に知られた事実の方がよっぽどショックだったようだ。


 そして……


「もおおおおおおっっっ!!! お母様の、バカ、バカ、バカ、バカ、バカ、バカ、バカ、バカ、バカ、バカ、バカ、バカ、バカ、バカ、バカ、バカ、バカ、バカ、バカ、バカ、バカ、バカ、バカ、バカ――」


 ……ジタバタと荒れ狂い始める我が妹。


 さっきまでの理知的な王女の姿はどこへやら。そんなポンコツと化した我が妹を皆が言葉なく見つめた後、やがて視線は俺へと移動する。


 言わんとしていることはなんとなくわかった。この状況をどうにかしろと言いたいのだろう。


 えっ、これって俺のせいなの!? そう言われても、こんな状況収集できるやつなんかいねぇだろ……!


 ある意味、魔王を倒すこと以上の無理難題である。


 そんな魔王を倒した英雄ですら頭を抱える状況を鎮めたのは、予想外の人物だった。


「……落ち着け、ソフィアよ。私はお前の野望を否定しているわけではない。言っただろ? 私は人の強い想いは現実を創り上げる力を秘めているとな。そして、その強き想いを国民に認めさせた者こそが、次代の王として相応しいと私は考えている……」


 そう言い母さんは席を立つ。必然的に空白となった席に、この場の視線が集まった。


 周囲のどよめきを他所に母さんは続ける。


「正式な発表に関してはまだ先になるが、この一件が落ち着き次第、私は王の座を退こうと思う。……で、今一度問うがソフィアよ。お前にはどうしても叶えたい夢はあるか? 王になるということは、望みを叶えることに関しては最高の地位だ。お前がどのような方法でこの座を得ようとしていたかは敢えて問わん。だが、正攻法で己が夢を叶えると言うのなら、私はお前の夢を応援しよう」


「……え?」


 そんな母さんの発言を聞いて、ソフィアの瞳は大きく見開かれた。


 ちょっと待て、なんだこの流れは!? 堪らず俺は口を挟んだ。


「ま、待ってください!? 俺には婚約者がいるのですよ! それに、さっきまで俺とナターシャの行く末を見守りたいと言っていたじゃないですか!? あれは何だったのですか!?」


「それはそれ。これはこれ、だ。私はシュヴァルツとナターシャの関係が発展することを望むと同時に、シュヴァルツとソフィアの関係も応援したくなってしまったのだ。もしソフィアと添い遂げるのが嫌なら、お前が王になってそれを阻止すれば良いだけだ」


 ダメだ、話が通じない……!

 正直言って俺は玉座に骨質してはいないが、実の妹との結婚を受け入れることなんてできやしない。


 だから王選には出る。だけど、俺は記憶喪失であることを隠している身だ。

 王選が始まれば目立つことは避けられない。

 そうなれば俺が記憶を失っていることが国民に知られてしまうリスクも当然上がってしまう。


 ちくしょう、また厄介ごとが増えてしまった! 俺は一体どうすれば良いんだ……!?


「お兄様……」


 か細い声に引っ張られるように、俺はその方を向く。

 そこにいたのは、ソフィアだ。その瞳は不安そうに俺を見ている。


「私の好意がご迷惑なのは承知しております。でも……それでもっ!! 私は貴方を一人の男として愛する気持ちを抑えられないのです!」


 ソフィアの手が俺の手を握る。彼女の手は小刻みに震えていた。

 こんな少女が男の俺ですら気圧されそうになる母さんとあんな舌戦を繰り広げていたのか……。


「ソフィア……」


 俺は改めてソフィアの顔を見る。


 ……正直、俺とソフィアは似ていない。


 まぁ血の繋がりがあっても、似ていない兄妹なんてごまんといる。


 そのことが、ソフィアが俺に惚れてしまったことと関係しているのだろうか。

 まぁこれは俺の単なる憶測だ。真実はソフィアにしかわからない。


 そんな彼女は覚悟を決めた表情で俺を見る。どうやら俺にどうしても伝えたい想いがあるようだ。


「……こほん! これから私たちは、玉座を巡るライバル同士です。そして今から私が行うのは、私から貴方への宣戦布告(愛の告白)。……しかし私は16年間この想いをひた隠しにしてきました。つまり、その想いを言葉にするには並々ならぬ勇気が必要となります。そして意気地なしの私には、その勇気がまだ足りておりません。なので、かつてのお兄様のお言葉をお借りして、その足りない勇気を補いたいと思います……」


 そして顔を真っ赤に染めながら……


「……だだだ黙って俺に愛されてろ! そっ、そそその……ききき綺麗な唇も、お前の歩んできた過去も、俺がぜぜぜ全部……ううう受け止めてやるからよっっっ! ですわ!!!」


 妹よ。それは普通に告白するよりもずっと恥ずかしいと思うぞ……。

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