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恐怖のシュヴァルツロス症候群!?

 あまり認めたくはないことだが、記憶を失くした今の俺にとって、昔の俺への印象は悪くはなかった。


 そりゃあ多少鼻につくところはある。

 だけどああ見えても世界を救った英雄だし、めちゃくちゃモテるくせに婚約者一筋だ。

 だから国民一人一人のことも、大切に思っている。そう思い込んでいた。


 親衛隊の隊長の、あの発言を聞くまでは……。


 ――ゴミを見る目。


 聞くまでもなく、SMプレイとかのアレだ。

 愛すべきアレスティア王国の国民に対して、一国の王子が向けていいものではない。

 そもそもどう言った経緯で、そんな約束を交わしたのだろうか。


 事情を知っていそうな護衛は目をハートマークにして気を失っているし、もう一人の俺はナターシャ関連以外で話しかけてくることはほとんどない。

 結局、この状況を何とかできるのは自分だけというわけだ。


 ……初めて訪れた試練のハードルが高すぎて辛い。


「も、もちろん覚えているとも! ただ、俺は何分忙しい身だ。どういった経緯で、そのような約束をしたのかをはっきり覚えていないんだ。その時のことを詳しく教えてくれないだろうか……?」


 とりあえず、今は少しでも会話を広げて時間を稼ごう。

 流石に俺も今すぐこの人たちをゴミとして扱うことはできない。

 心の準備が必要だ。

 永遠に準備ができないかもしれないけど……。


「もしかして、殿下……あのときのことを覚えてないんじゃ……」


 やべぇ……! 流石に今の質問はまずかったようだ。

 どうしよう、めっちゃ怪しまれてる。

 もしかしたら俺の記憶喪失がバレるかもしれない。

 かくなる上は……


「……はぁ? なんでこのオレ様が、テメーらの話をいちいち覚えてやらなきゃいけねーんだよ。ピーピー喚くな。聞かれたことだけ素直に答えてろ……!」


 開き直りだ!

 多少言い方がきついのは、ゴミを見るような目を望むような女子たちだからだ。

 これがプレイの一貫であると解釈してくれたら好都合。

 俺はそれに賭けた。

 そしてこの勝負――俺の勝ちのようだ。


「……プ、プレイはもう始まっていたのですね!!」


「ふん……。わかればいい」


 親衛隊たちは一斉に膝を折った。

 ……ああ。なんだろう、この無意味な戦いは。


「……わかりました。お答えします。あれは親衛隊の隊長としてのコネをフル活用して、殿下にお会いした時のことです。こうして会えることは滅多にない。せっかくだから無理のない範囲で願いを叶えてもらおう。そう思った私の口から出た言葉が、殿下にゴミのような目を向けてもらうことでした。しかし御心の広い殿下は、『せっかくなら、シュヴァルツ親衛隊ごとまとめて蔑んでやろう』と仰ってくださり、こうして馳せ参じたというわけです」


 そう言って爛々と目を輝かせる隊長に、俺は内心めちゃくちゃドン引きしていた。

 この人、普通にしていたら結構可愛らしい女性なのに、なぜこんな歪んだ方向に進んでしまったのだろうか。


 そしてなによりも俺も俺だ!

 まとめて愛してやるみたいなノリで、まとめて蔑むとか聞いたことないぞ……!


「ちなみにこれが終わったら、私との約束もちゃんと叶えてくださいね。殿下の靴の底を舐めさせてもらうという約束を」


「……えっ?」


 隊長の隣にいる隊員が、いきなりとんでもないことを言い出した。


「私は、未来に生まれるであろう殿下と聖女様のご子息との婚約の約束をしました。早く未来の王子様のお顔を見せてくださいね! 楽しみに待ってますから!」


「ええっ!?」


 今度はまた別の隊員もだ。一体全体、どうなってるんだよ!?


「私も――」


「私も――」


「私も――」


 端を切ったように、口々に己の欲望を述べ始める親衛隊たち。

 しかも漏れなくその内容はやばいものばかり。

 彼女たちの言葉は、ただのナルシストだと思っていた記憶をなくす前の自分への認識を歪めるのに十分なものだった。


 ただでさえナルシストを演じるだけで手一杯だというのに、これから俺はどうなってしまうのだろうか……


『……限界のようだな、青二才』


「ぬわあ!?」


 脳裏にもう一人の俺の声が響き、思わずのけ反ってしまう。

 親衛隊が不思議そうな顔を俺に向けるが、慌てて咳払いで誤魔化した。


『急に出てくるな、びっくりするだろッ! てか、なんで今まで黙ってたんだよ!』


 脳内で文句を言うと、もう一人の俺は小馬鹿にしたように鼻を鳴らした。

 俺のくせに、ムカつくやろうだ。


『お前がどうやってこの危機を乗り越えるかを見てやってたんだよ。まぁ想像以上にダメダメだったから、こうして助けに来てやったのさ』


『なんだよ、それ……。元はと言えば、お前が変な約束したせいでこうなってるんだろ!?』


『言っておくが、俺は親衛隊たちにそんな約束をした覚えはない』


『じゃあ、親衛隊たちが嘘をついているっていうのか?』


『いや、おそらく彼女たちは、本気で俺と約束したと思い込んでいるのだろう』


『おいおい、ちょっと待て! 言ってる意味がわからないんだが……?』


『目に見える俺が全てではない。現実の俺は一人だが、俺への恋心が報わ(シュヴァルツ)れない乙女たち(・ガールズ)の夢の世界に出てくる俺は、俺への恋心が報わ(シュヴァルツ)れない乙女たち(・ガールズ)の数だけいるってことさ』


『つまり親衛隊たちは、夢と現実の区別がつかなくなってる……ってこと!?』


 何だそりゃ、無茶苦茶じゃねーか!?


『前にも似たようなことはあった。……シュヴァルツロス症候群。お前も名前くらいは知っているだろう? 世の乙女たち(母さん除く)が、血の涙を流したあの出来事を……』

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